1、突然舞い込む面倒事
ようやく二話目…
最近読む専門になりかけてました。
一応読み方。
「徒人」→「ただびと」…普通の人。凡人。
「恙無く」→「つつがなく」…問題が無く。無事に。
もしもですが、続きが気になっていた方はすみません<(_ _*)>
ーまた、此処にきた。
リランが真っ先に思ったのは、その言葉だった。
天にそびえる程、高い樹が張り巡らす枝の隙間からは、柔らかな日差しがこぼれる。
心地良い場所だと毎回思う。
此処にずっと居られたならーそんなことをついつい考えてしまい、思わず苦笑した時、遠くから名前を呼ぶ声が幽かに聞こえた。
そろそろか、と思った瞬間、視界は漆黒に塗り潰されて…
ゆっくりと目を開けば、其処には此方をのぞきこむ少年の姿があった。
「リラン様、起きて下さい。もうお昼になっちゃいますよ?」
「ん~…折角、良い夢見てたのに…それに、眠いから起きない」
「ダメですよ!」
もぞもぞともぐりこもうとした掛け具をぺいっと剥ぎ取られた。
「む~…」
不満げに唇を尖らせて見上げれば、彼は視線を逸らして続けた。
「…と、とにかく!起きなきゃ駄目です」
おや?少し顔が赤い。どうしたのだろうか。…仕方がない、起きるか。
とは言ったものの…眠い。
欠伸をしながら身体を起こすと、月光のような銀の髪がさらりとこぼれた。
簡素な寝間着から神官服に着替えて、部屋にある鏡の前に立つ。
少年ージェミニは身の回りの世話をしてくれていて、今も寝間着や掛け具をきちんと直している。
ジェミニは神官見習いで、僕の世話を進んでやってくれる。見習いは神官につくことも多々あり、ジェミニもそうだ。
金の肩口で切り揃えられた髪に、翡翠の瞳の、何処ぞの王子かと言いたくなるような容姿に、真面目なしっかり者。
神官達からも評価は高く、「自分についてほしい」という声も多くあったらしいのだが…何故か僕のもとへ来た。
自分でいうのもなんだが、僕は“無気力で怠惰”である。それは周知の事実で、他の神官と違って学べることは何もないと思う。
だって基本は寝てー、たまーに神官のお仕事してー…うん、ほんとにジェミニ、何で僕のとこへ来たんだ。
…まぁ、それは置いといて。
鏡を覗きこむ。
そこに映る眠たげな顔はいつものことなので気にしない。
適当に髪をすいて、フードつきの白いローブを纏う。
はい、準備お仕舞い~。朝礼に行くか~…好きじゃないけど。
ー朝礼にて
「~で、~なので…」
神官長が何か話している。
…全く頭に入ってこない。ってか、眠い。いや、割と本気で。
さりげなく壁の彫刻を見たり、天窓を見上げたりしたけど、眠気は何処にも行かない。
思わず欠伸をすると、神官長が此方を見た。
「聞いていますか、ディール神官?」
やば。
「あ~…はい、聞いています」
誤魔化すようにへらりと少し笑って言えば、神官長は溜め息を吐いて話を続けた。
は~…笑うのも、意外と労力がいるんだよね。
ジェミニは脇に避けているところで、苦笑していた。
その顔を見てすっと表情を戻せば、周りの声が聞こえる。
『“無気力で怠惰”な神官が…』
『いい身分だよな、まったく』
『俺らは一生懸命やってるのにな』
きっと聞こえるように言っているんだろう、その声と言葉に自然と薄い笑みが浮かぶ。
神に仕える神官と言えど、本質は徒人と同じ。他人を妬み、憎み、嫌う。
僕の場合は自業自得でもあるが。
そのまま朝礼が終わり、ジェミニを連れて部屋に戻って寝ようかと思ったところで声をかけられた。
「ディール神官」
聞き覚えのある穏やかな声にゆっくり振り返れば、藍の髪に他の神官とは違う、より高位の神官である証の法衣を纏った人物。
「…何用ですか~、ソリス大神官」
変わらない僕の言葉遣いに、近くにいた数人の神官が少し眉をひそめたり、苦笑をもらす。
それらを綺麗に無視して、彼の答えを待つ。
彼も周りには気を留めずに、いつも緩やかな弧を描く唇に小さな笑みをのせて言った。
「少し話があるので、私の部屋に来て下さい。ジェミニも一緒で構いません」
「はい。おいで、ジェミニ」
「はいっ」
ジェミニを促し、ふわりと法衣を翻したソリス大神官の後を追い、奥まったところにある彼の部屋に向かう。
部屋に入ると、ソリス大神官は座るように勧め、微笑して言った。
「…本当に変わりませんね、貴方は。私としては、変わらないのは良いことだと思うのですけど」
その言葉に肩を竦めて、話を促す。
「…ありがとーございます。それで、話とは?」
「ええ、そのことですが…」
一旦口を閉ざした彼に、何だか嫌な予感がした。それに気付いてか気付かずか、笑みを湛えたまま続けた。
「ディール神官…いえ、リラン。貴方には、勇者殿の魔王討伐の旅に同行してもらいます」
「……………は?」
たっぷり5秒間沈黙。そして、間抜けな声をあげた。
「優秀な神官を、と言われましたので、貴方を推薦しました」
ソリス大神官はにこにこといつもの笑みで言うのだが…
ちょっと待って。魔王討伐の旅?何それ、物凄く面倒くさそう。
っていうか、優秀?いや、何処が。
「…優秀とは言い難いと思うんですけど」
「いいえ、貴方は優秀ですよ」
「贔屓目です~」
「貴方ははっきり言いますねぇ…」
苦笑を浮かべると、今度は遠慮して後ろに立っていたジェミニに視線を向けた。
「ではジェミニ、貴方はリランが優秀だと思いませんか?実力は」
実力は、って。でも、それにしたって、そんなことは…
「は、はい!リラン様はとてもお強くて…他の方々が何を言おうと僕は優秀だと思います!」
え、マジですか。
嘘かと思って、じっと見てみた。
あ、ジェミニがそういうことをする子じゃないってわかってるよ~?念の為だよ、念の為。
でも、お世辞や嘘を言っているようには見えない。
「ほら、ジェミニもこう言ってますよ」
笑顔でご機嫌ですね…
「…それはもう決定ですか~?」
最後の足掻き。
「決定です」
にっこり。
「え~…」
露骨に嫌そうな顔をしてみたが、ソリス大神官の微笑は揺らがない。
「さて、明日、一度勇者殿とお仲間と顔合わせすることになっていますから、ちゃんと起きてきて下さいね?」
「はーい…」
覆せないので、仕方がない。
渋々頷き、返事をする。
その様子を見たソリス大神官は眉を下げ、困ったように微笑んで「もう戻っていいですよ」と言った。
退室して、自室に戻ると、すぐに寝た。
ー翌日、勇者一行との顔合わせは“一応”恙無く行われた。
これからも不定期に更新します。
不定期過ぎて間が空くことも多々ありかもしれませんが、頑張って空きすぎないようにします。
読んで下さった方、有難うございます~