23話 『朝』
「……終わったの?」
「えぇ。きっとこの子もこれでこの地獄のような世界から解放されたわ」
「......そっか」
「帰るわよ。今回はさすがに疲れたわ」
「うん。帰ってゆっくり休もっか」
こうして私の、いや私たちの戦いはひとまず一段落ついた。
けれど、戦いはこれだけではない。
世界が狂い、魔法少女とはどういうものなのか理解したからこそ分かる。
魔法少女は最後の一人になるまで戦い続けなければいけない運命であることと、友達だろうと殺さなければいけないという事を。
そして、そんな過酷な運命から抜け出せるのは死ぬことだけ。
死というのは考えれば考える程に怖いものだけれど、今回戦った魔法少女のように、死を、解放を望む魔法少女も存在する。
だが、そんな事を考えても結果的に私が魔法少女である女の子を殺してしまった事実に変わりはない。
良いか悪いかで判断するならば当然悪いことになるし、殺しを正当化しようなんて私は思っていない。
......けど、だからこそせめてもの償いとして凛の安らかな眠りを私は祈る。夜が明け、昇ってくる太陽へと向き合いながら。
「そういえば貴方の使った魔法は少し特殊だったわね」
「あー、あれは私も無我夢中で使った魔法だから、今もどうやって使ったのか分からないんだよね」
私は自分の使った魔法すらも良く理解出来ていない自分が恥ずかしく、霧香の顔を上手く見ることが出来ずに、えへへっと俯きながら笑った。
「でも、私があの魔法を上手に使えるようになればきっと霧香ちゃんの助けにもなると思うんだよね。だから、すごく難しそうだけど頑張って覚えてみせるよ!」
「そう。それは楽しみね。ま、魔法を覚える為に特訓するにしてもまた明日にしましょ。今日はもう考えるのも嫌なくらい疲れたわ」
「うん! 一緒に帰ってお風呂に入ろ~ね!」
「そうね。でも、貴方は吐いていたのだし、一人で入ったらどうかしら?」
「うわっ! 何気に酷い! まぁ事実なんだけどさー。もうこうなったら一緒に入ってくれないと怒るから!」
「はいはい。分かったわよ」
霧香が笑い、太陽に照らされながら私の目に映ったのはとても綺麗な笑顔だった。
この笑顔を見た私は一瞬だけ現実から引き離されたが、首を横に振ってから霧香へと手を差し出す。
「帰ろう! 霧香ちゃん!」
「えぇ。そうしましょう」
霧香が私の差し出した手を握り返し、私はそれを離さないとばかりに強く握り、私たちは手を繋ぎながらその場を後にするのだった。
だが、今日という日を境にして魔法少女同士の戦いが激化していくという事実を今の私たちはまだ知らない。
「んー。はぁ。おはよう。今何時~?」
「あら、遅いお目覚めね。残念ながらもうお昼時よ」
「そっかぁ......ってお昼!? 学校に行かなきゃ!」
寝ぼけていた目も一気に覚醒し、私は勢いよく起き上がって学校へと行く支度を始めようとした。
けれど、よく考えてみれば霧香は一切慌てることなく、本を読みながら珈琲を飲んでいる。
どうしてだろうか。
そんな風に思って首を傾げる私を見て、微笑んでいる霧香が私へと声を掛けてくれた。
「落ち着きなさい。もう学校には連絡してあるわ。私と貴方は偶然にも風邪に罹ってお休み。特に疑われたりもしなかったから安心なさい。ま、皆勤は逃してしまったけれどね」
「えっ!? 霧香ちゃんって皆勤だったの!? 凄い!」
正直なところ私は霧香のことを本当に何も知らない。
霧香と出会ってから、霧香が冷たく見えても本当は優しいという一面とかは知っているが、昔の事や学校でのことは殆ど知らないのだ。
だからこそ、私は皆勤の話から少しでも話してもらおうと考えた。
「凄くないわ。暇だったから行ってただけ。それよりも体に痛みとかは残ってないかしら? 昨日アレだけの事があったのだから少しだけ心配してあげるわ」
しかし、霧香からの返答は学校の話なんかではなく、私の心配だった。
まさか霧香が照れたように心配してくれるとは思っていなかった私は、喜びのあまり考えていたことも忘れて勢いよく立ち上がってしまう。
「大丈夫! むしろ寝すぎて頭痛いくらい!」
そして、立ち上がったことによって私は初めて自分の現状を確認し、先程よりも大きい声でもう一度叫んでしまった。
「はぁ。近所迷惑になってしまうからあまり叫ばないでちょうだい。それに、貴方は昨日一緒にお風呂に入った後すぐに寝てしまったのだから裸なのは当然じゃない」
「うー......。そんなの覚えてないからしょうがないもん。ってか、霧香ちゃんは裸で寝てる私を見てもなんとも思わなかったわけ!?」
「えぇ。私も疲れていたから特に何も思わなかったわね。それに、私は寝るときに服を着ないもの。だから貴方も同じなんだと思ったわ」
確かに、霧香が本当に寝るときに服を着ないのであれば何も不自然な所はないだろう。だが、残念なことに私は普通にパジャマで寝るのだ。
だから、こうして服はおろか下着すら着けずにいるのは違和感しかない。
当然、起きた時からこの違和感に気付かなかった訳じゃないのだ。
単純に学校に遅れるかもという理由が脳内を占めていただけで、焦ってさえいなければ霧香の前で堂々と全裸を見せることはなかった。
そう、焦ってさえいなければ。
(こんな言い訳してても仕方ないし、とりあえず重要なことを霧香ちゃんに聞こう。お互いに裸で密着せざるを得ないこのベッドで何も起きていないかを!)
「ね、ねぇ霧香ちゃん。当然だけど私と霧香ちゃんは一緒のベッドで寝たんだよね? もしかしなくても何か起きたりしてないよね?」
「え、えーっと、そうね。特に何もなかったわ。ただ、柔らかかったとだけ言っておくわ」
霧香の泳いでる目と少し照れたような表情から、私の想像しているような事が起きたと思ってしまい、自分自身の体と霧香の顔を交互に見た後、恥ずかしさからくる火照りに耐えきれず、倒れ込んでしまった。




