44話 『北の魔女の姿』
「その先の言葉は要らないわ。さっ、私の腕の中に来て眠りなさい。次眠りから覚めれば貴方は北の魔女と戦う運命よ。でも大丈夫。安心しなさい。私の力と、貴方の今まで託された想いがあれば絶対に勝てるわ」
言われるがままに私の体は動き出し、自然と腕の中へと導かれ、気付いた時には私は頭を撫でられていた。
母親に撫でられるのとはまた別であるが、言葉にも出来ない程に心地良く、私は撫でられているうちに眠ってしまった。
――そして、目覚めた時には私が飛び降りたはずの崖にいた。
いつの間にか太陽は昇り、辺りを見回してみても魔女は存在しない。
けど魔力が漲り、新しい力を手にしたことは分かる。
だから私は北の魔女の元へと向かわなきゃいけないのだ。皆が託してくれた力と共に。
「力を、優しさを、ありがとうございました」
涙は出ない。それでも、私は一度崖から感謝の言葉を叫び、最後の決戦の地へと足を運び始めた。
最後の戦いの場所。私が生まれ育った街の中心へと。
「......あそこが決戦の場所」
街の中心。そこに辿り着いた時、私は凄い違和感を感じた。
当然、今の街は建物の崩壊や、異形によって破壊された街の筈だ。
だが、どうしてか中心というだけでそこだけが不自然に綺麗なままだったのだ。――まるで私を待っていたかのように。
「ようやく来たのね」
分かっていた。近くによれば居ることくらい分かるのだ。
でも、それでも私は一度見ることを拒否した。戦うべき相手で、今もいつ戦いを仕掛けられても問題ないように身構えている。
しかし、北の魔女の見た目はあまりにも霧香に似ていた。だから私は戦いたくなくなってしまいしまいそうで見ることを拒否したのだ。
「身構えている所悪いけど、私がまずしたいのはお話よ」
「話? ここまできて今更なんの話?」
「貴方の知らないお話よ。魔女や魔法少女が生まれた経緯、それと、願いを叶える方法についてよ。戦うのはこの話を聞いてからでも遅くはないわ」
北の魔女の話し方は霧香とよく似ていて、戦わないと駄目と分かっていながらも私は北の魔女の言葉に頷いてしまった。
そして、私の頷きを見た北の魔女は口を開いて話始めた。
「今よりも遥か昔に、たった一人偶然にも産まれてしまった魔女が居たわ。その魔女は災いを呼ぶとされ、忌み嫌われ迫害された。けれど、魔女には普通の人にはない力――魔力があった。だから魔女は生きているだけで迫害される世界を変えようと、全ての魔力を使って世界を創り替えた。ただ、その膨大過ぎる力にも代償は必要で、魔女は元の世界を今の世界に創り変えると、この世から消滅してしまったわ。さ、これで願いの叶え方も、叶えた後の事も分かったでしょ?」
「うん。でも、どうして今更私にこの話をしたの?」
「私が話をした理由なんて一つ。貴方が話を聞いて、願いを叶えたら消滅すると知ったら諦めると思ったからよ」
「で、でも、今の話だって本当かどうかなんて分かんないし!」
「そうね。間違ってないわ。私も初めて聞いた時は信憑性もないし、嘘だと思っていた。けど、魔女を殺して力を手にしたのなら分かるでしょ? 願いが本当に叶えられることくらい」
北の魔女の言葉に私は肯定するという意味で頷く。
最初から願いは叶えられると信じてはいたが、母を殺してからというもの、私の心の中では不思議と願いを叶えることについて確証があったのだ。
「それで、さっきの話を聞いたのなら願いを叶えるには魔女と魔法少女、全ての力を集めてたった一人にならなければいけないってことは理解してるわよね?」
「うん。それは分かってる」
「そう。それならまずは貴方の願いを教えなさい。もし私と同じなら貴方に力をあげても良いわ」
北の魔女が一体何を言っているのかが私には分からない。
どうして願いを聞くのか。
なにせ、私と北の魔女の願いが一緒だとは到底思えないのだから。




