【冬の童話祭2017参加作品】キューイと冬の女王様
「冬の女王様……。遊んでくれて、ありがとう」
一体の雪だるまが、涙を流すかのようにボロボロと崩れ落ちていき、彼女の手の中で、冷たい雫となりました。
冬の女王様は、手のひらに残った数滴の雫を胸に抱くと、塔のてっぺんで泣き崩れました。
彼女は、いつも春になるとこの悲しい別れを経験します。
毎年。
毎年。
毎年──……。
※
この世界は、4人の女王様の魔法によって季節が巡っていきます。
春の女王様は春の魔法を。
夏の女王様は夏の魔法を。
秋の女王様は秋の魔法を。
そして、冬の女王様は冬の魔法を。
かわるがわる塔のてっぺんで季節の魔法をかけ、世界に春夏秋冬を訪れさせるのです。
人々はそんな女王様たちを敬い、そして崇めました。
女王様たちもまた、人々のために季節を巡らせることに誇りを持っていました。
ですが、冬の女王様だけはいつもゆううつでした。
毎年毎年、春になるとつらい別れがあるとわかっているからです。
彼女が作りだす冬の魔法。そのはずみで生み出される一体の雪だるま。
意志を持ち、まるで子どものように冬の女王様について回るその魔法の副産物は、とても可愛くて冬の女王様にとってはまるで我が子のようでした。
そのため、春になると溶けて消えて行く雪だるまたちを見送るのがとても切ないのでした。
できれば、別れたくない。
死んでほしくない。
ですが、どのように魔法を調整しても雪だるまは生まれてしまいます。
毎年毎年、彼らは冬になると必ず生み出されてしまうものなのでした。
そして今年もそんな冬がやってきました。
「では、冬の女王。これから三か月、頼みましたわ」
「ええ、秋の女王。これまでの三か月、お疲れ様でした」
塔のてっぺんでお互いに膝を曲げて会釈をしながら入れ替わる二人。
秋の女王様が塔から出ていくのを確認すると、冬の女王様は「はあ」とため息をつきました。
できれば、このまま春になってほしい。
いっそ、冬の季節なんてやめてしまいたい。
そう願わずにはいられませんでした。
ですが、世界の四季を保つには、冬を訪れさせなければなりません。
冬の女王様は唇を噛みしめながら、冬の魔法を唱えました。
するとどうでしょう。
瞬時に、塔を中心に雪が降り始めました。
雪は瞬く間に世界中に広がり、あっという間に一面を銀世界へと変えました。
この瞬間、人々は「冬がきた」と認識するのでした。
そして、冬の女王様の隣には、いつものように雪だるまが生まれました。
手のひらサイズの、小さな小さな雪だるま。
雪だるまは、さらに小さな黒い瞳で冬の女王様を見上げています。
「やっぱり今年も生まれましたね」
小さな雪だるまは、きょとんとした顔をしていました。
冬の女王様はじっとその可愛らしい目を見つめ返しながら思いました。
(ああ、この子も三か月後には消えてしまう)
そう思うと、その身が切り裂かれるほど心が痛みました。
そして、そんな小さな雪だるまを眺めながら冬の女王様は誓いました。
自分の魔法で生み出されたこの小さな命。
三か月の短い間しか生きられないけれど、その間は精一杯の愛情を注いであげようと。
冬の女王様は小さな雪だるまを拾い上げると、言いました。
「私は冬の女王。これから三か月、あなたと一緒にこの塔で世界に冬を届けましょう」
そう言うと、その小さな頬っぺたにキスをしました。
すると小さな雪だるまはブルブルと身体を震わせ、顔を真っ赤に染めながら冬の女王様のまわりをぴょんぴょんと飛びはねました。
「キューイ、キューイ!」
無邪気に飛び跳ねる雪だるまの可愛さに、冬の女王様の口元が綻びます。
「あらあら、かわいい声」
いままでのゆううつさが嘘のように消えて、彼女は笑いました。
