土下座
黒くてかわいい小猫
俺は仁王立ちしたまま、お姉ちゃんを正座させた。ツナを食べながら。俺は、上品にツナをスプーンでツナをすくって口に含む、そのまずさに言葉も出なかった。こりゃマヨネーズが必要だな、後で持ってこさせよう。
「よくも、俺に熱湯をかけてくれたな。」
「…猫ってお風呂嫌いなの知らなくて。」
「よくも…よくも、俺に女っぽい真っ赤なリボンをつけてくれたな。」
「…オスだって知らなくて。」
「よくもよくもよくも、魔人拳を一発入れてくれたな。」
「あれは、君がデリカシーのないこと言うからでしょ。」
「…確かに。」
俺の名前は、ゲッホゲッヘあー咳がひでー。十八歳。猫と人、やってます。なぜ猫になってしまったかは、また後程話します。しかし、お姉ちゃんを納得させるのに時間がかかっちまいそうなんだよなー。魔法をかけられて猫になりました。とは、さすがに信じないだろうな。どうしよう。
「…で、どう責任とってくれんの。」
「えーと、」
「じゃあ、一回もみもみな。」
「なんでそうなんのさ、それで君は誰なのさ。」
「お姉ちゃんが拾ってきた、かわいいかわいい黒猫です。」
「ぐ…まさかだと思ったが、ホントに子猫だったとは。…しかし、今までどうやって猫に化けていたんだ?」
俺は、月が見える窓に腰かけて話を進めようとする。いやちょっとカッコつけすぎたかなコレ。
「化けていたっていうか、夜だけ人間に戻れるシステムみたいだね。」
「信じられないなー、じゃあ着替えとかも見てたわけ?」
「君と生活を共にしたのなら、自然とそうなる。そこはご理解いただきたい。ニッコリ」
「最ッ低ー。」
「でも、これから俺はお姉ちゃんと一緒に暮らしていくことになるんだよ。」
「は?…なんでそうなんのさ。」
「そういう使命があるからだよ。お姉ちゃんを悪い男から守るように神様に言われてね。」
「変な冗談はやめてよね。ていうか、悪い男は今目の前にいるんだけど。」
「俺のことか。」
正直、ちょっとショック。悪い男て、悪い男て…俺。女の子のキツイ言葉ってすんげーダメージだよ。
「出てってよ。お母さんに見つかったら、絶対怒られるんだけど。」
「…連れ込んだのは君ではないか!」
「それは猫だったからだよ!今はただの変態でしょ。」
ぐ…このお姉ちゃん、ケツの軽い女ではないようだな。しかし、ここで引いて出ていくと、寒空の下でひもじい生活が待っている。かくなるうえは、
「あーあー、こんなかわいい子猫に寒ーいところでひもじい思いをさせる女だったのか君は。」
「いいよ別に、死んじゃえば。」
「お願いします、住まわせてください。」
俺は、情けなくも土下座してしまった。でもこれで、勘弁してくれるはず。
「でもほんとに人間なの?君、」
「うん。まあ正確に言うと幽霊みたいなものかな。死んだ人間って未練があるとき、一回だけチャンスがもらえるらしい。」
「へー、で君の未練ってなんなの?ていうか、未練があるならなんで僕の近くにいるのさ。」
「…俺の未練はな。」
「ゴクリ」
「俺の未練は、彼女をつくってみたかった。多分これかな、いや、これしかない!」
「そのルックスで彼女いなかったんだ。でも、なんかわかるような気がする。」
このお姉ちゃん、顔はかわいいのになんでこんなにひどいことが言えるんだ。まあしかし、これで何とかごまかせ...
「ただいまー。」
「うわやば、お母さんだ。」