古代の日本
妖狐、玉藻前の呪いによって不死となった異界で暮らす女僧法海の元、見習い僧の啓太、薬売りの法六、またぎを生業とする権蔵、民俗学研究をする青年の博利とともに、母、玉藻前のかたきである邪悪な怨霊、獣の復活を阻止しようとした玉緒だったが。
母の仇とばかりに襲い掛かった、妖狐の玉緒。しかし、相手の得体の知れぬ巨大な力によって、はるか過去へと飛ばされた。玉緒はせめてもと、体を借りていた珠緒を博利に託し、時空のひずみへと消え去ろうと覚悟を決めた。
これでいいのだ。自分は狐。人である博利には人である珠緒がお似合いなのだ。
「玉緒。」
博利の華奢だがあたたかい手が、玉緒の尻尾をつかんだ。玉緒は驚くと同時に、うれしかった。
「いけない。彼までどこの地へいくかわからない危険に巻き込むことはできない。」
玉緒は尻尾を振って、彼の手を振りほどこうとした。しかし、博利の手は指一本とも離れることは無かった。
二人は、時間をさかのぼり、見知らぬ土地へと飛ばされた。
そこは、稲作がすっかり定着した日本。田んぼの中に突如現れた、狐と異国の服を着た若者に、人々は驚いた。
「米作りの神様が、お狐様を伴って、降りていらっしゃったぞ。」
人々は、農作業の手をやめ、彼等を村長の家へと連れて行った。
「今は驚いているが、言葉も通じない。そのうちに殺されるかもしれない。」
博利はせめて狐の玉緒だけでも逃がそうとしたが、玉緒も頑固者。博利を残して逃げるなどできるわけもなかった。村長は神に仕える女だという。
「怪しい連中を連れてきました。もしや、異国の密偵かもしれません。」
いかにも屈強な大男に連れられて、高床の家の前へとやってきた。
「ごくろう。そのものと直接話したい。しばらく下っておれ。」
力強い女の声が、家の中から聞こえた。
家の扉が開いて、中から一人の薄衣に身を包んだ、女性が現れた。
「しばらくじゃの。」
あきらめ気味にうつむいていた博利は、その声に顔を上げた。
「あなたは・・・、法海殿。」
博利たちの後に、時空の彼方に飛ばされた一行は未来へと向かったが、法海だけがさらなる過去へと飛ばされた。
「わしは、さらに数百年昔に飛ばされた。わしは、玉緒の母、玉藻前の呪いで死ぬことのない身だ。おぬし達にあうために、ひたすら生き続けておる。」
一同は話し合った。過去に飛ばされた博利達が、未来に飛ばされた仲間に会うことはないだろう。玉緒の妖力もあまり残っていない。彼等に会うことができるのは、法海だけだ。稲作が始まったとはいえ、まだろくな技術もない時代。かれらの役に立つものもあまりない。
「私が博利さまをつれて石になりましょう。さすれば千年ほど眠り続けることができます。私の妖力もすこしはもどりましょう。」
玉緒はそういうと、博利とともに法海のもとを去った。
「あのものたちはいかがなされました。」
先ほどの大男がもどってきた。
「神の使いは、この地の繁栄を約束されて、天界もどられた。」
大男が、法海の言葉をそとにいる者たちに伝える。
「おー!」
と歓声があがる。
「卑弥呼様、万歳!」