毎年の別れはつらいものですが、ひととき冬の女王様はそのつらさを忘れてこのかわいい雪だるまとの出会いを喜びました。
「今までの子とはずいぶん違って活発ですね。名前は何にしましょうか。そうね、キューイと鳴くからキューイと名付けましょう」
「キューイ!」
小さな雪だるまは、冬の女王様の言葉がわかっているのか、嬉しそうにそのまわりをグルグルとまわりました。
冬の女王様はそんなキューイの姿に
「ふふふ」
と笑うのでした。
雪だるまのキューイとの生活は楽しいことばかりでした。
塔のてっぺんで小さな雪雲を作って雪を降らせると、その雪で一緒に雪像を作ったり、新雪で絵を描いたり。さらに床一面を氷にして一緒に滑ったりもしました。
そのたびに「キューイ!」と鳴きながら冬の女王様にべったりと寄り添うキューイの存在は、家族のいない彼女にとって何物にもかえられないものでした。
そんなキューイは、数週間もすると言葉がしゃべれるようにもなりました。
「冬の女王様、今日は外に行ってこんなもの拾ったよ!」
身体も冬の女王様の膝ぐらいにまで成長しています。
キューイが拾ってきたのは、大きな大きな松ぼっくりでした。
「まあ、大きい。こんなにも大きな松ぼっくりがあったなんて」
「まだまだ、たくさん落ちてたよ。クリスマスツリーも、これで飾れるね!」
「そうね。今年は盛大なクリスマスになりそうね」
ニッコリと微笑む冬の女王様に満足しながら、キューイは塔から飛び出していきました。
それを微笑みながら見送る冬の女王様。
彼女は、冬が終わるまで塔から出ることはできません。
ですので冬の間、地上がどうなっているのか冬の女王でありながらわかっていませんでした。
ですが、今年は好奇心旺盛なキューイが外に出ていろいろと拾ってくるので冬の女王様はいつもワクワクしながらキューイが戻ってくるのを待ちました。
(こんな毎日が続けばいいのに)
その想いは日が経つにつれ、次第に大きくなっていきました。
ですが、時は無情にも過ぎ去っていきます。
冬が終わりに近づくにつれ、キューイの身体は徐々に小さく、そして動きも弱々しくなっていきました。
今までのように、外に出てお土産を持って帰ることもできません。
塔のてっぺんで、台座に座る冬の女王様の膝の上に乗ることしかできませんでした。
「冬の女王様……」
キューイはか細い声で冬の女王様に語りかけます。
「なんですか、キューイ」
冬の女王様は、キューイを慈しむように抱きしめると、尋ねました。
「冬の女王様は、冬が終わっちゃうとこの塔から出ていっちゃうんだよね……?」
「ええ。それが掟ですからね」
「冬の女王様は他の季節の時はどこにいるの?」
「誰も知らない場所で、次の冬が来るまで待ち続けます」
「寂しくないの?」
「それは寂しいですよ。誰もいない氷の館でじっとしているのですから。でも、それは他の女王も同じです」
「だったら、僕も氷の館で冬の女王様と次の冬まで一緒にいるよ……」
キューイの言葉に冬の女王様はキュンと心が痛みました。
「残念ですが、それはできません。なぜなら、あなたは春とともに消えてしまうからです」
その言葉に、キューイは見上げるように小さな瞳で冬の女王様を見つめました。
「僕、消えちゃうの……?」
冬の女王様は一瞬ためらったものの、きっぱりと言いました。
「ええ、消えてしまいます」
キューイは動揺するでもなく、ポツリとつぶやきました。
「そっか……。僕、消えちゃうんだ……」
冬の女王様は心が切り裂かれる思いでした。
まるで他人事のように言うキューイの言葉があまりにも悲しくて切なくて。
ぽろぽろと涙が零れ落ちました。
その瞬間、冬の女王様は決めたのです。
冬を終わらせないと。
このまま、塔の中でキューイとともに過ごそうと。
それは、季節を巡らせる女王の掟にそむくものでしたが、冬の女王様は掟よりもキューイを選択したのでした。
