別離
香木さがしは、あとまわしにした。先に、伊香保で封印のための勾玉を作る。陰・陽それぞれの玉には玉緒の妖力をできるだけ注ぎ込まねばならない。
「残念だが、香木はあきらめよう。富士の封印に向かわねばならない。そこで、静かにくらしながら余生を送ろう。」
博利はくやしそうだった。玉緒はずっといいだせなかったことがあったが、博利の様子を見てついに決心した。
「妖狐の最後の力として、一度だけ時間を超えることができます。私のお腹には、あなたとの子供がいます。ですから、わたしはいけません。あなただけであれば、どの時代へでも送りましょう。」
突然のことではあったが博利は歓喜した。が、玉緒とはなれるとなれば、もう二度とあうことはできないだろう。まして、子供もいるとなれば。
「過去にいけば、香木を得ることができるかもしれません。未来へいけば、仲間と会うことができるかもしれません。」
玉緒の寂しそうな声に博利の決心は鈍りそうになった。このままここにいても、人間の博利はすぐに寿命が尽きてしまう。
「いや、過去へ行こう。わたしが行っても、戦いとなれば役にたたない。それなら、神器を完成させよう。」
「わが子、玉博にひと目合って、だいてやりたかった。」
そういい残すと、博利は玉緒と別れ、一人、平安の都へと旅立った。残された玉緒は身重の身で富士へと向かった。