展開
響子
やばい、お母さん帰ってきた。とりあえず、このバカ何とかしないと。何キョトンとした目でこっち見てんのさ、僕のお母さん猫嫌いなの知ってないの?
「確か、お姉ちゃんのお母さんて猫嫌いじゃなかったっけ。」
知ってんなら、早くクローゼットの中に入りなさいよ。
「響子ー、部屋にいるのー?」
「ちょっと、押し込まないでよ。俺こんな狭いとこ入れないよ。」
確かに、こんな狭いクローゼットに入らないことわかってんの。でも、怒られんのは僕なんだしはやくはいってえええ。
「いてててててててててててて」
ガチャ
「やば。」
「…あんたそんなとこで何やってんの。」
「いやちょっとストレッチを…。」
ちょっとこっち来ないで、せっかく入ってのに見られたら意味がないんだって。確かにこの状況じゃあ、何かを隠してるように見えないんだろうけど。だめだ、ばれた。
「…何にもないわね。何かを隠してたように見えたんだけど。」
そこには、散らかったマフラーがこんもりしているだけ。あの子はいったい、どこへ行ったんだ。
「晩御飯つくるの手伝ってちょうだい。」
「今すぐ行きます。」
しかし、どうなっている。確かに、ここに入ったはずだ。ん、マフラーがもこもこしているが。
「ニャ」
「猫に戻れるのかよ。」
「どうやら、夜は人間に戻ったり猫になったりできるらしいね。」
この猫、まだ自分のことがよくわかってないのだろうか。しかし謎だ。なんでこんな幽霊が、僕に取りついているのか。でもなぜか、こいつにお姉ちゃんって呼ばれるのがなつかしいような気持になる。なんでだろう。僕は急いでリビングに行って、夕食の準備を手伝った。
「響子、あんたそろそろ彼氏ぐらいできる年なんだから悪い男に気を付けなさいよ。お母さんみたいに、お父さんみたいなバカな男と結婚するとね、ろくな目に合わないわよ。」
「なに急に。ていうかそれ、僕の存在はどうなんのさ。」
「あんたを産めてよかったとは思っているけど、あの浮気男は本当に思い出しただけでも腹が立つわー。」
玉ねぎを切っている僕の横で、お母さんが料理をまぜる大きい箸がバキバキにおれていった。
「そうそう、顔やお金を持っているだけの男は気を付けたほうがいいと思うな。俺もお母さんに賛成。」
「あなたいいこと言うわねー、…て響子この人だれよ。」
「う…わぁ。」
僕とお母さんの後ろにいたのは、ナイフとフォークを持った“あいつ”だった。なんか子供みたいに、足をぶらぶらさせてる。
「ねー、ごはんまだー?」
「かわいい子じゃない、響子あんたいつからこんな彼氏つくったの。連れてくるなら、ひとこと言ってくれたらよかったのに。」
最悪の展開になってしまった。