[ホラー短編]振り返ってはいけない神社ー2
息を切らしながら、二人は祖母の家の古びた引き戸を勢いよく開けた。
「ただいま! おばあちゃん!」
「はぁ、はぁ……っ、死ぬかと思った……」
土間に倒れ込むように座り込んだゆうとと秀頼の姿を見て、奥の居間からゆっくりと祖母が姿を現した。彼女は手にした茶碗を盆に置くと、眼鏡の奥の鋭い目で二人をじっと見つめた。
「……山へ行ったのか」
その声は低く、どこか予見していたような響きがあった。
「おばあちゃん、出たんだよ! 山の頂上に変な神社があって……」
秀頼が必死に説明しようとするが、祖母はそれを手で制した。
「秀頼、ゆうと。お前たち、あそこで『お詣り』をしたのか?」
「……うん。鈴を鳴らして、手を合わせた。でも、帰り道で後ろから足音がして……」
ゆうとが答えると、祖母の顔から血の気がスッと引いていくのが分かりました。彼女は二人を急かして居間に上げると、仏壇から古い塩の入った小皿を取り出し、二人の肩に乱暴なほど強く振りかけた。
「いいかい、よく聞きな。あの神社は、神様を祀っている場所じゃない」
祖母は震える手で茶を啜り、ポツリポツリと語り始めた。
「あの山には昔から『影踏み様』という、はぐれた魂が集まる場所があったんだ。あそこの鈴は、神様を呼ぶためのものじゃない。『私はここにいます』と、あちら側に自分の居場所を教えるための合図なんだよ」
二人の背筋に冷たいものが走った。あのボロボロの賽銭箱、苔むした鈴。あれは信仰の対象ではなく、呼び鈴のようなものだったのか。
「振り返るなと言ったのは、後ろについてきた『何か』と目を合わせないためだ。目を合わせれば、そのまま連れて行かれる。お前たちは走って逃げたと言ったが……その時、一度も後ろを見なかったかい?」
「見てないよ! 怖くて前だけ見て走ったんだ」
秀頼が断言します。ゆうとも必死に頷いた。
「そうか……それならいいんだが……」
祖母は少し安心したように息を吐きました。しかし、ゆうとはふと、あることに気づいて言葉を失った。
「……ねえ、秀頼」
「なんだよ、ゆうと。まだ震えてるのか?」
「いや、そうじゃなくて。……さっきから、秀頼の足元、おかしくないか?」
秀頼が怪訝な顔をして自分の足元を見た。
西日が差し込む居間。秀頼の影は、畳の上に伸びている。しかし、その影の形が、どう見ても秀頼の動きと一致していないのです。
秀頼が右手を動かしても、影の腕はだらりと垂れ下がったまま。
そして、影の頭の部分からは、じわじわと「三本目の腕」のような突起が、ゆっくりとゆうとの方へ伸びてきた。
「おばあちゃん! 秀頼の影が……!」
ゆうとの叫び声と同時に、家中の引き戸がガタガタと激しく鳴り始めまた。山の頂上で聞いたあの『ジャリ……』という砂利の音が、今度は家の廊下から聞こえてきた。




