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ウィッチ・コントラクター  作者: ねぎとろ


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25話 『妖艶な魔法少女』

(そうだ。これは全部私の不注意からなる危機だ。でも、多分だけど私一人じゃ勝てない。どうしよう)


「駄目よ。全然駄目。逃げるなんて考えちゃ駄目よ。折角見つけた私の獲物なんだから逃がさないわ」

「逃げるつもりなんてないから。それよりもどう? 私の血は美味しい?」


 精一杯の時間稼ぎだけど、何もしないよりはマシだ。結界の中で寝ている霧香が私に気付いてくれる可能性は万に一つもないし、きっと胡桃の時のように誰かが助けてくれることもない。


 だからこそ、時間を稼いで覚悟を決めないといけないのだ。私が一人で魔法少女を殺す覚悟を。


 勿論出来るかなんて分からない。なにせ昨日初めて戦ったのだ。誰かを殺す事には躊躇してしまうし、傷つけたくもない。


 けれど、それは私のわがままだ。魔法少女になった今、出会ってしまえば殺すか殺されるかの二択だ。

 そして、その選択肢をいつも誰かに負担してもらえるなんて考えちゃいけない。


「だからこそ、私は私を殺そうとする魔法少女と戦う! 貴方が私を殺すのなら、私自身を守るために!」


「あら、急に叫んだと思えば貴方が私と戦う? そんな事出来っこないわ。けど、貴方の血は美味しいからちゃ~んと殺してあげる。安心なさい!」

「そう何度も傷つけさせないから!」


「良いわ、その調子よ。私から目を離しちゃ駄目よ?」


 言葉と共に魔法少女が取り出したのは、沢山の羽がついた扇子。

 そして、それを取り出すと同時に魔法少女の服装は変わり、黒を基調とした服ではあるが、より派手になり、月に照らされれば魅了されてしまうほどの妖艶さを持っていた。


 そして、そんな姿を見てしまった私は案の定魅了され、またしても一瞬目を逸らしてしまい、視線を戻した時、私の目の中に私ではない暖かい血が入り込んだ。


「っ! 目に血が!」

「アハハ! 私の血はどうかしら? 貴方の血を頂いた代わりに私のもあげるわ! あ、でもこれで貴方の目は見えないし、私の勝ちね。死になさい」


「えっ?」


 目の見えない私に対し、チクッとなにかが私を刺したような感覚が残り、血を拭って視界が戻った時には魔法少女の姿はなかった。


「もしかして退いてくれた? ......うっ、なにこれ......」


 刺された後から、最初に切られた時のような痛みはないが、どうにも私の体がおかしい。

 二の腕の痛みが増していくのに加え、視界は揺らぎ、風邪を引いた時のように眩暈が起こり始めたのだ。


「力が入らない......」


「ふふふっ。これが私の能力よ。どうかしら? 気に入ってくれた? 大丈夫よ。わたしの毒はあまり苦しまずに死ねるわ。刺されたり、貫かれたりして死ぬよりはだいぶマシ。だから、一時間くらい大人しくしてなさい。もう貴方がこの地獄を体験する必要はないの」


 そう言って、魔法少女は悲しそうな顔をしながらその姿を夜の闇へと消した。


 まるで私を助けたように振舞っている彼女だが、真実はきっと違う。

 最初から彼女は私の血を飲み、苦しんでいく私を見て愉悦に浸りたいだけなんだ。


 体のいい言葉で惑わし、自分は安全圏から見て楽しむ。最悪だ。

 こんな風に考えたくもない。


 だけれど、消える前に見えた口元は笑っていたし、何よりも地面に垂れている涎こそが私が死ぬのを待っている証拠になる。


 全てが全て私の考えている通りではないと思うし、本心で言っている部分もあるかもしれない。

 けど、確かめる余裕なんてない。


 こうして考えているうちにも毒は静かに私の体を駆け回り、全身を蝕んでいるのだから。


「ま、待って。私、まだ魔法少女になりたてなの。死にたくない、死にたくないよ......」


 同情を買う為に、自らを弱者だと私は言い張る。間違ってはいないし、嘘もない。


 だけどこれは、卑怯で最低な手であると同時に、私自身の価値を下げる憐れで惨めな策だ


「ふふっ、私の気を引こうとしているのが丸わかりね。可愛いじゃない。それに、なんだか可哀想だわ。だから、私が一つだけ救いを与えてあげる。もしも、私を殺す事が出来ればその毒は消えてなくなるわ。ま、殺せたらの話だけれどね」


 惨めな私に同情して姿を現した彼女は、解毒方法を教えてくれた後、「それでは最後の瞬間に会いましょう」と告げ、また姿を消した。


 こうなってしまえば、もう彼女は言葉で姿を現さないだろう。


 つまり、私に残された道は残り数十分以内に彼女を殺す事だけ。幸いなのは、彼女の言葉が真実なら、毒は彼女を殺せば残らないという事だけだ。


「......一時間で私に勝ち目なんてあるのかな......」


 体がまだ動き、死の淵を彷徨う前に色々な策を浮かべてみても、私には勝てる未来が見当たらない。


「駄目だ。弱気になるな私! 大丈夫、霧香ちゃんが私を鍛えてくれたんだから!」


 考えて、考えて、考えて、例えそれでも未来が見えないのなら、もう自分で切り開くしかない。


 弱気になってすぐ諦めようとするのが私の悪い癖だ。こんなんじゃ霧香ちゃんの横になんて並べない。

 ましてや、胡桃に助けられたことすらも無駄になってしまう。


 勿論、私が弱いことなんて自分が一番分かってる。真正面から正々堂々戦えば負けるだろうし、私一人で魔法少女を殺すなんて無理な話。


 けど、諦めて死を受け入れるのはもっと無理な話なのだ。

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