2話 『魔女捜し』
ーーそれから、胡桃が話してくれたのは魔女と契約すれば自分の望む願いが叶えられるという噂だった。
にわかには信じ難い噂だが、妙にその話は私の頭に引っかかってしまう。
「それでさ、とっておきっていう前置きしたんだけど、実はこの噂は今この学校や街でも噂になってるんだよね」
「うーん。そうなんだ。でも私は知らなかったよ? それにしても、願いを叶えてくれる魔女かぁ......」
「なんか気になることでもあった?」
「うん。なんかね、今日見てた夢がさ、その魔女かなんなのかわからない黒い靄みたいなのが、願いを叶えてくれるって夢だったんだよね。なんかそれが今の話と似てるなーって」
胡桃が魔女の話をするのと、私が見た夢が似ているという点は単なる偶然でしかない。一致したのが運命といえばそれまでだが、そもそも魔女の話など噂程度であり、真実かどうかなんて分からないのだ。
「へぇー。なんか凄い偶然だね! もしかしたら運命なんじゃない!? 今日とかもしかしたら魔女と出会っちゃうかも!!」
「いやいや。だって噂でしょ? 本当の話な訳ないじゃん」
私は胡桃の言葉を真に受けることなどせずに笑いながら否定するが、胡桃は依然とし「運命」と言い続けてきた。
「でもさー、瑠奈もそんなに否定するけど叶えたい願いあるでしょ? 今回の話も噂かもしれないけど、夢にまで見たってことは可能性はあるかもしれないじゃん! 願いに手が届くかもしれないんだよ?」
「いやまぁ、そりゃそうだけどさ。......はぁ。分かったよ、今日の学校終わりに少しだけ魔女のことを探してみる事にするよ」
「うん! きっとそれが良いよ!」
どうして胡桃がここまで私に魔女探しをさせようとしてくるのか分からない。けれど、胡桃がここまで押してくるからこそ、私は行方不明の両親を探すついでに魔女を探す事に決めた。
こうして、私の運命の歯車が変わるきっかけとなる魔女探しは始まったのだ。
学校が終わり、私は一人で魔女が居る可能性がある場所へと向かっていた。
初めは胡桃も一緒に魔女探しをしてくれるのかと思っていたが、どうやら胡桃は運悪く用事が出来たらしく、私は一人ぼっちとなってしまった。
「やっぱり可能性があるのはここだけだよね」
夢に見た場所は鮮明には思い出せない。けど、なんとなくだが『ここっ!』って思うような場所は頭に浮かんでいた。
それが、今私の目の前に見える廃れた神社。両親の目撃情報があった唯一無二の場所であり、夢の中の私が願いを叶えるために行くとすれば、両親を探すためにこの神社へと向かう筈と考えたからだ。
「なんか今日はいつもより空気がおかしいな......」
まだ太陽は落ちていないにも関わらず、私が入った神社の裏手の林は薄暗い雰囲気となっていた。両親を捜すために何度も入ったことのあるこの林だが、私が怖がっているだけなのか、今日は何故か異様な雰囲気を醸し出しているように思えた。
『――奈』
「えっ、なに?」
なにかが聞こえた気がした。まるで私を呼んだかのような声。
「えっ!? どうなってるのこれ!」
声に反応したその瞬間、私の体になにか得体の知れない黒いモヤが纏わり付き、太陽の光すら届かなくなった林の奥へとぐいぐい引っ張ってきた。
「離して、離してよ!」
どんなに力を込めようとも引っ張る力は増していくだけであり、ようやく黒いモヤが消えた時には、瑠奈の周りは夢とまるで同じ光景が広がっていた。
「......濃い霧。こんな場所今までなかったのに......」
神社の裏手にある林はそこまで広い訳ではなく、一番奥に行っても太陽の光は届く。だからこそ、私の居るこの場所は不自然だったのだ。
太陽の光は勿論のこと、濃い霧によって寸分先までなにも見えず、まるで異世界に飛ばされたかのような錯覚に陥ってしまいそうになる。
ただ唯一、霧の中でも姿こそハッキリしていないが、真っ黒に染まっているモヤの塊は私の視界に映っていた。