「いいえ、いいえ。キューイ、あなたは消しません。消したりするものですか。あなたは私の大事な子どもですもの。決して、消したりなどいたしません」
「冬の女王様……?」
小さな黒い瞳で見上げるキューイに、冬の女王様は言いました。
「冬は終わらせません。このまま、ずっと二人で塔の中にいましょう。ずっと、ずっと……」
キューイは物言いたげな目をしましたが、冬の女王様の胸の中が心地よくて、何も言いませんでした。
ただ一言。
「うん……」
そう答えたのでした。
※
春がやってきました。
いえ、正確には暦の上では春といったほうが正しいでしょう。
世界は冬に閉ざされたままでした。
冬の女王様は塔からちっとも出ようとせず、そのため春の女王様が中に入れずにいたのでした。
「これは何事か」
ちっとも冬が終わらないことで、国の王様はまわりの重臣たちに問いかけました。ですが、誰ひとり答えられる者はおりません。彼らも、なぜ冬の女王様が塔からお出にならないのかわからないからです。
「誰か様子を見て参れ」
国王の命令に、多くの兵士が塔に赴きましたが、誰ひとり塔の入り口を開けることができませんでした。
このままでは冬が終わらず、食べ物が尽きてしまいます。
困った王様は、お触れを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない。』
このお触れに、多くの人々が挑戦しましたが、誰ひとり成功しませんでした。
どんなに頑張っても、凍りついた塔の入り口から先に進めないのです。
いよいよ打つ手のなくなった王様。
頭を抱えていると、一人の吟遊詩人がやってきて言いました。
「王様、わたくしめに行かせてください」
一見、みすぼらしい風貌をしたその吟遊詩人に王様は怪訝な顔をしました。
顔は青白く、身体もヒョロッとしていて頼りなさそうです。
ですが、他に方法も思いつかなかった王様はその吟遊詩人に託しました。
「頼む。見事、冬を終わらせて春を迎えることに成功したら好きな褒美を取らせよう」
その言葉に、吟遊詩人は首をふります。
「褒美はいりません。移りゆく季節、それを取り戻したいだけです」
そう言って、吟遊詩人はお城の兵士をお供に連れていくことなく、たった一人で冬の女王様のいる塔へと向かいました。
高くそびえる塔は白く凍っており、入り口は堅く閉ざされておりました。
吟遊詩人は背中に背負ったハープを雪の上に置くと、岩の上に腰かけて浪々たる声でハープの調べにそって歌い出しました。
「めぐるめく 季節の奏で
世界の均衡を保つ 4つの力
緑の大地 豊饒の海
銀の大地 黄金の海
世に平穏と安寧をもたらすは4人の女王
命の芽吹きを司る春の女王
命の輝きを司る夏の女王
命の尊さを司る秋の女王
命の神秘を司る冬の女王
季節はひとの歴史を作り
世界は永久の時を紡ぐ」
朗々たるその声は、風にのって大空へと舞い上がり、塔のてっぺんまで届きました。
※
そのころ、キューイは台座に座る冬の女王様の膝の上で夢を見ていました。
自分そっくりの顔をした雪だるまたちが、悲しそうな顔をしている夢でした。
「そんなに悲しそうな顔をしてどうしたの?」
キューイは雪だるまたちに尋ねました。
彼らは悲しそうな顔をしたまま答えます。
「季節が、止まっちゃった……」
「時間が、止まっちゃった……」
「世界が、止まっちゃった……」
キューイは首を傾げました。
「どういうこと?」
その問いに雪だるまの一体が答えます。
「冬が終わらないせいで、春がやってこないんだ」
キューイは言いました。
「知ってるよ。冬の女王様が冬を終わらせないって言ってたから」
すると、別の雪だるまが言いました。
「それは女王の掟に背くことだよ。季節は巡らせないといけないんだもの」
