カーテンの向こう
夜半、隣室のカーテンがわずかに揺れた。
風は吹いていない。隙間から人影のようなものが見える。けれど、この部屋には私ひとりしかいないはずなのだ。
隣室に行ってカーテンをめくり、正体を確かめる?
できるわけがない。寝返りを打ち、反対側を向いて、ただ気のせいであることを祈るだけ。
それなのに、今度はパタパタと布の靡く音がした。まるで窓が開いているかのように。
耳を澄ますと、布音にまじって水滴の落ちるような音が聞こえる。不規則に。量も、雨音ではありえない。
やがて足音。裸足で濡れた床を踏むような音が、隣室からこちらへ近づいてくる。
ベッドの下に潜りたい衝動を、必死に抑えた。
ぴちゃ、ぴちゃ。
音はベッドの横で止まる。膝を抱え、ぎゅっと目をつぶる。
体の芯から凍りつくように震えが止まらない。息の詰まる時間がどれくらい続いただろう。
しかし確かに、それから音も気配もなかったのだ。
安堵と疑念がせめぎ合い、意を決して片目を開ける。誰もいない。床も濡れていない。――ただ、窓の方角のカーテンだけが妙に膨らんでいた。風もないのに。
布の奥から、ひとつ、ふたつ、白い指が布地を押し広げてきた。
慌ててすぐ脇にあったリモコンを取り、照明をつける。一瞬、視界が白く塗りつぶされ、次第に部屋の輪郭が戻ってゆく。
カーテンに浮かんでいた指のシルエットは消え、今は吹き込む冷たい風にカーテンがひらひらはためく。
安堵の息を吐き、窓を閉めようと近づく。
手を伸ばした瞬間、外の闇に自分と同じ顔が浮かんでいるのに気づく。ガラス越しのそれは、私の動作とずれて笑った。
指先が、ゆっくりとガラスを叩きはじめる。
短い悲鳴が漏れ、思わず飛び退く。
背中が誰かにぶつかった。外の顔と同じ、私の顔をした何かだった。
白い顔の私がにっと笑い、私は後ずさり、飛び出し、恐怖から逃げた。窓は知らぬ間に開いていた。遠ざかる私の顔はまだ笑っていて、私を見下ろしていた。




