5 魔物狩り
「いや……」
『端的に言えば一つの肉体に二つ以上の人格を持ってしまう精神障害の一種です。先ほどの通話でパイロットが感じた違和感の正体である可能性があります』
「一つの肉体に二つ以上の人格? ……たしかにそれならあの態度も納得はできるけど」
でも、本当にロイの中に全く別の誰かがいるって言うのか?
「……いま頭を捻っても答えが出る問題じゃない、か。とにかく脱出することに専念しよう。ロイのことは後回しだ」
『了解。私からパイロットに提案があります』
「なんだ? この際だ、なんでも言ってくれ」
『現状、この施設内には敵性生物が多数存在し、その生態も未知数です。よってパイロットの生存率を高めるため、当機の武装強化を提案します』
「武装強化って、また現物を掘り返すのか?」
『いいえ』
AIがそう返事をすると、ヘルメット越しに見る明瞭な視界に蒼白い光で線が引かれ、立体的な絵になる。それは明らかにダンジョンの地形を描いているもので、複雑な構造が見事に再現されていた。
『パイロットが実際に歩いた箇所と、音の反響から計測した地形情報をマッピングしました。現在、この表示範囲内に当機の装備は存在しません』
「なら、どうしようもなくないか? 自分で作れるもんでもあるまいし」
『作れます』
「だよな――作れんのかよ!?」
『当機のファブリケーター機能を用いれば可能です。しかし、一つ問題が』
「すんなりとはいかないか。で、問題って言うのは?」
『私の情報領域に保存されているゴーレムスーツ専用装備の設計図のほぼ全てが破損しています。破損した情報を修復するには装備の実物を解析する必要がありますが』
「それはこの場にはない。おいおい、なんの進展もないまま話が一周したぞ。どうするんだ?」
『ゴーレムスーツの専用装備はいずれも敵性生物の生態情報をモデルに作成されています。装備の実物は失われていても、モデルとなった敵性生物を発見できれば破損した設計図の修復が可能となります』
「……つまり魔物を斃せば装備が手に入るってことだな。材料は?」
『近辺で採掘可能です』
「よし来た。なら、決まりだ」
AIの提案に乗る。
「魔物狩りだ、冒険者らしくな」
冒険者の仕事はなにも遺物漁りだけじゃない。
依頼があれば街に出た魔物だって斃しに向かう。
まぁ、依頼を受けるよりダンジョンに潜ったほうが実入りはいいんだけど。
『マップ範囲内に敵性生物の位置を表示、討伐に向かってください』
「なら、一番近いところからだな」
現在地にもっとも近い地点にいる魔物へと向かい、その姿を遠巻きに確認する。
未踏破ダンジョンの深層に生息しているとだけあって、やはりと言うべきか見たことがない。
背中に生えた幾百の針と、鼠のような形状からして針鼠に近い魔物だろう。
近縁種と思われる魔物に剣鼠というのがたしかいたはずだ。
そいつは背中に幾つも剣を生やし、転がってくるのだとか。
「近接戦闘は避けたいところだな、ありゃやりにくい」
全身が針に守られていて、徒手空拳がメインのこちらは不利だ。
ゴーレムスーツの装甲でゴリ押すのもありだけど、まだ強度がどれほどのものか把握できていない以上、過信しないほうがいい。
『戦闘を回避しますか?』
「いや、やりようはある」
針鼠の魔物に近づきながら、ゴーレムスーツの握力で壁から手の平台の岩をもぎ取る。
その際の音でこちらの存在に感づかれた。
針鼠の視線がこちらを捉えて射貫く。
「野球しようぜ!」
構え、踏み込み、腕を振るい、投げつける。
引き絞られた弓から放たれた矢の如く、握り拳台の岩石が空を切る。
身に迫るそれに対して、針鼠は防御の姿勢を取った。
丸くなることで全身を針で覆い、その先端で岩石を受ける。
鋭い針と接触した岩石はそれをへし折りながら粉々に砕け、けれどそれが散弾となって針鼠を穿つ。
刺さり、削り、砕く。苦痛に満ちた悲鳴がダンジョン内に反響する。
「ストライク!」
『デットボールでは?』
「細かいことはいいんだよ」
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