ディアンナとカーライル
夫であるカーライルとは、政略結婚でもあり恋愛結婚でもあった。私たちは8歳の頃にお見合いをして、お互いに一目惚れした。
ゆるくウェーブがかったブロンドに透き通るような青い瞳に陶器のような白い肌、天使かと思うほど可愛い見た目をしていたカーライル。
もじもじしながらお義母さまの後ろから出てきて、恥ずかしそうに挨拶をしてくれた。その瞬間、可愛いものが大好きな私は恋に落ちた。
少し内気だったカーライルは私と話す時はいつも恥ずかしそうにしていた。そんな姿が可愛くて、カーライルのことを『私のお姫様』と呼んだ。呼ばれるたびに「僕は男の子です」と少しだけ拗ねながらも、悪い気はしていなさそうなのも可愛かった。
いつも「ディア、ディア」と後ろからくっついてきた。
順調に歳を重ねてお互い見た目は大人になったけれど、彼が「ディア」といいながらひょこひょことついて回るのはずっと変わっていない。
もともと、私は侯爵家の次女でカーライルは伯爵家の次男だった。
私の生まれたハウンシュタイン侯爵家は代々文官の家系で、祖父の代から宰相職を務めている。
父もそうだし、兄も現在は宰相補佐だ。
頭が良くて、仕事も早くて正確。だけど面白い冗談は言えないし、家族の前以外では滅多に笑わない。運動の才能が壊滅的で護衛を連れていないと危なっかしくて見ていられない。それが我が侯爵家の特徴。もちろん私もそうだ。
本来、高位貴族の娘ならどこかに嫁いで家同士の縁を結ぶのが通常だけれど、私の場合は家臣として多忙なお兄様をサポートする立場になる。
宰相という役職のせいか、我が侯爵家は中立派の割には敵も多い。少しでも信頼できる人間で周りを固めるためにこうなった。
学園を卒業すると同時に、子供のいない叔父様の養子になった。もともと叔父様も忙しいお父様の代わりに領地運営の仕事の手伝いをしていた。
だから両親もお兄様も私も叔父様も、全員納得した上でのことだ。
対してカーライルの生まれたロペ伯爵家は生粋の武官の家系である。
カーライルの父上は第一騎士団の団長を勤めているし、カーライルのお兄様も第二騎士団の団長。政治や計算は苦手だけれど、戦うことにおいては間違いなく頂点にいる家系だ。カーライルも当然騎士である。
私のお母様と、カーライルのお母様は学生時代の親友で、頭でっかちな家の娘と、ただただ強い家の息子は意外とバランスがいいんじゃないか、そんな思いつきみたいな理由で私たちは引き合わせられた。
相性が悪ければ婚約しなくてもいいと思われていた私たちは見事に初日にお互いを気に入り、すぐに正式な婚約が結ばれた。
出会った頃は天使だったカーライル。
綺麗な顔はそのままに逞しい男性へと成長し、今では上から数えたほうが早いくらいに強くなった。
ちなみに女性からの人気も上から数えたほうが早いくらいに人気になってしまった。
まあ、確かにあれだけ美しい見た目で強さも申し分なく、誰にでも誠実となれば人気は納得である。
学園に入学した頃はよく黄色い声があがっていたけれど、侯爵令嬢である私と婚約していたし、学園でも「ディア、ディア」と私の後ろをついてまわるものだから、一時期流行っていた婚約破棄トラブルなんてこともなく、仲良く卒業した。
私が卒業すると同時にお兄様が侯爵家を継いだ。
それに伴い私は、予定通り叔父様の家の養子となり、コーナン伯爵家の後継になった。結婚と同時に私は伯爵家を継ぎカーライルは婿入りした。
それが学園を卒業して半年経った頃、今から三ヶ月前の出来事だ。
幸せに包まれて、確かに結婚した。そのはずだった。