人間市場
朝、私は誰かの声で目が覚める。
「はい、それでは今日。はい、ありがとうございます。それでは」
金髪の女性――間島さんが電話で誰かと話してる。私は目を擦りながら着替え始めた。
「おはよう」
「おはよー。今日、仕事?」
私は髪をときながらきく。
「ええ、そうよ。今日はついて言ってもらうから」
間島さんはいつものスーツ姿で私の目の前に立つ。いつも通りの笑顔だった。
「珍しいねー、何かあるの?」
「いつもは行かないところへ行くから、連れていってあげようと思って」
間島さんはそう言って1枚の紙を渡した。
「これは?」
難しい文字ばかりで読めない。
「契約書、持ってて。さて、外で待ってる人らがいるから行くわよ」
私は外に出る。とてもいい天気だ。
「おはよ」
「香山、おはよ」
いつもはTシャツにジーパンの香山も今日はスーツだった。
そうか、今日は取引か。
「楓季、間島。早くしろ、そこまで時間がない」
私は車に乗る。間島さんが慌てて玄関を出る。
「ごめん、遅くなった。行こうか」
香山が車を運転する。今日は3人で行くのか。
私の名前は間島楓季。ここは西アジアのとある国だ。
私は間島さんと一緒に暮らしている……というよりは間島さんの家で住み込みで働いている。私は間島さんに奴隷として買われた。間島さん自身は奴隷商人だ。
「間島さん、どこへ行くの?取引じゃないの?」
「ちょっと違うわねー、それは午後から。今日は社会見学に行くの」
間島さんは資料を取り出して、見せてくれた。
「に……んげ……??いちば?リ。シャ?」
生まれて14年、私は文字がほとんど読めない。学校へいったことがない上誰にも教わらなかった。今は給料の一部として間島さんに文字を少しだけ教えてもらっている。
「人間市場って読むのよ。今から行くのはリンシャっていう街、あまり治安よくないから気をつけてね」
「うん、わかった」
私はうなずいた。人間市場って何だろ?やはり奴隷が沢山いる市場だろうか……。
一応、奴隷取引は禁止だがまだまだ奴隷商人も奴隷も沢山いる。大きなマーケットがあったって不思議じゃない。
「ここがリンシャだ、よく見ろよ」
リンシャの街並みは露店とボロボロのコンクリートの建物で出来ていた。道はあまり広くないが、ほかに車は通っていない。すれ違う人々はこっちを物珍しそうに見る。服はボロボロでもはや布を羽織っている子供もいた。
「こんなところに何かあるの?」
「ここあまりにも治安悪いから現地の警察も放置しているのよね。まあ、だからこそ成り立つ職もあるんだよね」
間島さんは私に地味な色のコートを渡した。
「これ、来て。いつもの服だと目立つから」
私はコートを羽織る。そんなに不味いのか、ここ。
「香月、ギリギリまで店につけて。終わったら連絡するから」
「了解」