13話 『決着』
とはいえ、霧香が強張ったのは無理もない。
なにせ、私の持つ武器にも霧香にすら話せない攻撃方法があるし、恐らくどの魔法少女の武器にもそういった奥義のようなものがあるはずだ。
だからこそ、霧香は偽物であり、力が無いと分かって安堵したのだと思う。
「えへへ。私も面白いとは思うんだけど、どうやら他の魔法少女の武器をイメージしなきゃ使えないみたいなんだよね。だから、しばらくは霧香ちゃんの槍を模倣しちゃうかも......ダメかな?」
「別に良いわよ。それぐらい許可しないと一緒に戦う時にもさっき使った遠距離攻撃ばかり使うでしょ? そっちの方が私としては怖いもの」
「もー! 別に霧香ちゃんに当てるなんてことしないのに!」
「分かってるわよ。それよりも、早く異形を仕留めちゃいなさい。そろそろ足の再生も終わって動き出すわよ」
「うん! サクッと終わらせてくるね!」
クスクスと笑う霧香の笑顔を見た後に私はその場から走り出し、魔力の矢を数本飛ばしながら、変化させた槍を構えた。
当然のことながら、私は槍の使い方なんてものは知らない。
だけど、それでも私は漫画やアニメで見たように、見様見真似で槍を振るった。
穂先を意識し、突き刺すように、切り裂くように、縦へ横へと振って異形を切り刻んだ。
勿論、異形も抵抗はした。けれど、そんなものは抵抗ではない。先に放った魔力の矢によって異形の腕は消し飛んでいるのだ。だから、異形の抵抗は魔法少女の私にとって抵抗と呼べるものではなかった。
しかしまぁ、抵抗していると言っても、傍から見れば一方的に異形を倒している訳であり、また、私の顔や服には異形の血である黒い液体が付着している。
槍を振るえば振るうほどに私は自分が強くなったような気もしており、戦いへの高揚感を覚え始めた。
......そして、きっとそんな高揚感を覚えたとしても誰にも話さない方が良かったのだった。
「あっ! 霧香ちゃん! 見てよ! 私も勝てそうだよ!」
「もうそれくらいで充分よ。これ以上は無駄に魔力を消耗するだけだわ。それに、あなたの攻撃方法は魔力を大量に消費している。今回の獲物だけでは賄いきれないほどにね。......だから、そんなに笑顔で槍を振り回すのはやめなさい」
霧香に諫められ、私はこの時になって気付いた。既に異形はミンチのようになっていることや、私の口角が不自然にも上がっていることに。
「うん! 霧香ちゃんの言う通りにするね! それで、倒した後はどうすればいいのかな?」
「そうね。指輪を近づければ問題ないわ。それで勝手に吸収してくれるから」
「分かった! でも、霧香ちゃんも魔力を消費してるよね? 霧香ちゃんは補充しなくて大丈夫なの?」
「えぇ。今回の獲物はあなたが倒したもの。私が貰うのは筋違いだわ」
それから霧香が少し距離を取った後に、私は異形へと指輪を近づけて、黒い大きな塊になってしまった異形を吸収した。
吸収というのは終わって見れば呆気ないものであり、小さな光となって指輪に取り込むだけ。
ただ、戦っているときには感じなかった疲労感のようなものが、吸収した途端に和らいだのだから、きっと疲労感の正体は魔力を使ったことであり、この回復しているような感覚こそが魔力回復なのだろう。
「終わったようね。それじゃ帰りましょうか」
「えっと、どこに?」
「私の家に決まってるじゃない」
「霧香ちゃんはそれで良いの? ......その、私って一応は敵なわけだし......」
敵と味方。何度も思うが、魔法少女にとっては全ての魔法少女が敵だ。
私としては霧香を敵とは思いたくないし、協力関係でいてくれている手前、霧香にも私のことを敵だと思ってほしくはない。
だけど、それはあくまでも私の中の理想であり、霧香にとってはきっと違う。だから、私は霧香に私は霧香に確認を取ったのだ。
霧香にとっては敵だけど、一つ屋根の下で寝泊まりしていいのかを。
しかし、私の問いに対して霧香が返してきたのは無言と、一つの鍵だった。
これは、十中八九霧香の家の合鍵であり、少なくともこれを渡してくれるということは、協力関係でいる間は私のことを味方だと思ってくれているという認識で良いと思う。
けれども、警戒心の強い霧香が私に対して合鍵を渡してくれるという事実には少し疑問が生まれてしまう。
だが、思ったことを私が口に出すよりも早く、霧香が私の表情を見て何かを察したのか、私の目を見ながら口を開き始めた。
「心境の変化よ。貴方なら私は信用することにしたの。それに、私の部屋には盗られて困るような物なんてないし、あとはそうね。貴方程度なら本気を出さなくても倒せそうだもの」
前半の部分は嬉しく思えるが、後半に至っては少しショックだ。
勿論、私程度の実力では霧香に敵う筈はないし、私の初めての戦いを見ていた霧香が本気で私を簡単に倒せると思っても仕方のないことだけど。




