39話 『深淵から生まれる者』
「う、動いて私!」
槍を止めてしまったが故に、母である魔女に異変が起き、母は遂に理性を失った。
そして、悶え苦しみ、言葉になっていない叫びと共に私を吹き飛ばすと、本来の武器である黒く長い糸を召喚し、地面へと深淵のような真っ黒な穴を作り出した。
穴は底も見えず、どこに繋がっているのかも、何が起きるのかも分からない。
困惑する私の前で魔女はおもむろに穴へと糸を吸い込ませ、魔法少女を呼び出した。
「なんで魔法少女が......これが魔女の力なの!?」
カタカタと動く魔法少女。
糸で操られているから当たり前かもしれないが、お世辞にも魔法少女は生きているとは言えない。
生気が一切感じられないのだ。
しかし、例えば死んだ魔法少女を呼び出しているのだとしても、不自然な事にどれもこれもが傷一つない。
死んだことで肉体が再構成されたのか、或いはこれも魔女の能力なのかは分からない。
だが、例え死んでいようが人形だろうが、生きていようが、私には関係ない。
敵として来たのなら殺す以外に選択肢はない。
「弓に剣、それに盾......」
殺そうと思っていても、問題は魔法少女達の武器だった。
武器を持っているという事は能力が使える可能性は極めて高いのだ。
もし仮に、能力すらも使えるのならば、厄介極まりない。
ざっと見た感じでも遠距離と近距離で数は分かれているものの、短剣に鞭なんかといった武器までも存在している。
「それでも私は負けないから!」
例えどんな能力を使ってこようとも、私は負ける気はない。
糸を使ってくるというのなら戦い方はあるのだ。
幸いにもここは林だ。木々を使って糸を絡ませ、魔法少女を誘導してしまえばいい。
そうして一か所に集めてしまえば私の勝ちだ。
上手く作戦が嵌るかは分からないが、相手は狂気で理性を失った魔女だ。
例え魔法少女の能力を上手く活用したとしても、林を沢山の魔法少女を操りながらでは操作はおぼつく筈。
そこが狙い目だ。私の使う魔法に木々は関係ない。
範囲にさえ全員を入れてしまえば全てを潰すことが出来る。
本当は魔力を大量に使うからここぞというときに決めたかったが、こうして魔女に手出しできないという状況なら仕方ない。
強化された私の魔力を使って、超広範囲でキューブによる圧縮を行う以外にこの状況をひっくり返す手段は考え付かない。
「瑠奈、殺す」
「殺す、殺す、殺す」
「力の為に」
「願いの為に」
既に他の作戦を思いつく時間はない。
生気を失った魔法少女たちは武器を構えて私へと向かってきているのだ。
それも、欲望を叶える為に。
「なにこれ、光!?」
迫る魔法少女へと背を向けて走る私の頭上から謎の光が放たれ、私の目は奪われた。
「きゃっ......」
目を奪われた私の体へと巻き付く鞭に加え、四方からは矢と短剣が飛び、逃げようとする先には盾と剣を構えた魔法少女が誘い込むように待っていた。
「そんな作戦には乗らないから!」
キューブを握りながら魔力の壁を作り、矢と短剣を防ぎ、その間に鞭を操る魔法少女へと魔力の矢を放った。
「う、ぐぅ」
魔力の矢は魔法少女の目に突き刺さり、痛みはあるのか悶えている。
しかしそのお陰で鞭の縛りは緩み、私は容易に危機を脱することが出来た。
逃げ出す私へと、魔女は次の手として残った魔法少女達の能力を発動しようとしているのか、動きが緩慢になっている。
「これで終わりだよ!」
降って湧いたチャンスに私はすかさず距離を取り、キューブによる拘束を始めた。
糸を操作して逃げようとしているが、魔力の上がった私のキューブは逃げるスピードよりも早く拘束範囲を広げていき、数秒後には全ての魔法少女を捕縛することが出来た。
相変わらずキューブ内で暴れられることによって私の魔力はぐんぐん減っていくが、耐えきれない程ではない。
後の問題は魔女がどう動いてくるかだが、どういう訳か魔法少女を捕えても尚、未だに私へと直接攻撃してくる様子はなかった。




