4 通話
握り潰さないように生身の左腕で、フォーカスされたゴーレムスーツの一部を掴む。
拾い上げたそれは左腕の部分だった。
まぁ、光の輪郭の形状からわかってて取りに来たんだけど。
「さて、と」
袖を通すように左手に部品を装着する。
若干、大きくてぶかぶかだ。
『外部パーツへ無線接続――完了。パイロットの身体情報を元に調整中――完了』
「おぉー」
表層に蒼白い光の線が走ると、左腕はその形状を変える。
指先からぴったりと吸い付いて俺以外の手は受け付けなくなった。
メジャーで丁寧に測ったオーダーメイドの籠手を装備しているみたいだ。
「次だ」
左脇腹、左胸部、左肩、左二の腕、次々に瓦礫に埋もれたパーツを掘り起こして装着。
欠けていた左半身は完全に埋まり、結合部も謎の機能で綺麗に仕上がっている。
「よーし、あとはこいつをはめ込めば」
割れたヘルメットの一部を拾い上げ、欠け落ちた部分にはめ込む。
視界に走った亀裂はすぐに溶けてなくなり、ゴーレムスーツはついに完成体となった。
人体のすべてを包み込む鎧のゴーレム。無骨ながらスマートな印象を抱く造形には芸術性すら感じてしまう。
『目標である当機の修復が完了したことにより、破損していたいくつかの機能が復旧しました』
「へぇ、たとえば?」
『フォーカス機能の拡張、敵性生物の感知、構成材質の分析、他機器への通信、自動照――』
「待った。通信って言ったか?」
『はい』
最新の解析によると、あの光を放つ板は通信機器の説が有力だと聞いたことがある。
もしその説が当たっているなら。
板はルリを突き飛ばした時に、一緒に土砂の向こうに転がった。
ルリが持っている可能性が高い。
「このダンジョン内に通信可能なのは?」
『指定範囲内に一機の携帯用端末を発見、通信を試みますか?』
「あぁ! あ、いや、でも待てよ。セイタイニンショウとやらで繋がっても使えないのか」
『緊急回線を用いれば生体認証のパスは可能です』
「マジか! それでやってくれ」
『緊急回線にて通信中……応答あり』
「ルリ! 無事か!」
「わっ、わっ、わっ!? な、なになに!? い、今の声もしかして……ライト?」
「あぁ、そうだ。驚いた?」
「びっくりしたよ! 死んじゃったかと思ったんだからね! 今どこ!」
キーンとした耳鳴りが残るほどの大音量に思わず顔を顰める。
顔が包まれてるから首を傾けても逃げられないのは不便なところだ。
『音量調節を実施』
「マジで頼む」
鼓膜を直接ノックされた気分だ。
「ルリの足下。そのずーっと下だ、たぶんな。穴から落ちたんだ」
「それはロイから聞いたよ! すっごく心配してたんだから!」
「……ロイはいまどこに?」
「ここにいるよ」
全身の毛が逆立ち、怒りが喉まで込み上げてくるのを必死で飲み込む。
ルリがロイと一緒にいるなら、こちらから下手なことは言えない。
こちらの出方次第でルリに被害が及ぶ。
とりあえず、今のところは無事のようだし、それだけが不幸中の幸いだ。
「すまない、キミと助けられなくて」
「あ、あぁ……気にするな。まだ生きてる」
「すぐに救出隊を結成してもらうから、もう少しだけ頑張って」
すべてが白々しく聞こえる中、けれどそれでも通話越しのロイはいつものロイだった。
あまりにもそのままで、まるで悪い夢でも見たのかと思うほど。
俺が穴に落ちた時の、あの人のモノとはとても思えないような不気味な笑い声が幻聴だったらどれほどよかったことか。
だが、そんなことを考えていても現実として俺はダンジョンの深層にいる。
脇腹を刺されている。
これは紛れもない事実だ。
「善は急げ! 私たちは一度ダンジョンから出ちゃうけど、絶対に戻ってくるから!」
「大丈夫、信用してる。ルリ……それからロイ、気を付けろよ」
「わかってる。いつもライトに言われてる通り、ちゃんと警戒するから!」
「なら、安心だ。じゃあ、また連絡する」
「必ず生き残ってくれ、ライト」
ロイの言葉を最後に通話を修了させる。
俺の胸中は複雑な思いで一杯だった。
「どういうことなんだよ、いったい」
俺を脅すでも、口止めするでもなく、ただ生きていることを願われた。
通話にロイが登場した段階で強引にルリに警告することも考えたが、結局は実行しないまま。
俺自身がまだロイの裏切りを受け止められていないのか?
「……これじゃまるで別人だ」
あの一瞬、俺をナイフで刺した瞬間だけ、別人になっていた。
そんな気さえする。
『ある特定の人物がある日、別人のように変わってしまう』
「あ、あぁ、そういう話だけど」
『解離性同一性障害、所謂二重人格をご存じですか?』
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