ほうろくだま
次に、京都の地へとおもむき、法六のための香の材料をさがした。平安の書物を読みあさった。そして、香には四季があることを学んだ。
「獣にどれが効くものやら。」
博利は悩んだ。
「ならば、私に効くものを選んでください。総力戦となれば、妖狐一族が駆けつけましょう。」
入手可能ないくつかの材料を探した。その結果、最低6種類の材料を探さねばならないことがわかった。
どうやって、香を焚くか。材料さがしの傍ら、博利は考え続けた。屋外では香炉で少しずついぶすわけにもいかない。焙烙火矢のように鉄砲を使えば遠く飛ばせるが、火薬の強烈なにおいが、繊細な香の香りを消し去ってしまう。足軽たちが縄を縛りつけた丸い玉を持っていた。
「これは、焙烙玉といいます。縄に火をつけて、敵に投げつけます。」
香玉にしておけば、香炉がなくても焚くことができる。『ほうろくだま』。まさに法六にふさわしい。
やがて、豊臣の天下になり、戦は減った。六種の材料は、伽羅・安息香・白檀・丁子・鬱金・桂皮。しかし、その多くが外国からの輸入品であった。しかも、すべて権力者たちによって独占され、勝手に取引すれば処罰されるのである。
そのころ怪僧の噂があった。飛鳥のころより生きている『八百比丘尼』の伝説。不老不死の尼といえば法海もしかり。香木をもとめながら、若狭の地にやってきた。
「ひさしぶりじゃな。」
法海だった。
「わしは、玉藻前によって異界に落とされた魂の片割れじゃ。やつが隠し持っていた。二つの魂が出会えば、わしの寿命は尽きる。やつのねらいを知るわしは、さらなる昔へともどった。まもなく、この地にもう一方がやってくる。ついにふたつは同じ時代にそろう。しかし、それではやつを止めるすべがなくなる。わしは、異界へと戻ることにする。」
博利は香木が入手できないか尋ねた。
「あいにく、いまのわしには力がない。平安の時代にもどれれば、大仏建立のために渡来人が多数やってくる。彼らにあたれば香木の入手も可能じゃ。」