11話 『油断大敵』
「はぁぁぁあ!」
初めて反撃した。まるで力の籠っていない蹴りだけど、それでも魔法少女の力が私の蹴りの力を増幅させ、異形の存在はバランスを崩した。
「やった!」
「油断しない! まだ終わってないわよ!」
喜び油断していた私は、霧香の言葉を受けて、心を引き締めようとしたけれど、時は既に遅かった。
呆けている私を軽く吹き飛ばすほど力が私へと迫り、回避もままならない私にその攻撃は見事直撃してしまったのだ。
「ーー痛った!」
学校の校庭を土煙を立てながら転がり、ようやく止まった時には私の頭からは血が流れていた。
吹き飛ばされた時には、然程痛みはなかったが、不思議なことに血が流れているのを理解した瞬間に私を更なる痛みが襲い始めた。
痛い、痛い、痛い。
体が痛みで震え、考える力も失われていく。眼前に迫る異形は、怒りで力が増したのか、体の色は黒から赤に変色し、傷ついた私を仕留めようとこちらへと向かい始めている。
「怖い。嫌だよ。死にたくないよ......」
「落ち着きなさい! 魔法少女でしょ!? 大丈夫。その程度の怪我で動けないなんてことはないわ!」
霧香の励ましの言葉でも、私の恐怖は消せなかった。それに跳躍力も、反射神経も......全ての能力を向上させてくれている魔法少女の力でも恐怖は消せない。
分かっている。血が流れていようとも、痛みがあろうとも、戦えないわけじゃない。だけど、怖いのだ。
また攻撃をくらったら死んじゃうんじゃないかとか、そんなことばかりが脳内を占めていく。
――だから、私は異形の存在がすぐそばまで来ている事にも、私に迫る大きな口にも対処出来なかった。
(......ごめんね。霧香ちゃん)
死を感じ取った私は、心の中で不甲斐ない自分を見守ってくれた霧香へと謝罪し、そして目を閉じた。
しかし、いつになっても私が死ぬことはなく、代わりに鉄と鉄がぶつかり合うような音だけが聞こえ、目を開けてみれば、そこには涼しげな顔で私を助けてくれた霧香が居た。
いつの間にか魔法少女の衣装に変身しており、異形の防ぐようにして持っているのは、黒い槍。
そんな、私の窮地を救ってくれた霧香は私の目を見て口を開いた。
「死にそうな時は助けるって言ったでしょ?」
「......霧香ちゃん......ありがとう」
「えぇ。元々助けるつもりだったから問題ないわ。あぁ、それと逃げてばかりじゃ無駄に魔力を消耗するだけだからしっかり戦いなさい」
「で、でも!」
「死を恐れるのは仕方ないことよ。でも、それを乗り越えないと駄目なのよ。一度攻撃を受けたからといって怖がってはダメ。そんなじゃ他の魔法少女に簡単にやられてしまうわ」
「うん。私、頑張ってみるよ」
私が霧香の言葉に頷いたのを霧香が確認した後に、霧香は槍を使って異形の存在を吹き飛ばし、その場から立ち去った。
(霧香ちゃんを失望させないようにしなきゃ......!)
まるで私に吹き飛ばされたと勘違いしている異形は、怒り狂ったように私へと突撃してきた。
そんな突撃してくる異形に対して、私は目を瞑り覚悟を決めた。そして、自らの拳に力を込めて異形の存在に向き合った。
「私は負けないんだからぁぁあ!」
「......!」
ずっと避けてばかりいた私が初めて反撃してきたことに驚いたのか、それとも私の叫びに驚愕したのかは分からないが、異形の存在は一瞬動きを止めたかと思ったら、すぐさま両腕を使って防御の姿勢をとり、私の拳を防いできた。
「やっぱり! 私の力じゃ! ――きゃあ!」
簡単に私の攻撃を防いだ異形は、口を大きく開けて舌を伸ばし、私の体を締め付けてきた。
「うっ......苦しい......」
徐々に締め付けは強くなっていき、どんどん呼吸が困難になっていく。意識は混濁し始め、力も入らなくなっていった。




