46話 『勝者』
「これで終わりね」
水が消え、痛みを押し殺してもう一度作り出そうとする前に、数本の剣が私の背中へと突き刺さる。
「あ、あぁ――」
地面へと倒れ込む私からは血が水溜りのように流れる。
鼓動が遅くなっていき、呼吸もし辛くなっていく。
目は虚で、なにも考えられない。
暗く、真っ暗な世界へとただ沈んでいくだけ。
本能で理解してしまう。これから間もなく私は死ぬという事を。
暗い世界を漂う中、私の心の中を駆け巡ったのは託された想いと、託してくれた人たちの言葉や笑顔だった。巡れば巡るほどに私の心は温かくなっていき、やがて私の虚ろな目から一筋の涙が流れ落ちた。
そして、死を迎えるその時に奇跡は起きた。
血と混じり合い、儚くもすぐに消える涙だったが、私の中に眠る託された想いは反応したのだ。
真っ暗な世界で私を呼ぶかのように輝く白い光。
虚ろな視界の中で形作られたその光は、まるで霧香と胡桃のようなシルエットをしており、二人は沈む私へと懸命に手を伸ばしている。
そんな差し出された手を掴んだその時、私は覚醒し、もう一度だけ立ち上がる力を得た。
「まだ、終わってない!」
奇跡的な復活。
だが、ボロボロの私に出来るのはたった一回の攻撃だけだった。
だけど、私はこれで勝てると信じている。
いや、私だけじゃない。装備している槍と籠手も私の想いに呼応して光り輝いているのだ。
「私たちの想いが合わさった今、絶対に負けない!」
「そう。そんな想いだけで勝てると思っている貴方を、今度こそ灰こそ残さずに消してあげるわ!」
言葉と共に北の魔女が作り出すのは最初に放った一撃と同じ槍。
それに対して私が出来るのは、手に持っている槍に残る全魔力を込めて投げるだけ。
奇しくも最後の攻防は槍同士のぶつかり合いとなった。
「お願い。――届いて!」
投げたのは同時だった。
全魔力を使った事で魔法少女の変身すら保てなくなった私はその場に立ち尽くし、結果を見届けるしかないが。俯くことはない。
ーー私は勝てると信じているのだ。
槍と槍がぶつかり、その瞬間に起きた衝撃は台風のように周囲の建物を崩壊させ、地面を抉って砂嵐を発生させていく。
そして砂嵐が止むと同時に、今度は爆発したかのような音と、目を焼くほどの光が私の視界を眩ませた。
堪らず目を閉じ、数十秒という短くも長い時が流れ、ようやく光は消えた。
「あぁ、そうなのね。やっぱりどんな世界になっても世界は私を嫌い、壊す事は出来ないのね。――でも! 貴方だけは許さない! 私が死ぬ前に貴方だけでも!」
光が消えたことで目を開けることが出来た私の視界に映っていたのは、私の投げた槍によって貫かれている北の魔女だった。
しかし、槍で貫かれても尚、私へと向ける視線は殺意が籠っており、苦しそうにしながらも動く手を使って、作り出した剣を私へと飛ばしてきた。
だが、私へと剣が届くより前に魔女は灰となって消え、私の眼前に剣は落ちた。
「私、勝ったんだよね......?」
疑問を解決するかのように、魔女の灰は風に乗って消えるのではなく、私を包み込み、傷を癒し、力を与えていった。
北の魔女に消滅したはずの魔女の怨念が宿っていたのかは分からないが、こうして皮肉にも世界を壊したいと願った魔女の力は、世界を救おうとする力となったのだ。
「さぁ。最後のお仕事を始めないと」
最後の決戦を終えた私は、願いを叶えるのに必要な、全ての魔女と魔法少女の力を得ることが出来た。
けれど、その代償に力のぶつかり合いや、魔女や魔法少女たちの影響によって荒れ果てた世界だった。
次の話で完結です。ありがとうございました!




