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魔星伝  作者: 落ち武者
黎明編
7/70

7話 叫びと誓いと悪意

 その懸命な叫びを聞いて、ゼニスは魔槍を捨てた。

 ガ・ラウが驚きの表情を見せる。

 その隙をついて、その巨体を押し倒す。

 ガ・ラウはゼニスの行動が理解できないだろう。

 仮にマウントをとったところで魔槍のないゼニスの攻撃ではどうやってもガ・ラウのその硬い皮膚に傷をつけることはもうできない。

 なりふり構わなければだ。

 体から魔力を発散させる。

 だがその流れは今までとは違い、ただ暴れるように荒れ狂うだけだ。

 触れたものは、どんどん崩れ落ちっていく。

 ガ・ラウを助けようとした配下のオークは一瞬で灰となって消え去った。

 そしてそれは絡み合う二人も例外ではない。

 ガ・ラウの無骨な鎧も熱い皮膚も強靭な体毛も徐々にゼニスの魔力に侵され、崩れ落ちていく。


「貴様!マサカ!」

「我慢比べだ。魔星。私はしつこいぞ!」


 ゼニスもまた徐々に灰となっていた。その進みはむしろ、ガ・ラウよりも早い。

 これは攻撃などではない。ただ暴走しているだけだ。

 これがシャドウが迫害される最たる理由。暴走したシャドウはまるで呪いのように灰となって消え去る。

 シャドウの中では禁忌とされるそれをゼニスは狙って起こしていた。


「ハナセエエエエ!」


 振りほどこうと暴れる。

 だがいくら殴打されてもゼニスは手を放さない。

 アクダの叫びに、ゼニスは胸を熱くさせていた。

 まだ死ねない、やり残したことがたくさんあった。

 徐々に崩れ落ち、左足の先がぼろりと崩れ落ちた。

 弟と妹の顔が浮かぶ。

 続いて左足首が崩れ落ち、右足も先から崩れ始めた。

 二人と一緒に世界中を回るのが夢だった。

 左手も浸食され始め、左足は膝より先が全て崩れ落ちた。

 アクダと二人を合わせてみたい。きっと弟とは良い友達になる。

 ガ・ラウはさらに激しく暴れる。押さえつけようとするが、だめだった。

 振りほどいた右腕でゼニスを殴りつける。だがその腕は灰となり、崩れ落ちた。


「ガアアアアアアアア!」


 ガ・ラウは狂ったように叫びだした。

 死の恐怖に耐えかね、恐慌状態に陥ったのだ。

 まだだ、まだ死ねない!

