7話 『仲間?』
凛とした表情で胡桃の去って行った方向を見ている霧香からは、私でも分かるくらい、戦えば確実に負けると相手に思わせるような雰囲気を感じる事が出来た。
「凄い......」
「さて、私が貴方を助けたのには理由があるわ。もちろん聞いてくれるわよね?」
「……理由?」
「えぇ。まぁ理由というよりも、お願いと言ったほうが良いかしらね。わかっているとは思うけれど、私たちは本来なら敵同士よ。だけど......って、もしかして貴方、変身も知らなかったみたいだし、なにも知らないの?」
「......はい。もしかしなくても殆どなにも知りません......」
霧香のさっきまでの凛としていた表情は驚きのあまり崩れてしまっており、私の目をジッと見たあとに、大きい溜め息をついてもう一度口を開き始めた。
「しょうがないわね。本来なら敵に塩を送る行為だけど教えてあげる。魔法少女ってのはね、簡単に言ってしまえば一週間程度で魔力が切れて死んでしまうの。当然、魔力を使えばそれだけ早く魔力切れを起こすのは分かるわよね?」
「はい。でも、それだとさっきみたいに戦いが始まったら皆死んじゃうんじゃ......」
「そうね。補給しなければ死んでしまうわ。だからこそ、皆他の魔法少女を狙うのよ。あとは、効率が悪いけれど、人々の心から生まれる異形の存在を狩って補給したりね。それと、魔法少女や異形の存在から魔力を奪えばそれだけ自身の願いを叶えられる存在。――魔女に近づくのよ」
「それって......」
魔力を補給しなければ死ぬし、逆に奪い続ければ魔女になってしまう。
つまり、願いを叶えるには魔女にならなければならず、また、異形の存在を倒すのが効率が悪いというならば、結局の所同じ魔法少女を殺さなければならないのだ。
「えぇ。貴方が想像している通り、願いを叶えられるのは膨大な魔力を持つ魔女だけよ。だからこそ、魔法少女は魔法少女同士で争うの。さっき言った異形の存在だけじゃ一生かかっても願いは叶えられないからね。精々使った魔力を補給する程度しか出来ないもの」
「そっか。教えてくれてありがとう。……だけど、どうして貴方は敵である私にここまで親切にしてくれるの? 胡桃からも助けてくれたし......」
「そうね。今は協力した方が私自身の願いに近付くと思ったからよ。今の段階で貴方と争うのは無意味だもの。それだったら貴方と協力して他の魔法少女を倒した方が良いわ。それと――情報を開示しないのはフェアじゃないもの」
クスッと笑いながら言う霧香の顔を見て、私は霧香の凛とした表情に覆い隠された中身――本質は優しいんだと感じた。
「......可愛い」
「っ!? そ、そういうのは言わなくて良いのよ。それよりも、他にも情報はあるわよ。今から言うことはしっかりと覚えておきなさい」
それから霧香が教えてくれたのは、魔力を貯めて魔女になったら願いが叶えられるということ。それと、近々魔女の集会――通称サバトが起きるということだ。
他にも、魔女になるには今の魔女を殺さないといけないことや恐らく今週辺りから戦いが激化するだろうと教えてくれた。
激化する原因としては、今回の胡桃の襲撃が他の魔法少女達にすぐにでも噂として広がってしまうからだとか。
「ありがとう。霧香ちゃん」
「感謝する必要なんてないわ。......それで、情報を教えたのは良いのだけれど、貴方は私と協力するのかしら? 別に今ここで断っても殺しはしないわ。けど、断るのなら敵対はする。次からは容赦なく戦うことになるわ」
霧香の提案に対し、断るメリットはない。むしろ、断った方がデメリットは多いのだ。魔法少女になって戦い方も知らない初心者に対して、恐らく上級者が協力してくれるというのだから、ここは信用して協力関係になるのが最善だろう。
「私は霧香ちゃんと協力したい、かな? けど、本当に私なんかで良いの? 弱っちいし、迷惑掛けちゃうと思うけど......」
「気にしないで良いわ。戦い方なんて今からでも鍛えあげられるもの。それに、一人で戦うよりも二人の方が効率は良いわ」
「霧香ちゃんが良いなら、私は喜んで霧香ちゃんと協力するよ!」
「信用してくれたのなら嬉しい限りよ。それじゃ、今日から暫くの間は休戦して、協力しましょう。ただ、貴方は人のことを簡単に信用しすぎだわ。疑うことも覚えておきなさい」
確かに霧香の言う事は正しい。今の私は霧香があらゆる状況から助けてくれたことによって、全面的に信用してしまっている。
しかし、これから先は霧香に対しても少しは疑いを持った方が良いのだろう。
そもそもとして、私と霧香は本来ならば今ここで争うべき相手なのだから。




