41話 『母の愛情』
心臓を貫かれても尚、最後に母親が教えてくれたのは他の魔女の能力と、対処法についてだった。
まず、母親が魔法少女を操れるように、他の魔女も個々の能力を持っている。
一人は無限の水を、一人は重力を、そして、残るは天性の武と東の魔女同様、無限の武器だ。
そして、その中でも最もやばいのが天性の武と無限の武器を持った北の魔女。
魔女の集会で南の魔女を殺して力を奪った北の魔女は、既にこの世界において他の魔女の追随を許さない魔女になってしまっている。
確実に今の私では勝ち目はなく、簡単に捻り潰されるというのが母の見解だった。
けれど、そんな私でも母の話では唯一勝てる方法が一つだけあるとの事だ。
それは残ったもう一人の魔女の力を使うこと。
もう一人の魔女が存在する場所は街から離れた崖に存在し、月が一番高く昇る時にそこから飛び降りる事によって出会うことが出来る魔女だ。
能力は無限の水を操る力であり、それを殺して奪う、或いは奇跡的にも託してくれれば勝ち目はある。
どちらにしても、北の魔女よりも早くそこに向かわなきゃいけないのは確かだが、そもそもとして本当に上手くいくかなんて分からない。
力だって貰えないかもしれないし、貰ったところで負けるかもしれないという不安しかない。
でも、そんな私の顔を見た母は優しい笑顔で口を開いた。
「そんなに不安な顔をしなくても大丈夫よ。貴方の槍と籠手、託された思いがあればきっと勝てるわ。だって、貴方は魔女になったこの私を助けてくれた自慢の娘なんだもの」
母親はそう言った後に私の頭を最後の力で撫で、静かに目を閉じ、息を引き取った。
私は胸に言葉を刻み付け、涙を堪えながらその場を立ち去る。
後ろでは砂粒のように消えていく母親が存在するが、決して振り向くことなく、私は母親から教えられた魔女の元へと前を向いて進み始めた。
――行き先は、崖から飛び降りた全てが水の場所。月が一番高く昇った時にしか辿り着けない幻とも思える場所だ。
それから母親である魔女と戦ってから、休む暇もなく私は走り続けた。
「これが私の過ごした街......」
林を抜け、街を一望したときに感じたのは絶望と孤独感だった。
魔女と魔法少女、異形の存在によるものなのか、建物は瓦礫と化している。
当然、学校も道路もなにもかも崩れていた。
思い出は消え、歩いている人は殆どいない。
「......早く行かないと」
少なからずこの災害に関わっているともなれば心が痛むが、私はそれでも立ち止まらなかった。
勿論私に時間はない。
そんなことは分かっている。
けれど、それでも私は街を抜けている最中に襲われている人を助ける為、異形の存在を倒していた。
私が助けたいと思ったからだ。
――でも、私一人では助けられない人の方が多かった。
「きっと私が願いを叶えて助けてみせるから!」
自分が如何に非力かという現実と、助けたいという思いから私は気休めかもしれないけれど、大きな声を出して挫けそうな意思を払拭した。
襲われている人の断末魔と助けを呼ぶ声に、私は唇を強く噛みながら耐えて突き進み、噛んだ唇から出た血が固まる頃には崖へと辿り着いた。
幸いにも北の魔女はまだ居らず、私の方が先のようだった。
――そうして、丁度月が一番高く昇る時に、私は母親の言葉を信じて崖から身を投げた。