 あの己を救った小さな少年に、未来を残してやりたいと、何より強くそう願った。

 才能がある。心の強さもある。なにより、寂しい、少年。

 どうにかして、彼の未来を切り開いてやりたかった。


「私は、死ぬわけにはいかないんだ!」


 左腕が崩れ落ちて、それでも自分に負けないように叫んだ。

 そのゼニスの決死の表情に恐れおののいたガ・ラウははただ振りほどきたくて、無防備に立ち上がった。

 それが勝敗を分けた。

 煌めく白銀の剣が流星のように魔星ガ・ラウのコアを貫いた。


「俺を、忘れんな」


 アクダの投擲した魔剣は的確にガ・ラウの力の源であるコアを破壊し、その命を奪い去った。

 もうわずかでガ・ラウはこの世から消え去る。


「許サンゾオオオオ!コノ餓鬼ガ‼」


 足が崩れ落ち、這いずり回りながらも、ガ・ラウはアクダに向かって叫ぶ。


「必ズアノオカタ方ガ貴様ラヲ根絶ヤシニシテクレル、絶対ニダ!震エテ待ッテイロ!」


 そう怨嗟の言葉を吐き捨てて、魔星ガ・ラウは灰となって完全に崩れ去った。






「アクダ、大丈夫か?」

「平気、ゼニスは?」

「平気だ」

「そっか」


 そうやって二人で笑いあう。

 平気なんて嘘だ。二人ともぼろぼろだ。

 アクダは腹がえぐれて何か出てるし、ゼニスは左腕と左足がなかった。

 それでもおかしくなって二人で転がって大きく笑っていた。

 今死ねたらきっと気分がいい。


「もうここで死ぬかもしれない」


 こんなのは戯言だ。きっと死なないからこそ言える。


「馬鹿を言うな。これからもっと楽しいことがあるさ。それを知らないのはもったいないぞ」

「そっか。それもそうだな」


 アクダはまだ何も知らないのだ。大切なことを何も。

 オークたちはガ・ラウが力尽きると同時にクモの巣を散らすように逃げていった。

 とらわれていた人もいつの間にか逃げ出していた。ここにいるのは二人だけだった。


「助かった。お前のおかげだ。でもどうしてかばった?」

「だって、死にそうだったから」

「そうか」

「へへ」

「なあ、アクダ。身寄りはないんだな?」

「ないって。どうしたんだよ。今さら」

「いや、なら」


 少し躊躇いつつもゼニスはこちらをみた。


「私のところに来ないか?一応これでも私は―――」

「行く。俺はあんたについていく」

「最後まで聞いてからにしろよ………」

「そんなの聞く必要はないさ」


 傍にいられるだけでこんなに温かいんだ。ついていかない理由がない。


「ゼニス、誓わせてくれ。俺は強くなる。もうみじめな思いをしなくてもいいように。自分で大切なものを選べるように」

「そっか」

「そんで、あんたのそばにいるよ」


 そう言ってじゃれつくアクダをゼニスは宝物のように抱きしめた。







 魔王城にていくつもの影が集っている。

 そこにうごめくのはいずれも強力な魔物たち。ガ・ラウを捨て去った側の魔族たちであった。

 彼らの中心にはうごめく大きな漆黒の球体。その周りを添うように一つの星が回っていた。

 無星の魔族たちはその光景に震えるか、怒りに業を煮やすかしていた。だがその場を支配する上位種たちは娯楽の種が見つかったと、ただ楽しそうに笑うのみだった。

 そんな中場違いなほど艶やかな声が響き渡る。


「なに?ブーちゃんがやられたの?」

「はい。詳しいことはこれから調べますが、探知魔法によると十二勇士の連中が出張ってきたかと」


 十二勇士、その名を聞いた瞬間魔族たちは沸き立つ。それもそうだろう。これまで彼らがいくら挑発しても、臆して結界に入ろうとしなかった腰抜けどもと思っていたのだから。


「ふうん」


 立ち上がる音。一つじゃない。いくつもだ。


「みんなどこ行く気?」

「知れたコトを。そいつをぶっ殺しに行くのサ」「無論私も」「足りめえだろうが」「………」「これは競争ですかな」「はあ?てめえさんざん美味しいとこ取ってんだろうが。譲れ」「嫌です」「ここで一つ落としとくのも悪くねえな。俺の配下のための座が空く」「は!犬っころが。おとなしくあの老いぼれと腰でも振ってなさい」「ああ?死にたいって言ってんだな?」


 辺りはすぐさま喧々囂々の乱闘騒ぎになる。

 個人的にはこのまま眺めていたくもなったがそれはいけない。まとめ役としては収めるしかない。

 パンと、手を打ち鳴らし注意を引き付ける。

 他にもちらほらと動きたそうな気配。このままでは娯楽に飢えた連中が一斉に動き出してしまうだろう。


「ざ~んねん。今回は私の仕事。今は大事な仕込みの途中。あそこを任されているのは私でしょう?ブーちゃんも一応私の部下だし」

「は!よく言うぜ、兄弟で殺し合いさせといてよ」

「いいじゃない。死んでないんだし」


 今は大事な大事な仕込みの途中。でも、だからこそ自身も娯楽に飢えていた。それに周りの連中に任せれば計画など簡単に破綻してしまう。


「丁度いい玩具がみつかるかもね。さあて、遊びを始めましょうか」


 そう言って女―――五星将クイーンサキュバスのリリスは件の戦士を追うことに決めた。

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