49話 戦い
すみません、投稿遅れました。
「だあああ!」
セセラギは俺の連撃を余裕を持ってかわす。
だがそこにアイリスの魔法が重なり、隙を作らない。
風の矢がセセラギを襲う。
「甘いわ!」
セセラギが右腕を振るうと袖から泥の触手が風の矢を弾く。
左腕からも同じように触手が伸び、魔法を打ち終わったばかりのアイリスを襲う。
その前に出るアクダ。ぎりぎりでガードをする。
衝撃のあと、アイリスもろとも弾き飛ばされる。
「ごめん」
「馬鹿たれ、こういうときはありがとうだ」
アイリスの氷の精霊の力を警戒しているのか必要以上に近づこうとはしない。
「強えな」
口から出た血を拭いつつ、思案を巡らせる。
「そうだね」
体術はたいしたことはない。禍々しい魔力を感じるが魔族ほどではない。ただあの泥の触手がとにかく厄介だった。あれで攻撃と防御の両方をこなす。死角からの攻撃にも対応してくるので俺には攻め手がなかった。
そして雪芽の有効範囲を見切っているようで不用意に近づいてこない。
再び泥の触手が襲い来る。
慌てて飛び退いてかわす。
逃げているばかりでは話にならない。
セセラギからは獰猛な笑み。
「どうした?このままではお前たちもお友達と同じ運命をたどることになるぞ」
ウイジャイの顔が浮かぶ。それとまだ見えない佐助の顔も。
友達になったばかりだ。詳しいことなど何も知らない。たかだが数ヶ月の仲。
だからこそ、負けるわけにはいかなかった。
「ほれほれ、どうした。アストレアの忌み子よ。ただの名前倒れか?」
挑発してくるセセラギ。頭に血が上る。
「……温存はできなさそうだね」
そういうとアイリスの周りには雪芽、シルフィー、ウンディーネ、サラマンダー。計四体の精霊が現れる。
それらがアイリスを取り囲むようにくるくる回る。精霊たちから溢れ出た淡い光がさながら舞台のようにアイリスを照らしあげる。
「おお、なんと美しい。これは儂も本気をださないとの!」
懐から、禍々しいのに澄んでいる、そんな矛盾した赤黒い魔石を取り出す。
「魔星の力、とくと見よ!」
セセラギの魔力が別物のようにうねる。
魔力がセセラギを覆い、まるで獣人のように毛深くなる。さらには首の根元から左右に二本。まるで枝のように頭が生える。
三つの頭。犬のような体毛。枯れ枝のようだたった肉体が、若く強靱なものに生まれ変わる。その姿は学園で習ったとある魔族に酷似していた。
「地獄の番犬、ケルベロス。確か、五星将にゴルゼスとかいうのがいたよな」
「たぶんその眷属なんだと思う。―――でも、あれくらいならやれる!」
四体の精霊が一斉にセセラギを襲う。
氷が、風が、水が、炎が。四つの属性による波状攻撃。
見ればアイリスの顔色が悪い。さすがに四つの同時使用は体に負担をかけるのだ。
だが止めなかった。
「アイリス、合図を出せ。突っ込んでとどめを刺す」
自分にできるのは一瞬の好機を見逃さない事だけだ。
視線を交わす。
ふっと魔法がやんだ。
「使って!」
手のひらに冷たい魔力を感じる。手を開けると、アイリスの魔法による氷の槍がすっぽりと収まる。
それを握りしめ、泥の触手で防御しているセセラギに肉薄する。
さあ、どうでる。
新たな魔法を唱えるか、それともかわすのか。そのあふれる魔力と強靱になった肉体ならどちらも可能だろう。
だがどちらであろうとアクダは対処できる心づもりだ。
氷の槍を突き出す。
だが何も反応しない。いやな感覚はするが、ここで引く事に意味はない。
槍が腹から背へ一瞬で突き抜ける。
「凍れ!」
アイリスが叫ぶと同時に、氷の槍から魔力があふれ出しセセラギは一瞬で氷像と化す。
そしてそのままぴくりとも動かなくなる。
「やった、のかな?」
「あっさりしすぎてるな」
奇妙な静けさが辺りを支配する。当然これで終わりなどとは思えない。あのクイーンサキュバスと戦った時の事を思い出していた。こういう手合いは相手を驚かせることに全霊を込める。
そっとアイリスの傍による。
「伏せろ!」
アイリスの頭を押さえつける。泥の触手が目と鼻の先を通り過ぎた。
だが同時に足下が沼と化す。
このままでは二人が共倒れだ。
俺はアイリスをまだ沼になっていないところに放り投げた。
「アクダ!」
「なんだ、これ。動け、ねえ」
絡みとられるように泥が体に纏わりついてくる。そしてそれだけではなかった。虚脱感。
沼は徐々に俺から魔力を吸い取っていく。
「なんだ、かかったのはおぬしか。つまらん」
ふっと氷像の横に立つセセラギ。
「どういうことだよ」
まやかしか、あるいは幻術かと一瞬思う。だがそれはない。アイリスにその手の魔法は効かないからだ。
「ふぇふぇふぇ、まあ、このまま吸い殺させてもらおうかの」
吸い上げられる量が多くなった気がする。
このままではあっという間にミイラだ。
泥と接する部分からまるで自分が液体にでもなったみたいに吸われている感覚だ。少し精神汚染を受けたときと似ている。
落ち着け、思い出せ。
ゼニスとの訓練で自分の内部の魔力を制御すべは身につけていた。
それを応用して自分の魔力を引き戻す。綱引きのイメージだ。
「む」
セセラギの顔が歪む。
「無駄な抵抗を」
膜だ。自分の体内に内と外を分けるイメージで魔力の膜を張れ。俺の血の一滴たりともやるつもりはない。
「ならこうするまでだ」
泥の触手で俺の体を持ち上げる。
「があああ」
そのまま触手で締め上げられる。
「シルフィー!」
風の刃が泥の触手を切断する。
「雪芽」
泥が凍りつき足場ができあがる。そこに着地する。一旦距離をとる。
「助かった。それにしても、あれはどういうことだ?」
アイリスと並び立つ。セセラギは何がおかしいのか虚仮にするように口をゆがめるだけだ。
「分からない。少なくとも、君が刺したのは幻術とか分身とかそういうのじゃないよ。紛れもない実体だ」
「訳が分からない」
「大丈夫。そういう相手なら僕の方が向いてる」
「なら次は俺が陽動だな」
「任せたよ」
「ああ」
拳を突き出す。
首をかしげたアイリスに苦笑いで教える。
「こういう時は拳をぶつけるのがお決まりなんだよ」
「そうなんだ。いいね、それ」
こつんと拳をぶつけ合った。




