67話 断罪
立ち並ぶ12勇士の中俺は跪いて首を差し出していた。
あのあと学園に戻った俺を迎えたのは、大規模な歓迎、ではなく取り調べだった。
気づけば拘束され、アイリスやゼニスと話す間もなくこうして引っ張り出されていた。
ここはアルド―学院のすぐ傍にある教会だ。
俺はそこで聖女を中心とした12勇士の人たちに尋問を受けていた。
「その話に嘘はないのか?」
「だから何度も言っているでしょう。この者は魔に身を落とし、我が従者ハイドを殺害した。即刻打ち首すべきです」
その聖女の言葉にゼニスがすかさず反論する。
「それはこの子が高位の信奉者との戦いに臨んだからだ。その結果洗脳を受けたのだ。貴様の言い分を考えれば、何よりもまず、魔星召還の生贄などになった自分を責めるべきだと思うが?」
「私は魔に身を委ねてはいません。一緒にしないでいただきたい」
「そうだな、敗北して結局全く役に立たなかった貴様と比べるなど、アクダに失礼だったな」
二人の舌戦、というよりほとんど口喧嘩の様相を呈してきた尋問に俺はただ首をうなだれるしかない。
「お前たちの言いたいことは分かる。少年に非がないこともな」
ゲンレイが二人を諫める。
ユグトは会話に参加する気はないようでただ行く末を見守っている。太陽のレリーフが刻まれたステッキを持つ者は名をトグユというらしいが、今は外で邪魔が入らぬように見張りをしているらしい。
「だがこの少年が罪を犯したことも事実。そしてマリアンヌ、貴様が失態を犯し、学院の生徒教師、合わせて74名に犠牲を出したのも事実だ」
そう。遠征に参加したのは生徒106名。教師10名。護衛2名。そのうち生徒63名。教師10名。護衛1名があの死の森の戦いで命を落としたのだ。
交流があった者でも多くの者が死亡、中には死体すら見つかっていないような奴も多くいた。
シュレル教官、レゾル教官、ウイジャイ、そして途中でパナラットも姿が見えなくなったらしい。ちょうどゴルゼスと戦っていた時に信奉者が乗り込んできたときだ。その際彼女はマルイに攫われたとジャスミンが涙ながらに言ってきた。ガンモもその際に殺されたようだ。
結局中の良かった連中で生き延びたのはジャスミンと佐助のみだ。後はちょっとした顔見知りも見な死んでいた。
「……」
「お前たちはこれを償わねばならん」
「私はこれより一年の無償奉仕を行います。私の治癒能力は世界一。それで上役で攻める者はいなくなるでしょう」
聖女マリアンヌはあらかじめ決めてあったようでよどみなく答える。
「卑怯者め」
ゼニスの吐き捨てるような声。
マリアンヌは何も答えず、俺に話を振ってくる。
「さあ、あなたはどうしますか?まあ、最もあなたに70余名の命を償えるような活動ができるとは思いませんが」
そう言って勝ち誇ったように笑う。
「………」
俺が何も言い返さないことに気をよくしたのか、聖女は俺のすぐ前に立つ。そして頭を低くして俺と視線を合わせる。
恨みつらみのこもった怨霊のような眼。
当然だ。俺は彼女の仲間を殺したのだから。
だが聖女の顔は俺の目を見るとすぐに不機嫌になる。おそらく覚悟を決めた目をしているからだろう。
そのまま俺の顔につま先を叩き込む。
鼻がつぶれ、血が流れだす。
「ハイドの痛みはこんなものじゃなかった!」
そう言って暴れ出そうとする聖女をユグトが押さえつける。
「死刑だ!貴様は何があろうと絶対に死刑だ!」
聖女は押さえつけられてもなお喚く。
俺の超速再生は健在で血もすぐに止まった。
「……」
「何か、言うことはあるか?少年」
ゲンレイが確かめるように俺に問いかける。
「何もない。覚悟は決まっている」
「待て!この子罪の肩代わりなら私がする!」
「黙ってろ、ゼニス。これは俺の問題だ」
俺をかばおうとしたゼニスを遮る。
もとより覚悟していた。
何より左頬の刻印がおかしい。
脈動が以前より力強く、俺に大きな力をよこしてくる。これではいつあのように暴走するか知れたものではない。
自分のことだからこそよくわかる。きっと俺の体内では魔石の生成が始まっている。
「アクダ、お前……」
「それでいいのか?少年」
「ああ。死ぬ覚悟はできている」