神器
仏徒の啓太には武器は扱えない。封印に必要な勾玉を残そう。本来なら次は鏡だが、薬売りの法六には、香のほうが適している。
そして、またぎの権蔵の扱える神器。剣は、初心者の権蔵には扱いにくい。間合いの長い槍のほうがよい。しかし、これも練習が必要だ。もっと簡単に使えるものはないか。
同じような形状で、またぎの必需品といえばナタである。獣道を進む彼らはナタで枝打ちをし、草刈りをする。ただ、ナタは柄が短く、間合いがとれない。
柄の長いナタを作ろう。しかし、問題は権蔵に確実に渡る方法だ。槍を抜くには引く以外に方法がない。しかし、ナタは振り下ろして使うもの。もし、ナタが食い込んで抜けなくなったらどうするか。無理に引っ張らずに、柄の尻をたたくだろう。下からたたけなければ、後ろからたたいて刃を押す。つまりは、引くのではなく押すはずだ。武士なら刀を折るという発想はない。しかしまたぎの彼なら、そこまでの思い入れはないはず。抜くためには刃を折らねばならないようにしよう。
博利が千年間も考え続け出した結論だ。武器は決まった。しかし、問題はどこに置くかだ。獣がいつよみがえるかわからない。神器が彼らの手に渡る前に、復活しては元も子もない。これらを適切に配置し、すこしでも長く、獣を封印し続ける必要があった。
怨霊が嫌う物は、妖である玉緒が一番よくわかっている。しかし、どこに配置するかの知識は持ち合わせていない。本体眠るのは御嶽山。しかし、それだけでは、この国を亡ぼすほどの脅威はない。日本一高い新高山は離れすぎている。ならば、御嶽山に近く火山である富士山。御嶽山と富士山は同じプレート上にあるため、地下でつながっている。富士から取り込まれた妖気はそのまま御岳山の地下に蓄積されていく。もし、この二つが同時に爆発したら、日本は真っ二つになる。その亀裂は異界にまで達する可能性は十分にある。
富士と御嶽山を同時に封印する。しかし、それは容易なことではない。妖気の取り込み口である富士は邪気を近づけないように近くで封印する必要があった。この時代にまともな地図はない。博利は民俗学調査のために今まで旅してきた場所を地図に書き起こした。自分が覚えている地形から、4つの地点を割り出した。