1-2 喜劇は悲劇へと
「わー! すごかったー!」
「そうだね……まさか一撃で倒すなんて……」
あの後、保持者一行とは別れた。これも何かの縁という事で、2人は「何かあったらこれに火か雷寄りの魔力を流すんだ。2秒で駆け付けるからな!」と言い、札のような物を渡してきた。あの2人の言う事なら信用できるだろう。という訳で有り難く受け取った。貰った物は他にもあった。
「しっかし、俺が貰って良いやつなのか? コレ。あと、俺の腕じゃ鍛えるのは結構厳しいんだが…」
そう言うウチテツの腕には竜の一部が抱かれていた。
竜くらいはいつでも狩れるし、ウチテツは鍛治師だし、村の近くの草原を抉って氷漬けにしたお詫びだという。氷漬け云々はあんまり関係ないらしいが、何でも、膨大な魔力によってよく分からない謎の植物が増えたりするかもしれない。との事だった。
そうなった事が前にもあったのだろう。焦って弁明していた。
そうこう考えている内に、家に着いた。…………のは良いのだが、家の中からは途轍もない気配を感じる。まるで火葬竜のような。
そして、恐る恐る扉に手を掛け───
「なーにやってたのー????」
「「ひっ」」
怒りが炎の様に燃え盛り、今にも理性が溶け出して暴れ始めそうな……….母、ナーテがいた。このままだと昼飯抜きになってしまいそうだ。
「中々帰って来ないと思ったら! 凄い音が聞こえてくるし! 一体何をしてたの?」
「そ、それは…」
アルテは洗いざらい話した。取り敢えずはロマンより昼飯である。下手したら夕飯も抜きかもしれない。
「まぁ! 保持者の方々がいらっしゃったの!? それを早く言いなさい。それで、何で連れて来なかったのよ!」
「いや、向こうも、間接的に色々迷惑かけたからーって」
「なーに言ってるのよ。この村に保持者が来てくれるだけで箔が付くってものなのに….そして何より私もスキルが見たいわ!!!!」
アルテは何故妹のメルが保持者に強い憧れを持つのかが、やっと分かった。きっと寝かせる時などに熱弁していたのだろう。たまに2人とも少し寝不足な時があった。
そんなスキル愛全開の会話を続けている2人を見ながら
「あの............昼飯は....................?」
「「今良いところだから邪魔しないで!!!!!!!!!!!!!」」
昼食を求めたら一蹴された。
アルテは何とも言えない気持ちになった。
.
..
…
あの後は、なんとか食事にありつけた。が、そこまでの道のりがあまりにも遠かった。大体2時間程だった。
そして、月が沈み始めた頃
「うわあああああああああ!?」
爆音が鼓膜を叩いた。空間を揺らす衝撃と共に悲鳴が聞こえてきた。
寝起きで過敏には動かない体で出来るだけ急いで外に出る。
「ギャッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!! 弱えつったらありゃしねえ!!!! 火葬竜で保持者共を満足させた甲斐があるってもんだぜ。なんせ、こんなに楽しいんだからなぁ」
そこには、魔族がいた。後ろには村が無かった。この魔族が吹き飛ばしたのだろう。
濃密な死が漂っていた。
ここで、スキルと魔術について、もう一度話しておこうと思う。
スキルは先天的、または死を迎えかねない程の経験により授けられる。スキルを得た者が保持者。得る力は絶大。3つも得れば、容易く小島を滅ぼせる。
魔術は、儀式により力を得る邪法。故に「法」則ではなく、「術」なのである。魔術を得た者が魔族。個々の力は及ばない。が、儀式で幾らでも得ることが出来る。
魔術は禁忌とされ、魔族はそれ以外の全人類にとっての共通の敵である。出現すれば、国家が総力戦に臨む程である。
そんな絶望ともいえる存在が目の前にいる。