勢いで書いたのでタイトルはありません 1
2人の青年がドラゴンと対峙するシーンが急に浮かびまして…書きたくなったので書きました。
本当にそれだけです。
ですので、あまり能力とか細かく説明していませんが、よろしければご一読ください。
乾いた灼熱の大地が巨大なドラゴンの尻尾に削り取られ土煙が巻き起こる。
前足が踏みしめるたびに地面が揺れ、咆哮が限界のない地平線に遠く響いていく。
出現の爆風で飛ばされた二人は、なんとか体勢を保ちながら武器を握る。
口元に付いた砂を拭ってレオンハルトは一つ息を吐いた。
「フィナーレ、何かに触った?」
問いかけた左斜め前―――少し距離を開けた場所にいる仲間からは返事が返ってこない。
一つに細く束ねられた深い濃紺色の髪がただ風に踊らされている。
その間が十分な返事だ。
性格上、何もしていなければ即座に否定の返事が返ってくる筈だ。
彼が何かをしたせいで余計な敵が現れた。
髪と同じ色の瞳がレオンハルトを振り返る。
「偶然だ。丁度、アレの一部が研究材料に欲しかったんだ」
「…成る程、珍しく俺に同行するって言いだしたのはこの為だったのか。それにしてはちょっと相手が大きすぎないか?流石に言っておいてくれないと」
「死なないだろ、お前なら」
得意げな顔でそう返されると寄せられている信頼が嬉しくて、それ以上の文句が打ち消される。
(こういうとこが何というか…)
どことなく粗野で人を寄せ付けない雰囲気を放ち、近寄りがたいと言われるのに、一度傍に寄った人間が彼から離れない理由であるとレオンハルトは知っている。
それと同じくらいに、昔から彼は人を見抜く目は一級品だった。
長い付き合いでそれを知っているからこそ、その目にかなったのは嬉しいという感情が素直に湧く。
地を這うような唸り声を聞き、2人は左右に跳躍した。
先ほどいた場所を、ドラゴンが吐いた炎の塊が通過していく。
「ただでさえ暑苦しいってのに…!」
ドラゴンに向かって駆け出したフィナーレを見て、レオンハルトは魔法力を高めた。
魔法力を両手で構えた大剣へと伝えると、程なく大剣が雷を纏う。
見計らってドラゴンの身の丈を上回る高波のような水壁が立ち昇る。
フィナーレの魔法で作られたそれが、ドラゴンの尾で打ち消された直後に、レオンハルトの一撃がドラゴンの首を薙ぎ払った。
手ごたえはあったが決定打にはなっていないと判断し、もう一打打ち込もうと振り返った眼前に巨大な牙が襲い掛かった。
予想以上の速さだった。
とっさに出した剣を身代わりにするが、武器を咥えこまれたため手放してその場を切り抜ける。剣を持たないレオンハルトにドラゴンが爪を振りかざした。
その横からフィナーレが飛びこみ、魔力を纏った剣がドラゴンの首を切り落とした。
彼の魔力が具現化した水の剣が弾け、一時の雨となり、大地に付く前に蒸気となって霧散する。
ドラゴンが倒れた時に発生する土煙は、その蒸気が飲み込んだ。
暑い地域での作業に加えて、心労がため息をつかせる。
「他人の領地なのに勝手に討伐してしまったな。全部は解体できないから、帰ったら部隊を借りて解体にもう一度来ないと」
ドラゴンの鱗を剥ぎながらレオンハルトがぼやいた。今、フィナーレが持ち帰るために収集している竜の一部も、全てこの地の物だ。承諾を得てからでないと持ち帰ったりできないものだ。
冒険者たちが旅の地で何かを討伐したときは、その土地で素材を売るのが常識である。もちろん、逐一調べているわけではないので、冒険者が黙って持ち帰り市場に出ることもある。
最も、肉などは特に腐敗が進むこともあり、中々遠い地には行きわたらないのだが…ドラゴンの肉は珍しいのでかなり重宝されるはずだ。
二度目のため息を吐いたレオンハルトにフィナーレが声をかける。
「人を殺ししたわけじゃない。厄介なドラゴンを倒した上に、良い素材にもなる。逆に褒章がもらえたり…」
「しないよ!?何もしなければ対峙しなかったドラゴンだし…あ、そういえばこのドラゴンを封じてた宝石は?」
「ちっ、思い出したか」
「盗賊じゃないんだし、それは領主に返すから。預かるよ、俺が、責任もって返すから」
「…」
「早くだして。領主とのいざこざは面倒だから困るんだよ」
「もったいない…使いようはあるだろうに」
「はやく」
手を差し出している笑顔が消えないうちに渡すのが得策だ。
勿体ぶっていた割に興味なさげに渡されたのは、手のひら半分ほどの大きさの宝石だった。
この地方特有のアースカラーの石の中には、大小様々な黄色や赤が散りばめられている。
レオンハルトは直ぐに石を仕舞い作業に戻ると、領主への言い訳を考え始めた。
ご一読ありがとうございました。
貴重なお時間が、少しでも楽しい時間になったなら幸いです。
20230918 春生