サンビョウ
あぁ、これでやっと俺もこの世界から開放されるんだな・・・
サヨナラ世界。
俺、直生。20歳で今ちょうどビルの屋上から飛び降りたところ。後悔はしていない。この狂った世界から抜け出すために屋上から一歩飛び出してみた、いや、飛び降りてみた。あのビルはたしか37階建てだったから確実にいなくなれる。えっと、きっとこれを読んでいる人は俺の事おかしいと思ってるだろ?まぁでも、俺にもあと3秒程度しか残されていないわけだから少し付き合ってよ。
俺、4歳くらいの頃。日本語も英語も同じくらい話せたんだ、俺。それに数だって数えられた。だからね、親戚とか親がちやほやしたんだよ俺のこと。もちろん俺はガキだったから嬉しかった。その頃の俺にとって天才ってすげぇ魔法のような言葉で、そう呼ばれるたびに俺は誇らしかった。
6歳、小学校に通い始めてよ。周りの友達とかより頭良かったから、やっぱりそこでも俺は天才だった。平仮名だってキレイに書けたし、算数だってよくできた。100点以外は取ったことなかったよ、今更自慢するわけでもないけどな。親も喜んでくれてたよ、やっぱり私たちの子よねって。
10歳。なんだかなぁ、俺この頃10年後俺は金持ちになってるって思ってたよ。まぁ今実際俺は20になってビルの上から真っ逆さまなんだけどね。あの頃の俺はといえば、頭がいいって少し周りの男に妬まれてたっけな。鬼ごっことかあんまり狙われないからつまんなかった。でも俺運動もまぁまぁ得意だったし、頭もよかったから女の子にはモテたよ。ホワイトデーとか大変だった。
13歳で中学校だっけ?まぁいいや。中学時代はさ、結構いろんなことが変わるじゃん。部活とか、恋愛とか、勉強科目とか!制服なんか着ちゃってさ、大人になった気分で背伸びしたりしてたわけよ。俺正直この頃マジで俺は天才だって信じてたから、天狗になっちゃってさ。自己紹介で俺は天才です発言しちゃったんだよね。まぁ小学校一緒のやつらはまた勝手感じだったけど。ほかの奴らからの目線はさすがの俺でも痛かったわ。
15歳の高校受験。俺親とか親戚とか周りからのプレッシャーがすごくて、俺もその気になってたからすげぇレベル高いレベルのところ受験したんだ。塾の講師も学校の先生も親もみんな俺なら受かるってよ。俺は受験勉強で俺自身を見つめてうっすら無理かなって思ってたんだ。やっぱりね。ほら不合格。みんながっかりしてたよ。親なんか泣いちゃってさ。
17歳。結局入学したのは適当に選んで受験した私立高校。なんかさ俺自信なくしちゃっててさ。テストとか赤点だらけ。俺のこと小学校の頃から知ってる奴がたまたまいたんだけど、そいつがさ俺のこと天才って呼んだんだ、ほかの生徒の目の前で。もちろんそいつらは俺が赤点取ってるのも知ってるし、クスクス笑われたよ。親もその頃には俺のこと見る目変わっててさ。愛ってなんだろうって思ったよ。成績表だけが親から愛をもらえるチケットなのかって思っちゃったんだよね。
18歳。高校卒業してもちろん大学なんかに入れるはずもなくニート。俺ニートしてたんだぜ。結構可愛かった元カノからもキモって言われた。やけくそだよ。それでも親は必死に親戚に俺は未だに天才で名門大学に通ってるなんて見栄張っちゃってよ。
19歳。状況も変わることなく親戚からは尊敬の眼差しを向けられエリートを装いつつも、親からは哀れな目で見られてんの俺。親に親戚の前では大学の勉強は大変だとか言いなさいって言われてて。もう完全にロボットよ。何なんだろうな。俺もう19なのに何やってんだろう。ネットとかさ見てると俺と同じような環境のやつもいてホッとするんだよ。でもそんなことして何になるって親に取り上げられちまったんだ。俺の唯一の居場所。
20歳になる直前。親戚が帰ったあと親にろくでなしって怒鳴られた。殴られもした。あの天才は幻だったのかって泣き崩れてやんの。ここにいるよその天才。んでさ。成人式行ったのよ。そしたら知り合いにお前大学行かないでニートとかだせぇなって言われてさ。親戚と親聞いちゃったわけよ、それ。親戚唖然、親はもううろたえちゃっててよ。俺、成人した成功者面してる奴らと親戚の前でお前なんかいなくなれって言われたんだ。
で今飛んでるわけよ。
思ったんだ。天才ってさ呼ばれててもいつかは落っこちる時があるんだよな。ビルの上から落ちるみたいに。子供なんだ。地震とかやる気とかなくすときだってある。愛ってのは、親ってのはそういう時でも自分の子供を愛してやんねぇとダメなんじゃないかって思う。もちろんニートになったのは俺の責任だったし飛び降りちゃったのも自己責任。でも。でもさ。俺のことちゃんと叱って欲しかったし、現実を見て欲しかった。
あ、もうそろそろ着くわ。じゃ。俺行くわ。
そこのお前。親にいつかなる気があんなら覚悟しとけ。お前の子供が天才の保証はどこにもないし、期待よりも支えと教えを子供は必要とする。どうかこれ以上この世界に俺みたいな「天才」が、期待を愛と間違える大人がこれ以上増えませんように。
生まれ変わったら
次は
次こそは。