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ウィッチ・コントラクター  作者: ねぎとろ


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34話 『侮辱』

「はぁ、はぁ......」

「この程度で疲れているようじゃまだまだね」


 槍を構えている霧香の前で無防備にも私は深呼吸をし、息を整える。

 そして、自らの武器を篭手から槍へと変えて接近戦を仕掛けた。


「深呼吸までして何か考えがあるのかと思ったけれど、馬鹿正直に戦うだけなのね」

「その馬鹿正直に戦うのが私の作戦だよ」

「そう、だったら見せてみなさい!」


 槍を武器として戦う霧香に対して、同じ槍で接近戦をしても恐らく勝ち目は無いに等しい。

 けれど、遠距離で戦うのはもっと分が悪い。キューブで閉じ込めてしまえば勝てるかもしれないが、そう簡単に当たるわけもない。


 だからこそ、私は槍を使って戦う事を選択したのだ。

 幸いにもキューブの形は槍にも篭手にもすぐに変形させられるし、霧香の槍を回避しつつ至近距離で魔法の矢を放つことも出来る。


 だけどそれはあくまでも脳内での話。実際にはそう上手く戦えるわけもないし、わざわざ霧香の得意な武器に合わせて戦うつもりもない。

 狙うのは短い中で考えた作戦だけ。


 霧香との能力差が圧倒的にかけ離れている私が勝てるかもしれない唯一の作戦だ。

 今の霧香を見れば成功率が低いなんて分かりきっているが、それでもこの作戦に私は命を賭けるしかない。


「遅い。遅すぎるわ」

「霧香ちゃんこそ、言う割には当たってないみたいだけど?」

「言ってくれるじゃない!」


 依然とはまるで別物に変わっている霧香の槍と、私の持つ槍がぶつかり合い、甲高い音が響き渡る。

 至近距離で放たれる霧香の槍を避けるのは容易ではなく、私の服は破れ、傷が増えていく。

 けれどこれで良い。私が殺されそうな状況を作ることも作戦の内なのだから。


 そうして、私の狙っていた瞬間は唐突にやってきた。


「これで終わりよ」


 意図的に手を抜き、わざと隙を作り、そこを霧香が狙ってくれたからこそ私の策は上手くいった。

 乗ってくれるなんて思ってもいなかったし、そもそもこの作戦自体が霧香に効く可能性は無いに等しいと思っていた。


 なにせ、この作戦は冷静に戦っていれば罠だとすぐ分かる作戦だ。

 私からしてみればいつも冷静な霧香が冷静さを欠くなんて有り得ないとしか思えない。


 ――だけど、霧香は私の首を狙った。勝ち筋が見えたからなのか、それとも私の狙いを見抜いた上での事なのかは分からない。

 でも、千載一遇のチャンスを見逃す程私は馬鹿じゃない。


「なっ!? まさか狙って!?」

「ごめんね。霧香ちゃんの負けだよ」


 霧香が私の首を狙ってきた所で槍を回避し、私は槍をキューブへと戻す。

 そして、わざと魔法の矢を放つように光らせ、霧香に距離を取らせようとした。


 案の定、至近距離では回避出来ないと察した霧香は後ろへと距離を取ろうとする。

 だが、私は先にキューブを使って、凛が使っていたように魔力の壁を作り出した。そして、霧香が下がれないように道を塞いだ。


 けれど、それに気付いた霧香はいち早く私を仕留める為に距離を取るよりも無理な体勢なまま渾身の力で槍を振るう。

 しかしそれよりも早く、私は霧香の頭。いや、手足へと向けて後ろに下がりながら魔法の矢を放ち、直撃させた。


「――っ!?」

「......」


 睨む霧香の目を見て俯く私。

 どうして霧香が私を睨んでいるのか、それは私の取った行動のせいだった。


 私の魔法の矢は結果としては霧香へと直撃した。

 ただ、狙い通りの場所じゃない。元々は頭を狙って放つ筈だったのを、私は直前で手足へと変えたのだ。


 その結果、霧香に対して致命傷にはなり得なかった。

 当然だ。魔力を込め、殺傷能力を高めようとも手や足では殺す事は出来ない。


「どうして......どうして頭や心臓を狙わなかったの?」

「そ、それは......」


 それ以上の言葉は私の口からは出てくることはなく、俯くことしか出来ない。


「貴方もここまで生き残っているのだからいい加減魔法少女の宿命は理解出来ているでしょう? 私達は殺し合っているの。ここは戦場よ? 情けは私を侮辱しているのと一緒なのよ」


 霧香の言葉は正しい。私達は今殺し合っているのだ。誰が相手でもここが戦場であることに変わりはない。

 殺すというのは考えたり、言葉にするのは簡単だ。


 でも、実行するのは難しいなんてものじゃない。私自身、数人は殺しているが、殺した後の気持ちは最悪だし、良いものではない。


 ......けど、魔法少女として相対したならばルールとして殺し合いは絶対。ここまできたのだからそれくらいは理解している。

 が、やっぱり心は否定してしまう。


 胡桃の時と何も変わらない。思いを奥底に閉じ込め、蓋をして覚悟を決めたとしても、いざ殺すとなればそんな覚悟は薄れていく。

 所詮は偽りの決意。


 ――でもそれは霧香を怒らせるのには充分な理由だった。

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