大仏建立
平安の都に降り立った博利をまっていたのは、民家が転々とする小さな集落群だった。
「平安京はどっちだ。」
博利は見つけた一村人に尋ねた。
「都はいずこに?」
「また、平城京にもどるそうじゃ。なんとも、あっちへいたりこっちへいったりと忙しいことじゃ。」
村人は眉間にしわをよせながら困ったように語った。
天平17年、各地を転々としてた都が平城京へもどり、奈良の大仏造りが本格的に着工し始めたときである。
「少々、もどりすぎてしまったか。」
平安京ができるまでにはまだ50年ほどあった。平安京ならば、色々な国から人が訪れたはず。しかし、この時代にはまだそれほど多様な外国人は訪れてはいなかった。
博利は、異国のものとして、奈良の大仏建立に加わった。博利は、月を見上げ、一人物思いにふけりながら、詩を読んでいた。
「・・・君を思へども見えず渝州に下る。」
「李白殿の峨眉山月の歌ですな。」
一人の渡来人が声をかけてきた。民俗学をやっていたお陰で、漢詩の読めた博利は、徐々にではあったが、渡来人のなかに打ち解けて言った。こうして、まだ日本に知られていない香木を徐々に集めていった。博利にとってこれは幸いだかっかもしれない。誰も知らない雑木は、高価でもなく、また盗まれることも無かった。
大仏が出来上がると、博利は残った渡来人たちとともに岩屋を造った。そして、中に集めた香木を入れ、密閉した。中には複雑な仕掛けがされている。鉄など無い時代。そのからくりが動かなければ、岩屋は開かない。このころ博利はたまたま猟師が捕らえた狐の子を貰い受けた。その狐はどことなく玉緒に似ていた。