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激情で溢れた世界で  作者: 取れたての焼き魚
1/4

1-1 喜劇は始まる

「おじちゃん! 今日もあれ見せて!」

「ん?ったく、しゃーねぇなぁ」


1人の子どもがおじちゃんと呼べるくらいの年齢の男に言った。

そう言うと男は指先に小さな、木の実程度の大きさの火を灯した。


「ほらよ」

「わぁ! やっぱりいつ見てもすごいなぁ」

「おう、ありがとうよ。んでも、俺のは《スキル》じゃ無くて《テクニック》だ」

「でもすごいもん!!」

「ははっ、でもな、本当のスキルはもっと凄いんだぜ? あそこの山が見えるか?」


男はそう問うた。もっとも、見えるも何も男達が話している場所はその山の麓の村だ。


「うん!」

「スキルの火魔法だとな、あの山が丸焦げになっちまうんだぜ?」

「えぇ!? すごい! んー、メルもできるようになるかなぁ」

「さぁな、でもきっと出来るさ。でも、この山は丸焦げにしないでくれよ? 絶対だぞ?」

「わかった!!!!」


そのやり取りをメルの兄のアルテは見ていた。

そして、微笑ましくも、待ち遠しくもある2人の会話がひとまず終わった。


「ほーっら! そろそろお昼ご飯だ、帰るぞー」

「あっ、にいまって! もうちょっと! あと5分だけ見させて!」

「駄目でーす。この前それ聞いたら結局30分は見てただろ。あれ母さんにまあまあ怒られたんだからな?」

「むーー!」

「こらこら、お兄ちゃんの言うことは聞かないと駄目だぜ」

「あー! おじちゃんまで!」

「あははっ、ありがとうございますウチテツさん」


おじちゃん改め、ウチテツの助言で無事メルを確保出来た。余談だがウチテツは鍛治師なので、「名前まんまじゃん!」と良く言われる。ウチテツの数少ない踏んだらやばい地雷の1つである


「よーし、じゃあ帰ってご飯食べる…うお!?」


帰ろうとした刹那、この村から少し離れた所でとてつもない衝撃が発生した。多少離れていても衝撃による突風を感じる程の。


「なっ何だ!? 何が起こってるってんだ!?」

「ちょ、メル! 家帰ってな!」

「えっ!? いや! メルもみにいく!!」


そう言うと、メルは小さい体を使って必死に抗議する。


「いや、でもな、危ないから….」

「そうだぜ、お兄ちゃんの言う通り…」

「いやっ!!!!!!!」

「「!?」」


メルは耳が壊れそうな程の声を出した。殆ど叫んでいる。


「だから…..」

「いーっや!!!!!!!!!!!!」

「「ぐあっ!?」」


先程より大きい声を2人の耳を襲った。また帰らせようとしたら今のより大きい声で叫ぶのか….!?と2人は戦慄した。


「…………….?」

「……………..(コクリ)」


アイコンタクトを取り、己の耳を優先した2人はメルを連れて行く事を渋々決めた。


「……….っはぁ〜、分かった。一緒に行くか」

「?………..わあぁぁぁ…………!!」


まさか聞き届けて貰えるとは思って無かったメルは目を輝かせた。まるで夜空に輝く星のような。


「でも、取り敢えずはウチテツさんの後ろに隠れとけよ? 少なくとも俺より安全な筈だからな」

「わかった!」

「おうよ、任しといてくれアルテ。お前の妹は俺の命を張って守ってやるぜ」

「心強いです」



そこから暫く歩き、爆心地に着いた。大地が抉れ、池の水を抜いたらこのくらいだろうと思える窪みが出来ていた。メルは途中で疲れてウチテツに背負って貰っている。


「これは…….」

「あっ、もしかして…近くの村の人かい?」

「えっ、あっはい。そうです。貴女は…..」

「あぁすまない。私はトールという」

「わたしメル! ねえねえ、おねえさんってホルダーなの!?」

「ん? そうだよ。凄いだろう」


そう言ってトールはドヤ顔で胸を張る。


「さっきのすごいばくはつだったから火魔法つかい!?」

「あぁ、済まない。私は火魔法では無くて、雷魔法を使うんだ」

「えぇー…あんなにすごかったのに……」


メルはしょぼーんとした。トールは悲しませてしまったので、あわあわしている。


「っは! そうだ! 私の相方が炎魔法を使えるんだ! 待っていてくれメルちゃん!!」


バヅンッ!!!!