「でも、冬の女王様は約束したんだ。僕を消さないって。ずっとこの塔にいようって。だから、冬をずっと続けさせるんだって」
その言葉に、雪だるまたちは首をふります。
「君は消えないよ」
「……?」
「ちょっとの間、お別れするだけさ」
キューイは目を丸くしました。
「僕、消えないの?」
「そうさ。僕らのように、春になったら冬の女王様の中で永遠に生き続けるんだ」
「僕らのように? わからないな。キミたちは誰なんだい?」
「僕らはキミさ。前の年のキミ、前の前の年のキミ、さらに前の年のキミ。僕らは毎年、生まれるんだ」
「僕は毎年生まれるの?」
「そうだよ。だから安心して。身体は溶けてなくなってしまうけど、消えるわけじゃない」
それは冬になると消えてしまうと思っていたキューイにとって驚きの言葉でした。
「ほら見てごらん、冬が長引いたせいで世界は真っ白だ。冬の女王様も冬の魔法を使いすぎて苦しそう……」
「冬の女王様が!?」
「終わるはずの冬を長引かせているから、身体に負担がかかってるんだ。はやく、冬を終わらせて……」
その言葉と同時に、パアッと世界が明るくなりました。
眩しいと思う間もなく、気が付けばキューイは目を覚ましていました。
いつものように冬の女王様の膝の上に乗っています。
(不思議な夢……)
そう思ったのもつかの間。
キューイはいつもと様子が違うことに気が付きました。
見上げると、自分を膝に乗せている冬の女王様が苦しそうな顔をしています。
彼女の身体からは、弱々しい青い光が発光していました。
それは、自身の体内から発せられる命の輝きでした。
キューイは慌てて冬の女王様の膝から飛び降りました。
「冬の女王様!」
キューイは大きな声で呼びかけました。けれども、彼女は苦しそうな顔をしたままうつむくだけです。
「冬の女王様、目を覚まして! ねえ、冬の女王様!」
キューイはどうしたらいいのかわからず、台座のまわりをぐるぐるとまわりました。
「ねえ、ねえってば!」
何度呼びかけても、返事がありません。
キューイは怖くなりました。
「ねえ、起きて! 起きてよお! 死んじゃ嫌だ!」
そのとき、泣き叫ぶキューイの声に同調するかのように、塔の外から吟遊詩人の歌声が聴こえてきました。
ハープの音色とともに流れるきれいな歌声です。
それはとてもとても優しくて透き通った、心に響く声でした。
「……?」
キューイは窓の縁に飛び乗ると、塔のてっぺんから外を眺めました。
遠くのほうに長い冬で凍りついてしまったお城や町が見えます。
空はどんよりとして、世界は極寒の地へと変わり果てていました。
そして塔の下では、吟遊詩人がハープの調べにそって季節の恵みを歌っていました。
このとき、初めてキューイは気が付いたのです。
季節を止めてはいけないのだと。
季節は巡らせなくてはいけないのだと。
そして知ったのです。
冬の間でしか生きられない自分のために、冬の女王様が命を削って冬を長引かせているのだということに。
キューイはたまらなくなって、窓から飛び降りると冬の女王様の懐に飛び込みました。
「冬の女王様、起きて! お願いだから、冬を終わらせて! 僕なんかのために、死なないで!」
ぐりぐりと顔をうずめるキューイに反応するかのように、冬の女王様はうっすらと目を開けました。
「おや、キューイ。泣いているのですか……?」
「冬の女王様!」
「何を泣いているのです? 大丈夫です。私は死にません、死にませんとも……。あなたとともに、ずっと冬を過ごしましょう」
「ううん、もういいの! もういいんだよ、冬の女王様! 僕は消えないよ。ずっと、冬の女王様の中に生き続けるんだよ」
「何を言っているのです?」
不思議そうに見つめる冬の女王様に、キューイは言いました。
