表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

2 古代のゴーレム


 見上げたその表情には不気味な笑みが張り付いていた。


「キミはもうルリには会えない」


 一際大きな震動と共に、地面が崩壊して巨大な穴が開く。

 あの巨躯の魔物が更に殴打したからだ。


「死体が残ると不味いから、キミには深層に落ちてもらう。あれと一緒にね」


 それはまるでロイの意思を汲んだかのように。


「なにか最期に言い残すことは?」


 胸ぐらを掴まれ、穴の上で宙づりになる。


「理由……は、なんだ」

「理由? そうだなぁ、こうしたほうが面白いから、かな」

「……はっ、くたばれ」


 ロイの胸を殴りつけるようにして、自ら穴の底へと跳ぶ。

 暗くて何も見えない闇の中に身を投じ、耳に届くのはロイの心底愉快そうな笑い声のみ。

 それはまるで別人のような不気味なものだった。


「くそッ」


 いつ地面に激突するかもわからない。

 その時が訪れる前に脇腹のナイフは抜いておかないと。

 落下の衝撃でより深く刺さる前に。


「あぁッ!」


 意を決して無理矢理にナイフを引き抜き、投げ捨てる。

 そして。


「トマトみたいに……潰れてたまるかッ」


 全身を覆うように魔力を放出し、落下の衝撃を軽減する。

 これしか生き残る方法はない。

 全力全開で魔力のクッションを作り、激突の瞬間は今。

 降り注ぐ瓦礫と共に地面に落ち、俺の体は大きく跳ねて転がった。


「あぁ……くそ。冗談じゃ……ない」


 脇腹の鋭い痛みのほかに鈍い痛みが体の芯から響いてくる。

 でも両手、両足はまともに動く。

 不幸中の幸いというべきか、骨折は免れたらしい。

 死ぬほどの痛みを我慢すれば立ち上がれるし、歩けもする。

 だが、脇腹からの出血が酷い。


「ま……ずいぞ、これは」


 見上げた頭上は暗闇で閉ざされ、自分が何メートル落ちたのかも見当が付かない。

 そしてなにより問題なのが頭上から響いてくる魔物の雄叫びだ。

 あの魔物はロイに命じられて俺が死んだか確かめにくる。

 もし降りてきて死体がなかったら、俺を仕留めるまで追い回すに違いない。


「魔物と……血塗れで鬼ごっこか」


 失血死が先か、魔物に捕まるのが先か。

 とにかくこの場を離れようと痛む体を押して進む。


「どこか、隠れられる場所は……」


 発炎筒は落下の衝撃で壊れて機能しない、拾った板はルリを逃がすときに手放した。

 真っ暗闇の中を当てもなく歩き、唯一の道しるべはごつごつとした岩肌だけ。

 躓かないように慎重に、だが追い付かれないように早足で。

 そうして逃げてどれほど時間が経っただろう、闇に塗り潰された視界に蒼白い光が灯る。


「あれ、は?」


 明滅するそれに羽虫のように引き寄せられる。

 蒼白い光に照らされて微かに周囲の輪郭がこの目でも捉えられた。

 一つの空間になっているようで、地上と同様に割れた窓がいくつもついている。

 その奥に蒼白い何かはある。

 辺りは暗闇ばかりで目印はなにもなく、どこの方角に向かっているかもわからない。

 今はとにかく光源がほしい。

 逃げ場がなくなるとわかっていながら、光源ほしさに空間へと踏み入る。

 ゆっくりと近づき、間近に迫ってようやくそれがなんなのかはっきりとした。


「これは……ゴーレム、なのか?」


 それは半壊した人型のゴーレムだった。

 制作者の意のままに動く、機械仕掛けの魔導人形。

 蒼白い光はこのゴーレムの胸部にあるリアクターから発せられていたものだった。


「外装だけで中身がない」


 壊れた左半身から中を覗き込むも、空洞が広がっている。

 顔に当たる部分も右半分が駆けてしまっていた。

 これじゃまるで鎧だ。


『■■■■■■』

「うわっ」


 不意に響いた声に思わず後退る。


『■■■■■■■■■』