そういうとトールは尋常じゃない音を立てて消えてしまった。多分あり得ないくらいの速度で移動したのだろう。やはり保持者(ホルダー)は凄い。そう再認識させられた


「うぅ、みみいたい…..」

「大丈夫か? このなんか都合よくポケットに入ってた耳栓付けときな。戻ってくる時も同じくらいの音が聞こえそうだし」


バヂンッ!!!!

メルが耳栓を付けた直後、トールがなにかを小脇に抱えて帰って来た。


「っふう、ほらメルちゃん! コイツだ、さっき言った相方ってのは!!!!!」

「うえぇ、何すんだよトール。あぁ話は聞いたよメルちゃん。この私、レイヤの炎魔法が見たいんだって? 良いよ。好きなだけ言って頂戴」

「ほんと!?」

「あぁ、本当だよ。こんなのが見たいとかあれば言ってね。大体は出来ると思うから」

「じゃあね、じゃあね! う〜ん、あっ! ひがわってちって、あつまってばくはつするの!!」


メルは結構アバウトなお願いをした。まだ幼いのでしょうがないが。レイヤはうんうんと頷いている。


「ほう! 中々良いじゃん、ちょっと待っててね」


そう言うとアルテのような素人でも感じ取れるような、膨大な魔力を練り始める。


「おぉ、あれだけの魔力を練ってるのは火葬竜の相手以来だな。あの時はびっくりしたなぁ、たしか火属性の竜相手だから無理だーって私が言ったら駄々こねたからしたかなくやらせたらに燃えカスにしたんだよな」

「えぇ!?」


アルテは驚きを隠せずにいた。基本的に属性竜が司る属性は無効化と言って良い程、攻撃が通らないのだ。

ウチテツも同じく開いた方が閉まらないでいる。

メルはよく分かっていないようだが無邪気に「? すごい!」と言っている。


「さぁ、いくぞ……って、ん?」

「どうしたの?」


レイヤが魔法を発動しようとしたところで、何かに気付いたらしい。莫大な魔力はそのままに周りを見渡している。


「あっ! レイヤ! 魔物だ! 火葬竜がこっち来るぞ! お前の魔力に寄せられたっぽいぞ!!」

「んなっ!? 火葬竜!?」

「しかも、前に燃えカスにした奴の数倍は魔力がある!!どうする!」


さっき話に出ていた火葬竜である。それも、以前燃やし尽くした個体の何倍もの魔力を誇るという。


「いーやっ、問題ないね!!」


レイヤは更に魔力を練り始める。

圧倒的存在感を放ち、暴風を伴う。

空間が歪む。

そして、七色の光を放つ。


「さぁ、行くぞ火葬竜!! 《色彩華》!!!!」

「ガアァアアァァァァァア!!!!!」


宣言と同時にレイヤの手から光を纏った焔が溢れ落ちる。

地面に触れた瞬間、大地から光が噴き上がった。

最高のタイミングで突っ込んで来た火葬竜は斜め前方に馬車よりも遥かに速く吹き飛ぶ。

大地から噴き上がった炎が数え切れない程の数に別れて竜を追って行く。

そして、竜に収束して──


「さぁ、《咲き誇れ》!」

「ガアァ!!?」


火種が咲き、天に極彩色の獄炎を実らせた。

これ以上の絶景があるのか、そう思える程の美しさだった。

光輝く火の粉が竜と共に舞い降りる。竜は既に事切れていた。

火属性竜の鱗が溶解している。一体どれ程の威力だったのか。


「うわっ、これだとこの草原も燃やしてしまう。は〜ここまでの魔力を連続で消費するのは流石に応えるなぁ、まぁ仕方ないか《冥獄の牢炎(コキュートス)》」


そう言うとさっきとは変わって、寒気がするような魔力を練り、発動させた。

瞬間、竜諸共全ての火が凍った。


「うわぁ! すごい!!!」


メルは、純粋に賞賛し、アルテとウチテツはその景色に、ただ、見惚れていた。






この世界の生物は、果て無い努力を糧とし、絶対的なスキルを得る。その力一つで地図を変えられる程の。

この世界には、世界を騙し儀式により手にする〝魔術〟がある。一つ一つはスキルに及ばないが、膨大な数を得る事ができる。


そんな世界に私達は生まれた。

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