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ウィッチ・コントラクター  作者: ねぎとろ


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29話 『最凶で最強の魔法』

「えっ......霧香ちゃん?」


 霧香と胡桃が戦いだしておおよそ三十秒。そんな短い時間で霧香は行動不能にされてしまった。それはつまり、胡桃は霧香よりも圧倒的に強いという事であり、残された私では勝ち目がないという事だ。


「嘘、だよね? あんなに強い霧香ちゃんがこんな簡単に負けるはずないよね?」


 動揺した私の心を占めていくのは霧香の安否を確認したい気持ちと、まだ負けたという事実を受け入れられないという気持ち、そして胡桃への恐怖だった。


 そんな恐怖は体にも伝播していき、さっきまでの集中は解け、切り札の魔法を発動することが出来なかった。


「えへへ。ようやく殺し合えるね!」

「近寄らないで! これ以上近づいたら溜めてた魔法を撃つよ!」

「それ、ホントかなぁ?」


 私の精一杯の去勢など胡桃に通用するわけもなく、私が瞬きをした瞬間には胡桃は私の背後に立っていた。


「きゃあっ!」

「ほらやっぱり。震えてるってことは戦うのが怖くなって使えなくなったんでしょ?」


 後ろに立たれ、驚いて距離を取ろうとする私の腕を掴んだ胡桃の口元は笑っており、まるで玩具を見つけた子供のような表情だった。


「ま、いいや。一瞬で終わるのもつまらないし遊んであげる」


 本気で戦う気など胡桃にはないのか、掴んでいた私の手を離すと、悠長に歩き出して私との距離を取ってくれた。


「このくらいで良いかな?」

「............」

「うーん。返事をしないってことは良いってことだよね。それじゃ、いっくよ~!」


 胡桃の言葉に返事をする暇がないほどに私の脳内は稼働し続け、どうやったら胡桃に勝てるかを考えていた。

 当然、胡桃の速さに追いつくことは不可能であり、現状も視界に胡桃を収めて瞬きをしないように注意するしか出来ないのだ。


 だが、そんなことをしても胡桃の動きを見ることは殆ど出来ず、気が付けば胡桃の両手は私の胸に存在した。


「えっ!? ひゃっ! ちょ、ちょっとやめて!」

「うーん。最後に揉む親友の胸は最高!」

「や、やめてって言ってるでしょ!」


 胸を触られている中で私が咄嗟に作り出したのは霧香の持っていた槍であり、それを横薙ぎに振るう事でようやく胡桃を遠ざけることが出来た。


「ふ~ん。瑠奈ってそんな能力なんだ。便利そうだけど、胡桃の速さに追いつけないなら武器を持ってる意味がなさそうだね!」


 胡桃が動き出す直前に、私は持っている槍をキューブへと変化させて自身の背後へと投げた。そして、胡桃が喋っている間に魔力の壁を作り出す位置を決めてから、待機することにした。


 最早この戦い方は賭けであり、私に能力だからこそ出来る事。既に胡桃の速さに対抗することは不可能だし、動きを読む以外に選択肢はない。


 そして、私は賭けに勝利した。読みが当たり、胡桃は私の背後を取ろうとしてきたのだ。


「おっと! こんなの胡桃には当たらないよ~」


 胡桃が背後から攻めてきたとき、私の用意していたキューブは槍へと変化し、胡桃を下から貫こうとした。

 また、そのタイミングに合わせて私が放った無数の魔法の矢も胡桃を襲う。


 しかし、どちらの攻撃も胡桃に当たることはなかった。

 意図も容易く避けられてしまったのだ。それも、後ろに下がるというだけで。


「......ありがとう胡桃。予想通りに動いてくれて」

「――えっ? あれ? 動けない? あっ、魔力で壁を作ったんだね!」


 だが、胡桃が避けてくれるという事自体も私の読み通りだった。

 そもそも、胡桃が避けてくれること前提で罠を仕掛けたのだ。魔力の壁という罠を。


「ちゃんと戦わずに遊んだ胡桃の負けだよ!」

「そうかなぁ? こんな薄い壁、胡桃なら一瞬だよ!」

「させない!」


 胡桃が篭手に力を入れるよりも早くに走り出し、私はキューブがまだ槍の穂先しか変形していないまま、胡桃の左胸を突き刺した。


「霧香ちゃん! 起きて!」


 霧香が生きている事だけを信じ、私は必死に胡桃から離れないように抑え込む。

 必死に握る穂先は私の手にも傷を作り、血がポタポタと流れ始める。


 そんな血と共に流れるのは親友を刺したという罪悪感と、霧香を信じての涙。それでも尚、私は痛みを感じないかのように穂先を握り続ける。


「無理だよ。あいつはもう死んでるの。でも安心して、瑠奈も殺すから。胡桃に痛みを与えるなんて許さないから!」


 傷を負ったことが余程許せないのか、突然怒りだした胡桃は壁を壊すのでなく、私に向かって篭手を振るってきた。

 最早私に避けることは出来ない。そして、当たればお腹に穴が開いて死を迎える。

 助かる道は霧香が起き上がってくれることだけだった。

 ただ、例え生きて立ち上がったとしてもこの一瞬に間に合わなければ私は死ぬ。


 そんな事を考えながら迫りくる拳にも目を逸らさずに居ると、目の前で奇跡は起こった。


「ーー誰が、死んだって?」

「う、嘘。なんで生きて......」

「あれくらいじゃ死なないわよ。ま、意識は失っていたけどね」


 私の眼前に広がった光景は、頭から血を流す霧香が胡桃を貫いて動きを止めているのと、霧香が生きていることに驚愕しつつも、未だ戦意を喪失していない胡桃だった。


「霧香ちゃん! 良かった。生きてて本当に良かった......!」

「私は貴方と最後に殺し合うまでは死なないわ。だから、安堵するよりも早くに切り札を使いなさい! この子、魔力を使って無理やり力を底上げする気よ!」


 焦る霧香の声に頷いた私は痛む体を無視して魔力を注ぎ込み、止まっている胡桃へと狙いを定め、霧香へと離れる合図を出した瞬間に魔法を発動させた。


「胡桃、ごめんね」


 発動した魔法は瞬時に胡桃を取り込み、キューブ型となって閉じ込めてしまった。これでもう胡桃の死は確定したのだ。


「この魔法、凄いわね」


 素直に称賛してくれる霧香の言葉に私は「あまり良いものじゃないけどね」と苦笑いしながら返し、キューブの中で壊そうと暴れている胡桃を必死に抑える。


 中からの衝撃で魔法を解きたくなるほどに魔力はどんどん消費されていくが、それに抗うようにキューブも圧縮を開始していった。

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