 聞き覚えのない言語で、なにを言っているのかはわからない。


『■■■■■■』


 再び音声が響くと、今度はリアクターから光が照射される。

 頭の先から爪先まで蒼白い光を浴びせられると途切れた。


『■■■■』

「なんなんだよ、一体」


 この不可解なゴーレムに気を取られていると、唐突に魔物の怒号が轟いてくる。

 すぐに物陰に身を隠すと、今いる空間の側に地鳴りのような足音が響く。

 地面に散らばっている鏡の破片を手に取り、そっと物陰から伸ばして見る。

 鏡面を介して様子を窺うと空間の向こうに奴がいた。

 地下深くまで落とした獲物が死体になっていない、どこへ行った。そんなセリフが聞こえて来そうなほど、奴は必死に周囲を見渡している。


「――そうだ、明かりがッ」


 リアクターの蒼白い光を気取られないように覆い隠そうと両手を伸ばす。

 手の平が触れた、その刹那。

 四肢が、胴体が、獣の皮を剥ぐように割れた。


「なぁッ!?」


 あまりのことにバランスを崩し、ゴーレムの内部で背中を打つ。


『■■■■■■■■■■』


 瞬間、ゴーレムは自らを閉じて俺を閉じ込めた。


「嘘だろ、おい!」


 隙間無く埋められ、自由が利くのは壊れて無い左半身のみ。

 全身がゴーレムに包まれると、今度は暗闇に光が宿る。

 目の前が、視界の左側が闇に溶けた輪郭を捉え、周囲の様子を鮮明に描く。

 その先にいる巨躯の魔物の表情すら正確に。


「入ってくる!」


 出入り口などお構いなし、壁を突き破って侵入してきた巨躯の魔物。

 豪腕で障害物を弾き飛ばし、天井スレスレまで高く掲げた拳が降り注ぐ。

 俺に出来たことと言えば、愚かにも両手で受け止めようとしたくらい。

 瞬間、凄まじい衝撃が全身を貫いて粉々にする――はずだった。


「な、に……?」


 叩き付けられた拳は、一メートルを優に越え、人を掴めるほど大きい。

 そんな鈍器をダンジョンの地面を割るほどの威力で繰り出された。

 それはたしかに事実だったのに、この身は――このゴーレムは、それを片腕で受け止め切っていた。

 生身の左腕など添え物に過ぎない。


「どうなって――いや」


 瞬時に思考を切り替え、この怪力を生き残るために使うことを選ぶ。

 受け止めた拳を払い退け、地面を蹴って跳ぶ。

 直後、経験したことのない速度で体が前進し、魔物の胴にタックルを見舞う。

 その衝撃は巨躯を大きく後退させ、魔物の顔を苦痛に歪めるほど。

 痛みが怒りに変わり、魔物の両腕が瓦礫を掴む。

 握り潰され、投げつけられるのは礫の散弾。

 それら一つ一つを左側の視界はすべて読み取り、軌道を予測し、辿るべきルートを導き出す。


「やってやるッ!」


 記された軌跡をなぞるように体を動かし、礫の弾幕を紙一重で避ける。

 頬や肩に礫が掠め、最後の一つを右腕で振り払う。

 礫の弾幕を越えて跳躍、同時に突き出した蹴りが魔物の胴体を貫く。

 着地を決めると、風穴の開いた魔物が力なく背後で倒れた。


「勝った……マジか」


 落下の衝撃でまともに戦えるようなコンディションじゃなかったのに。

 このゴーレムの怪力とサポートだけで勝っちまった。

 それに。


「痛みが……消えてる」


 脇腹から生じる焼けるような鋭い痛みがいつの間にか消えていた。


「なんなんだ、このゴーレムは」

『■■■■』

「うわ、また喋った」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■……完了』

「あぁ?」

『はじめまして、パイロット。私は当機管理AIのジンです、どうぞお見知りおきを』

「は、え……はぁあああ!?」


 パイロット? 管理AI? いやそれよりも俺たちの言葉を話し出した。

 一体なにがなんだか、さっぱりだ。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