28話 『親友の強さ』
「胡桃、そこは危ないよ」
「――これは槍!?」
爆発によって生じた煙を使い、胡桃の取りそうな行動を予測した私は、背後に自分の武器であるキューブを置いていた。
そして案の定正面からではなく、背後を狙ってきた胡桃に対して私は能力を発動し、キューブを槍に変えて対応した。
しかし、そう簡単に貫くことは出来ず、胡桃の頬を少し掠った程度しかダメージを与えられなかった。
「ふーん。まさか瑠奈に傷を負わされるとは思わなかったなー。ま、この程度じゃすぐ治るから良いんだけどね。それよりも、あんまり気を抜かない方が良いよ? 胡桃の速さには追い付けないだろうし!」
「――貴方の相手は私よ」
私の目では追えない速度で動き出した胡桃の篭手が私に当たる瞬間、私の後ろから飛び出すように出てきた槍が篭手と衝突し、甲高い音と共に力と力のぶつかり合いとなって地面は陥没した。
「貴方って見た目によらず結構馬鹿力なのね」
「胡桃からすれば防げてる方が凄いと思うけどね!」
「ほんと、どんな力よ......」
力に押し負けた霧香の体勢が崩れたその瞬間に、胡桃は自身の体を捻り、胡桃の顔面を狙って回し蹴りを放った。
しかし、体勢を崩しているのにも関わらず、霧香は自らの槍を使って無理な体勢で蹴りを防いだが、肝心の槍は柄の部分で受けてしまった影響で折れてしまった。
「はぁ、はぁ。あの子、身体能力を魔力で相当底上げしてるわよ」
「うん。それに、あの篭手も危険だと思う。少なくとも私に使っていた爆発と雷は切り替えて使えるだろうし、恐らくそれ以外にも使える筈」
「それは厄介ね。それで、貴方はだいぶ傷だらけだけどまだ戦えそうかしら?」
霧香の言葉に「うん」と私は答える。そして私はキューブを構え、霧香は新たな槍を創り出して胡桃へと攻撃を仕掛けた。
「二人で胡桃を殺せたら良いね~」
私達の攻撃を意図も容易く避ける胡桃は、笑いながら霧香を蹴り飛ばし、瞬時に私の腹を思いっきり殴ってきた。
「うっ、おえっ!」
「んー、これでおしまい? 呆気ないなぁ」
「私がもっと楽しませてあげるわ!」
腹を殴られ、胃の中に残っていた物を吐き出しそうになるが、私はそれを必死に抑えて地面へとうずくまった。
そんな私を見下すように胡桃は見ていたが、そんな隙を霧香が見逃すはずもなく、槍を薙ぎ払うが寸前の所で避けられてしまい、距離を取られてしまった。
「......き、霧香ちゃん。私の秘策があるんだけど、私を信じて時間を稼いでもらえる?」
「大丈夫。貴方を信じるわ」
私は胡桃の前に戦った魔法少女を殺した魔法を使う為に立ち上がり、戦闘を霧香へと任せて集中することにした。
「それで、どれくらいの時間稼げば良いのかしら?」
「一分間。胡桃に絶対に当てるためにもそれくらいの時間は欲しいかな」
「一分ね、それなら余裕よ。それに、別にあの子を倒してしまっても構わないのでしょう?」
私がキューブにありったけの魔力を注ぎ込むのと、魔法を発動する時間、それに加えて動きの速い胡桃に絶対に当てるための時間が一分だ。
もし外してしまえば私は動けなくなるし、殺されることは間違いない。
そもそもとして私が集中している間に霧香が殺されてしまうのではないかという心配もあるが、きっと大丈夫だと信じている。
なにせ、今の霧香は本気を出しているのだ。ただでさえ強い霧香が槍を両手に持ち、更には宙に無数の槍を浮かべて戦っているのだから、そんな姿を目の当たりにすれば心配なんて吹き飛んでしまう。
それから程なくして、わざわざ準備を待ってくれていた胡桃と霧香の苛烈な戦闘は始まった。
両者共に悠然と立っていたが、先に攻撃を仕掛けたのは霧香だった。
自身の背後に浮かぶ無数の槍と共に持っていた槍を飛ばし、霧香自身は一本の槍でただ突撃したのだ。
そんな霧香の攻撃に対し、胡桃が取った行動は篭手に炎を纏わせ、それを解き放つことによって炎の壁を作り出しただけだ。
しかし、そんな炎の壁でも霧香の飛ばした槍は燃えていき、霧香自身も安易に飛び込める状況じゃなくなってしまった。
「甘いわね」
「へぇー、そんなことも出来るんだ!」
「その余裕な態度が甘いと言っているのよ!」
霧香の投げた槍の一本は霧香自身が操作していたらしく、それによって胡桃の炎の壁に干渉されることなく不意を突くことが出来た。
そしてその攻撃に合わせるようにして霧香自身も動き出し、背後から迫る槍を避ける為に空中へと飛び上がった胡桃の真下から巨大な槍を突き上げるように創り出した。
だが、槍が胡桃に当たることはなく、霧香の認識スピードさえも超えた速さで動いた胡桃は、霧香の腹を殴り、篭手の力で爆発させた。
「貴方、化け物ね」
「ううん。胡桃は魔法少女だよ!」
こうして魔力を注ぎながらも戦闘を見ていた私にとって霧香が手も足も出ないというのは衝撃的だった。
霧香は強い。それは今尚目の前で起きている戦闘を見ても分かるし、私に戦い方を教えてくれたりと、戦闘のセンスもある。
もし仮に私がさっき戦った魔法少女と霧香が戦えば余裕で勝つだろう。
ーーけど、そんな霧香を上回っているのが胡桃だった。
「貴方、隙があるわよ」
「――ないよ。隙なんて」
私から見ても明らかに霧香の攻撃は胡桃を捉えていたにも関わらず、霧香の槍は胡桃に当たることはなく、逆に槍を踏まれて抑え込まれてしまっていた。
「もう飽きたから殺しちゃうね。バイバイ」
霧香が槍から手を離すよりも早くに胡桃の篭手による攻撃が霧香の腹に命中し、霧香は口から血を流しながら地面に膝をつけてしまった。
「瑠奈、時間稼ぎも出来なくてごめんなさい......」
霧香の掠れた声が聞こえた時、私の視界に映ったのは顔面を回し蹴りされて吹き飛ぶ霧香の姿だった。




