1話 出会い
初投稿のため読みづらい点も多々あるかとは思いますが、読んでいただけたら幸いです。
それは死の波だ。当たり一面に異形の魔族が闊歩している。
その先頭にいるのは常人なら見ただけで卒倒するような覇気と恐れをまとった存在。羊の頭にやせぼそった男の体がついている。
それが腕を一振りするだけで草木は枯れ、人は朽ちていく。
その前に躍り出る三人の英雄。身の丈ほどの大剣を背負った青年。宝玉がはめ込まれた杖を持つ老人。神聖な雰囲気を漂わせる女。
これは一つの英雄譚。そして歴史。この後どうなったかは余人の知るところではない。ただその結果だけはありありと人の文明に刻まれた。
第一話
アクダは腹が減っていた。
浮浪児だ。今の時代何も珍しくない。
飢えて飢えて仕方がなかったので獣を襲っていた。やるかやられるかだ。シンプルでいい。
だがほどなくすると獲物はいなくなっていた。
アクダを恐れた獣たちが皆逃げ去ってしまったのだ。
仕方なく山を降りる。躊躇いはあった。なぜなら平地には怖い怖い魔族がいるのだから。
出会っては逃げてを繰り返した。
だが獲物はなかなか見つからなかった。飢えは限界だ。覚悟をきめ、次に来たものがなんであろうと襲う。
来たのは女だった。外套を纏い隠してはいるが、それでもその育ちのよさを察することができるほど品があった。
躊躇いはある。それに何かひりつくようなものを女からは感じる。それでもアクダは一度決めたことを曲げるつもりはなかった。
「がああああ!」
咆哮とともに襲いかかる。
気づいていなかったのだろう。
殺れる!
完全な不意討ち。このまま錆び付いた斧で女の頭をかちわる!
その頭蓋に斧が触れる直前まで女はアクダに気づかなかった。
斧がフードに触れてようやく女がこちらを向く。驚愕を浮かべている。
遅え!恨むんならこんなところをほっつき歩いていた自分を恨め!
相手が常人なら、これでアクダはひとまず飢えをしのげるだけの
そう、相手が常人ならばだ。
かん高い音がなる。
アクダの振り下ろした斧は、いや、木の棒は半分で途切れていた。
同時に気づいた。
自分は狙う相手を間違えたらしい。
まあいいや。これで終わりだ。感慨もなくそう思う。
ただできることなら、一度くらい、ただ生きるためでなく何かに血を燃やしたかったなとそんな、どうでもいいことを考えながらアクダは倒れ行く。
不完全燃焼の思いとともに、肩から血が吹き出し、アクダはゆっくりと力尽きた。
今より百年ほど昔魔界から来た魔族により人類は滅亡の危機に瀕していた。
それを救ったのが当時の勇者、聖女、魔導士の三大英雄だった。勇者が魔王の力を削り、魔導士が魔王に封印を施した。
それにより人類は何とか滅亡の危機を免れた。
しかし三人の英雄も完璧ではなかった。
配下の魔族を取り逃がしたのだ。しかし勇者と魔導士に戦う力は残されていなかった。聖女はただ一人残る力を振り絞り結界を張った。そして聖女が張った結界は魔族を大陸最南端の地域にに押し込めた。
その結果人々は滅亡を免れた。そうして勇者、魔導士、聖女は人々から英雄と称えられることとなった。
だがしかしその陰で、聖女が張った結界の内部にいた国の人間は結界から出られない魔族に一方的に隷属を強いられることとなった。
以後人の歴史では魔王およびそれらの配下を天に浮かぶ凶星になぞらえて魔星と呼び、人類を救った三大英雄にその配下を十二勇士と呼んだ。
それから百年近くたった現在、魔族領となった地域の最北端。人類領との境目で一人の女が野営をしていた。
女の名はゼニス・バラクと言った。白銀の髪に顔に大きな傷が入っており、見る者に恐怖をあたえるがよく見ればなかなかに美麗な人物であった。この者人類の中で現代でもてはやされる英雄人類十二勇士であった。今は故合ってその称号を剥奪されたが、その実力は折り紙つきであり、自身も己の才覚に誇りを持っていた。
だが、複雑な思いとともに足元を見下ろす。そこには襤褸のような少年がいた。
そう少年なのだ。恐らく自身の最愛の弟や妹よりも少し幼いくらいだろう。
そのあまりにもみすぼらしい姿に胸がつまる
それでも手加減できなかった。気配探知のスキルも持ち、敏捷も、魔力感知もずば抜けている自分がだ。なんの装備もしていないような、困窮のただなかにあるを傷つけたのだ。まいてや見捨てられた民である魔族領の子供に対してだ。
「それはダメだな」
懐から澄んだ青い液体のつまった瓶を取り出す。その透き通るような青にはどこか神聖さすらあった。
迷いはない。
「死なないでくれ。少年。私はお前に償いをしなければならないんだ」
こくこくと青い液体が少年のなかに染み渡っていった。
これが落ちた12勇士ゼニス・バラクと獣のような少年アクダとの出会いだった。