「さっき、夢を見たんだ。僕と同じ顔をしたたくさんの雪だるまたちが願ってた。はやく冬を終わらせてって。季節を巡らせてって」
「たくさんの雪だるまたち……?」
「そう。みんな、冬の女王様の中で生きてるんだって言ってたよ。冬の女王様のことをとっても心配してたよ」
「私の中で……?」
キューイは夢で見たことを説明しました。
季節を止めてしまうと、世界も一緒に止まってしまうこと。
季節を止めてしまうと、冬の女王様の命が削られてしまうこと。
雪だるまの自分は春になったら溶けてしまうけど、消えるわけではないということ。
毎年、生まれてくるのは同じ自分だということ。
そして、
今までの自分は冬の女王様の中で今も生き続けているということ──……。
冬の女王様は、キューイの説明を聞きながら驚きの表情を浮かべていました。
「では、今までの子たちはみんな……」
「冬の女王様の中で生きてるよ。そして、来年にはまた新しい僕が生まれるんだ」
「ああ、なんということ……!!」
冬の女王様は泣き叫ぶと、両手で顔を覆いました。
「私はなんと愚かな……。毎年生まれてくる彼らを死んだものと決めつけ、あまつさえキューイを失いたくない一心で冬を長引かせていたなんて……」
「だから冬の女王様、安心して冬を終わらせて。春をやってこさせて」
「ええ、ええ、キューイ。わかりました、わかりましたとも。冬を終わらせましょう」
冬の女王様は立ち上がると、天に向かって両手をふりかざしました。
その瞬間、塔の中心から広がっていた雪雲がサアッと引いていき、その奥に隠れていたお日様が顔を出しました。
そしてそのお日様の暖かな光は、町やお城を覆っていた雪と氷を溶かし始め、そのすべてを蒸発させていったのでした。
「おお、冬が終わる……」
人々は、唐突に終わりを迎えた冬の季節に戸惑いながらも安堵の表情を浮かべました。
そして、塔に向かって長い長い冬を届けてくれた冬の女王様に労いの祈りを捧げたのでした。
※
塔のてっぺんでは、冬の女王様の手のひらの上でキューイが雫になろうとしていました。
ぼろぼろと崩れ落ちていくその身体を見つめながら、彼女は言いました。
「キューイ……、ありがとう。私の過ちをただしてくれて本当にありがとう」
キューイはか細い声で答えます。
「ううん、お礼を言うのは僕のほう。冬の間ありがとう。とっても楽しかった。それから、僕のために無理をさせてごめんね」
「何を言っているのです。あなたは私のかわいい子ども。無理をしているなど一度も感じたことはありません。だから謝らないで、キューイ」
「ふふ……その名前、僕大好きだよ。今度生まれてくる僕にも同じ名前を付けてあげて……」
手のひらで溶けていくキューイは、まるで泣いているかのようでした。
冬の女王様はたまらず涙を流しそうになりましたが、懸命にこらえました。
これは、今までと違って悲しい別れではないからです。
ここで泣いてしまったらキューイが心配してしまう。
冬の女王様はそう思い、精一杯の笑顔を見せました。
「ええ、キューイ。来年も、再来年も、その次の年も。みんなあなたと同じ名前にしましょう」
「嬉しい……」
「今度の冬も、たくさんたくさん遊びましょうね」
「うん……楽しみにしてるね………」
キューイはにっこり笑うと、そのまま冬の女王様の手のひらで冷たい雫となりました。
それはキューイの優しい心にそっくりな、とてもとてもきれいで透き通った雫でした。
冬の女王様は、その雫を胸に抱きながらつぶやきました。
「ええ、私も楽しみに待ってますよ、キューイ」
それは、今まで悲しみしか感じられなかった彼女の心からの言葉でした。
季節はもとどおりになりました。
世界は毎年、平和で安定した季節を迎えています。
そして、二度と冬が長引くことはありませんでした。
おしまい
お読みいただき、ありがとうございました。