36話 『不穏な懐かしさ』
「魔女が居る場所、あそこしかないよね」
こうして魔法少女が私一人となった今、やるべき事は魔女と会うことだ。
殺し合いをするかどうかは魔女次第。話し合いが望ましいけど、会話が成立するか分からない。
だけど、どんな事になろうとも私は託された想いと願いを叶える為に、初めて契約をした懐かしい林へと向かい始めた。
一方、この時。
神社の裏手の林の中で、蠢く黒い影が人の形へと変貌した。
濃い霧の中でも異質な影は口が裂ける程に笑い、その背後には何体もの人形が浮いている。
「やっぱり貴方が生き残ったのね。あぁ、会いたいわ。愛しの瑠奈!」
両手に結ばれている糸は歓喜の言葉と共に揺れ、人形たちは糸に合わせて奇妙に動く。
霧が濃くなっていく中で不気味な笑い声は響き、人形たちの真っ赤な目は不気味にも光り輝いていた。
太陽が山へと姿を隠していき、あと一時間もしないうちに青空がオレンジへと変わることを教えてくる。
未だ明るい中、私は通い慣れた神社へと入り、人生を変えた霧の濃い林へと足を踏み入れた。
「駄目だ。何も見えない......」
前の時と同じく、夜になっていないにも関わらず辺りは暗く、霧のせいもあってか魔女らしき人物は何も見えない。
以前、魔法少女になった時の事を思い出そうと頭を抑えても、上手く覚えていないのか記憶はハッキリしない。
魔女の姿も黒いということしか分からず、何かを喋っていたはずなのに声も思い出せない。
ただ、それでも私は林の奥へと進んでいった。
恐怖はある。魔法少女になって力を手にしていようと、ここに居るはずの魔女の強さは未知数。
それに加えて視界も悪いとなれば普通は足を止めてしまうだろう。
それなのに私が躊躇なく進んでいる理由は一つだった。
「この林、なんだか懐かしいような気がする」
懐かしさ。不思議と進むにつれて感じるのは母親と過ごしていた時のような懐かしさだった。
怪しさはあるし、これが私をおびき寄せて殺すための魔女の罠という可能性は高い。でも、私の足は止まらない。いや、むしろどんどん速くなっていく。
「会いたい。早く、早く!」
あり得ない。あり得るわけがない。魔女が私の母だなんて。
否定したいのに、懐かしさを感じていくうちに記憶に残る魔女が母に思えてきてしまう。
行く手を阻むように伸びる蔦や木々、入り込んだものを迷わせるように絡み合う道。
まるで迷路に迷い込んだようだ。
焦る気持ちが思考を鈍らせ、無限の通り道へと閉じ込められたような、そんな感覚に惑わされてしまう。
「――!」
「えっ......今のって」
微かに聞こえた声のような音。
異変に気付いた私の脳内は冷静になり、音のした方へと足を進めていく。
進んでいく中で、明らかに感じるのは視線。
全身を舐め回すように見られ、不快な気持ちが募っていく中――数多くの笑い声とカタカタと動く音が、たちまち連鎖した。
「この先に居る!」
私は音の鳴っている方へと走り出す。近づくにつれて薄くなっていく霧と止んでいく音。
そして、霧を抜けたその瞬間。
「家......?」
私の視界に飛び込んできたのは、煉瓦造りの家だった。




