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魔星伝  作者: 落ち武者
学院編
32/70

32話 昔話

 始めそれに気づいたのは生まれたてのアイリスを抱え上げた助産婦だった。

 アイリスのチャームの魔眼。それに魅了された彼女はそれを独占したくてたまらなくなったらしい。魅了にかかってしまった彼女はあろう事かそのまま逃げだそうとした。直ぐに近衛兵により取り押さえられたがアイリスのその異常な魔眼の力は王宮に広まることになった。

 そのため直ぐにこんな提案が成された。

 だが当然アイリスの母親は反対する。

 アイリスの母親への王の寵愛はなみなみならぬ物があったため何とか処分は免れたがその代わりにアイリスはその生涯をとある塔の中で過ごすことにされた。そこから一歩も出ることは許されない。

 それでも疎まれながらも最愛の母や妹それに時たま会う姉と平和で暖かい日々を送っていた。

 だが10歳の頃からアイリスは奇妙な夢にさいなまれる事になる。

 始めは些細なことだった。次の日の朝食。天気。そんな些細なことだが、それらを夢に見るようになったのだ。そのうち、自分には魅了の魔眼以外にも不思議な力があるのだと気づいた。

 母に伝えても心配される事は分かっているのでアイリスはそれを誰にも伝えずにいた。

 だが、ある日見逃すこのとできない夢を見ることになる。

 自分の母が何者かに襲われる姿を夢に見たのだ。

 慌てたアイリスはその事を護衛の兵士に伝えてしまう。

 丁度母親は王や何人もの他の妃と一緒に外遊に出かけていた。

 時はすでに遅く帰ってきたのは物言わぬ骸となった母親だった。

 どういう経緯があったのかはアイリスは知らされていない。

 それでもアイリスに不思議な力があることは漏れ、詳しく調べてみると計三つの魔眼が開花していた。

 これを気味悪がった官僚たちによりますますアイリスの立場は悪いことになる。

 なお悪いことにアイリスは魔眼の力を制御し切れていなかった。

 だがその力は非常に強大な物。それを捨て去るのはあまりにもおしい。

 そこで成されたのが一つの禁術。

 人命を使った魔道具の作成であった。

 贄は妹のアイシア。

 これにより作られた魔道具がいまアイリスがつけている呪布だった。


「妹を元に戻して欲しくば、その魔眼を使いこなして見せろ。その時にはお前に王位を譲るのもやぶさかではない」


 以後、アイリスは妹を元の姿に戻すため魔法の研究に邁進することになる。                                         




「と、まあこういうわけ」

 

 食事はすでに済み、辺りは冷え込んできた。

 アイリスがわずかに震えている。


「その布が、妹なのか」

「うん、そうだよ。世界で一番大事な、僕の妹」


 アイリスはそう言って手に持った呪布を愛しそうになでる。


「そうか」


 アクダはなんと言っていいのか分からない。

 ただ、こいつのために命を張ってもいいと思っただけだ。


「妹を救うには僕が魔眼を使いこなせるようになるしかない。それと、分からないんだ。どうして母さんが死んだのか。自分でも探ってみたけど知ってる人間が少なすぎる。知るためには権力がいる。それこそ王様にでもならないとね」


 そう言ってアイリスは笑った。


「僕の話はこんな所かな。ごめんね、今まで黙っていて」


 そう言いながらアイリスは再びその魔眼を呪布で覆う。

「そんな気軽に話すようなことでもないだろ。この話知ってるのは?」

「全部知ってるのは姉さんと、王様と継承順位が上の人だけ。多分5人もいないと思う。オルガン兄さんは知らない」

「そうなのか」

「うん。そもそも王様が次がせる気があるのって継承順位1,2,3だけなんだ。他の子には話してないこともたくさんある。僕ももしかしたらってだけで見込みはほぼないんだ」

「それなのにこの仕打ちか?」

「王族なんてこんなものさ。いや、みんなかな?自分の事を自分で決められない」


 そう言ってアイリスは自分の目に手をやり呪布をなでる。


「いやになっちゃうよね、ほんと」


 アクダは気づいていた。

 その呪布からは生命を感じない。

 アクダは人の死になれている。誰かが死んだら悲しい。涙も流すだろう。だがそれで終わりだ。

 アイリスは人の死になれていない。誰かが死んだら悲しい。涙を流す。そして諦めきれない。

 もしかして踊らされているだけなのだろうか。

 伝えるべきだろうか。お前の妹は戻らない。だまされているだけだと。

 アクダはそう考える。

 辞めた。

 魔族領でこうやって死んでいった人間を何人も見てきた。操られた恋人。連れ去られた娘。それらを取り戻すために無謀なことをした人など星の数ほどいる。

 そして成功した奴は見たことがない。

 それでもアクダはそのあがきを尊いと思った。アクダは自分のためにしか戦った事がないからだ。


「そうだな、ほんと、いやになる」


 この一風変わった王子が満足するまで付き合ってやろう。アクダはそう心に決めた。

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