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魔星伝  作者: 落ち武者
黎明編
4/70

4話 戦い

 目的の街についた。

 現在魔族領と呼ばれているところはかつてイスタンシア王国と呼ばれていた。

 その王国の北方最大の街。そこには魔星百八が一、ジェネラルオークのガ・ロウが居を構えているらしい。

 ゼニスは街に入り、宿に腰を据える。

 そこでアクダはゼニスからこれからの予定について聞かされた。


「私の標的がその魔星ガ・ラウの討伐だ。」


 魔星。それは魔物の中でも魔王より特別な力を渡された百八の魔族を指す。あるものは傲慢を。あるものは堕落を、あるものは老いをつかさどる。魔王が封印されて百年近く。百八つの内討伐されたものはゼニスの話を聞く限り両手で数えられるほどだそうだ。それも後から生存が確認されたものがいたりと信憑性が薄い。

 アクダは大人たちから魔星とは不幸の象徴だと聞かされていた。出会ったものはただ蹂躙されるのみだ。少なくとも魔族領の人類にとって魔星とは死と同義だった。


「むちゃだろ」

「仕方ないんだ。殺るしかない。それに、自信はある」

「分かった。俺もついていくよ。俺も戦うからな?」

「いや、その必要はない。おそらく一騎打ちになる」

「一騎打ち?」

「ああ。ガ・ラウは極めて好戦的な魔族でな。決闘を挑まれたら必ず答えるそうだ」

「………」

「そんな顔をするな。案外何とかなるものさ。」

「けどよ………」


 ゼニスはこわばった顔で笑う。


「それに私は強いさ」


 強がりだと分かったが、アクダにはどうすることもできなかった。

 そこで宿屋の外が騒がしくなる。獣のようなうなり声に逃げ惑う人々の声。


「これは一体?」


  今度はゼニスがわからないようだ。だがアクダにはこの声がなんなのかよくわかった。


「人拐いだ‼」


 その瞬間ゼニスは宿から飛び出す。アクダも慌てて後を追う。

 そこに広がっていたのは地獄だった。

 いくつもの強靭な体格のオークが老若男女とわず襲いかかっている。ある者は嬲られ、ある者は食われ、ある者は縄で縛られている。

 魔力を拳に込め殴り付ける。


「逃げろ!」


 渾身の力を込めたはずなのにピクリともしない。

 教われていた少女を背後に庇う。

 泣いていて立ち上がれない。


「おい!立て!」

「わ、わたし。お父さんが」


  振り向いて無理やりたたせる。アクダよりも背は高い。顔を見る。そしてすぐ傍に臓物をまき散らした明らかにこと切れた男が一人。


「もう死んでる!今は逃げろ!逃げて、力をつけろ!」


  そうしてようやく立ち上がったオークを指差す。


「仇を打てるように!」

 それでも躊躇っているのでアクダは少女を逃げていく人の波の方へ突き飛ばす。少女はごめんなさいとつぶやくとすぐに見えなくなった。

 視線を巡らすとゼニスはアクダよりもずっと強そうな装飾品を着けたオークと戦っていた。きっと上位種なのだろう。


「1人で殺るしかないよなあ!」

「ブオオオオオオ!!」

「来いや!ばけもんが!」


 ゼニスとの訓練を思い出す。思えば実戦で使うのは初めてだった。

 獣のように身を低めて暴れる。

 俊敏だけはアクダの方が上だ。

 速さで翻弄して、タコ殴りにする。


「なんだ!やれんじゃねえか!」


  だが暴れたオークの拳に当たってしまう。


「ごは!」


 甘かった。素の力が違いすぎた。

 ぶっ飛ばされて転げる。

 一発当てられただけでほとんど動けなくなる。圧倒的な身体能力の差が魔族と人との間にはあったのだ。

 殺気を感じとっさに転がるようにかわす。

 だが別の個体が回り込んでおり、追い討ちをかけられた。

 動けなくなったアクダを何が面白いのか手を持ち上げてつり上げられる。

 こんなものか!俺はこんなものなのか!

 ただのオークに負けてしまうのか。

 一瞬あきらめがよぎる。そんな己を恥じ、心を燃やす。

 違う!これは心の弱さだ。弱いやつは死ぬ!心の弱いやつから死んでいくんだ!心が折れない限り俺は死なねえ!

 オークはアクダをいたぶるように何度も殴ってくる。

 逆に殴り付けるオークの手をつかんでやった。

 オークが戸惑ったのが分かった。

 それは明確な隙だった。

 頭に魔力を集中させる。


「だらああああ!」


 付け焼刃の魔力コントロールで呆けた面に頭突きをかましてやった。

 ぶ、もおおう。と弱々しく呟いて崩れ落ちた。


「どうだ、見たかこんちくりょうめ!」


 ふらふらになって崩れ落ちる。

 そこに仲間を倒されたオークが怒り狂って襲ってくる。

 体は動かない。だが、死ぬまで諦める気はなかった。

 やってやる、その意思を込めて血に付したまま怪物をにらんだ。

 わずかにオークがひるむ。

 その瞬間オークの首が宙を舞った。血が噴水のように流れる。


「大丈夫か!」


 ゼニスに引き起こされた。また助けられたしまった。

 平気さと答えようとして、ゼニスの方に顔を向けると、その後ろにはおびただしい数の魔物の死体。見渡せばアクダがやっと一匹を片付けている間に他のすべての魔物を片付けてしまったようだ。

 ゼニスの手には血に染まった美麗な白銀の剣が握られている。名のある名剣なのだろう。すさまじい圧迫感を持っていた。

 まだ差は途方もなくあるようだった。助けられた、足を引っ張ってしまったことがひどく「悔やまれる。それでも気丈にふるまう。


「ああ。平気。なんとか、かましてやったさ」

「そうか。………しかしヘッドバットでオークを仕留めるなど初めて聞いたぞ」

「すげえだろ」

「バカたれ。これからは何匹も同時に相手にしなくてはならないんだ。あのような戦い方で満足するな」

「わかったよ………」


 見ればわずかな間だったのにずいぶんと荒れていた。


「………酷いな」


 ゼニスがポツリとつぶやく。


「こんなもんさ。俺の故郷もこうなったよ」


 短い時間だったけど攫われたやつもたくさんいるはずだ。ここの人間にとって魔族はすなわち災害なのだ。ただ蹲って過ぎるのを待つしかない。


「何とかして、王国に連れて行けばいいのだが………」


 すまないとさびしそうにゼニスは呟いた。


「そんな顔するなよ」

「そうだな」


 アクダとゼニスの間に気まずい沈黙が訪れると、物陰から幾人かの住人が現れた。


「助かったのか?」

「あんたたちは一体?」


 今まで隠れていただろう人たちが現れる。

 ゼニスは外套を大きく翻して吠えた。


「私の名はゼニス・バラク。魔を滅すために選ばれた戦士だ!」 


 ざわめきが広がる。だが疑わしげな表情をしていた人たちもゼニスの凛とした顔を見ると、誰もが見入っていた。

「私たちは戦う。勇気あるものよ、我が旗に集え!私はこれより魔星が一つジェネラルオークをうつ」

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