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ウィッチ・コントラクター  作者: ねぎとろ


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32話 『揺らぐ私と揺るぎない霧香』

「ーー終わったかしら?」


「あ、霧香ちゃん。うん。ちゃんとお別れ出来たよ」

「そう。それで、どうして指輪から魔力を全部吸い取らないのかしら? 願いは託されたのでしょ?」


「えっ!? なんで霧香ちゃんがそれを知ってるの!?」


「あれだけ光れば魔法少女なら誰でも分かるわよ。それに、今の貴方からは今までとは比べ物にならないくらいの魔力を感じるもの。こんなの託されたことによって胡桃の力を得た以外あり得ないわ。それで、指輪はどうするのかしら?」

「あ、えっと、残しといちゃ駄目かな?」


 胡桃に託された指輪。唯一灰になることなく、残された遺品。

 もしも内蔵されている魔力を全て吸い取ってしまえば指輪は崩れてしまう。それだけは嫌だったからこそ、私は残すという選択をした。


「はぁ。......ま、それで貴方が良いなら問題ないわ。それよりも早く帰りましょう。久しぶりに死にそうになって疲れたわ」


 一度溜め息をついた霧香は、魔法少女の変身を解いて、結界の張ってある安全な自宅へと歩き出した。


「胡桃の願い、確かに受け取ったからね」

「一人で喋ってないで早く家に入るわよ。また襲われたら洒落にならないわ」

「うん! 今行く!」


 家の前で待つ霧香の元へと走り出す私。

 そんな中、指輪へと語りかけた私の言葉に反応するかのように、真紅の指輪は一度だけ静かに輝いた。


 胡桃との戦いが終わった後、数日経っても忘れることの出来ない胡桃との思い出に悲しくなることはあるが、それを除けば私達の生活は実に平穏だった。


 過ぎていく時間と、襲われない日々が二週間経ったある日の夜、私は知りたくない事を知ってしまった。


 それは、霧香が夜に一人で魔法少女を殺しに行っている事だ。


 (霧香ちゃん、どうしてあんな悲しそうな顔してるんだろ)


 霧香が外に出たと分かった私の目は冴え、その日の私は一切眠ることはなかった。

 帰ってきた霧香から血の匂いがした時も、私の顔を悲しそうに見つめているときも、狸寝入りをし、起きていることがバレないようにした。


 だけれど、そんな事実を知った後でも私は何も知らない振りをして霧香との日常を楽しんだ。

 友達、いや、相棒とも言える霧香ちゃんとは、胡桃の時と同じようにいつ殺し合いになってもおかしくはない。

 そう理解していても、私は偽物のような本物の日常を満喫した。


 ――でも、そんな日常は呆気なく崩れ去った。

 なにもおかしくない普通に天気の良い日に、霧香は覚悟の決まった目を私に向けながら口を開いた。


「瑠奈。今日の夜に殺し合いをするわ。残りの魔法少女も全て片付いた。後は私たちだけよ」

「えっと、うん。分かってるよ。大丈夫、ちゃんと戦うよ。願いを叶える為だもん」

「そう。なら良いわ。それじゃ、時間と場所だけ伝えるわね。......それじゃ、待っているわ」


 淡々と場所と時間を伝えた後に去っていく霧香を見届ける私の顔は、鏡を見なくても分かるくらいの無理な笑顔。


 涙を堪え、霧香の姿が完全に見えなくなった時体からは力が抜け、私は床へとへたり込んだ。


 唐突に訪れた最悪な時間に意識が呆然とするが、そんな中で私の脳裏をかすめるのは去り際に一瞬だけ見えた霧香の表情。

 淡々と私に告げた時とは違う、辛く苦しそうな顔は、まるで覚悟が揺らいだかのようだった。


 だけど、こうして去っていった事を考えれば分かる。

 もう私と霧香には殺し合う以外の道はなく、霧香は私を絶対に殺す気でいるという事が。


「はぁ......思えば霧香ちゃんとは不思議な出会い方だっだなぁ」


 霧香との出会いは少し特殊だった。魔法少女でなければ出会うことはなかったし、胡桃が襲ってこなければ協力なんてしてなかっただろう。

 それに、霧香と出会ってなければ私は既に死んでいる筈だ。普通に考えれば有り得ない確率であり、私と霧香が出会えたのは不思議なんてものではなく奇跡でしかない。


 そんな奇跡があったからこそ、私にとって何でもない日常は思い出になり、こうして別れの日がやってきてしまえば思い出は次々と脳裏に浮かんでくるのだ。まるで走馬灯のように......。


「今まで霧香ちゃんと過ごした日々、か。辛い思い出と悲しい思い出も確かに多いけど、霧香ちゃんと過ごした日々は楽しかったな。一緒にお風呂入ったり、寝たり、そんな事でもすごく楽しかった。だから......私も覚悟を決めないと......これが魔法少女の宿命なんだから」


 流れる思い出から霧香と戦わない道を選ぼうと私は考えた。


 しかし、その考えは間違っている。言葉にして探したところでもう戦わないという選択肢はないのだ。出来るのは最後に霧香へと我が儘を言う事くらい。

 言っても意味はないだろうけども、私はきっと言わずにはいられないだろう。


「霧香ちゃんの覚悟はもう揺れないだろうなぁ」


 ベッドに仰向けに寝転びながら私は未だに一縷の望みを捨てきれずにいる。


 だけど、普通に考えれば霧香は私の事を簡単に殺せたはずなのだ。

 無邪気に日常を楽しんでいる時や、寝てるとき、いつだって霧香なら私を殺せた。


 ただ、それでも霧香はちゃんと向き合って戦う事を選んだ。

 それはきっと覚悟が決まったからだ。あの時見えた一瞬の揺らぎこそが最後であり、今はもう揺らぐことはきっとない。


 だからこそ、本当なら私も希望に縋ることなく霧香と向き合わなきゃいけないのだ。


「分かってる。そんなことくらい理解しているのに......どうして涙は止まらないの......」


 楽しい思い出も、辛い思い出も、何もかもを思い出すほどに私の目からは雫が落ち、ベッドを濡らしていく。


 ――でも、涙を流した後は前を向かなくちゃいけない。

 そうしなければ、霧香の覚悟と優しさを不意にしてしまうし、私の最後の想いも伝えることが出来ないのだから。

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