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事件後

公爵騎士団による学園占拠の翌日、生徒達へと集会を開いた後、僕は疲れて生徒会室のソファで横になっていた。


今日の集会で今後の事を話してあげる為に、昨日の激動からほぼ徹夜だ。

魔素も回復してなければ、どっと疲れてフラフラもするけれど、僕がやらなきゃ誰がやる!みたいな状態で、アドレナリンも大量放出され目はギンギンというカオスな現状だ。


そして、ようやく訪れた平穏な今、この室内にはエディスとルオーク、そしてカトリーヌがいた。


何故かエディスの膝枕で、髪をずっと撫でられているが、疲れきってきるので、もうなされるがままだ。



「公開プロポーズ私も見たかったな〜。シルビアのお父様と戦ったんでしょう」


ニコニコしながらカトリーヌは言った。


「本当怖かったよ。目が殺してやるって本気で、襟首掴んで持ち上げられた時なんて叩きつけられると思った。昨日はシルビアを失うくらいなら、もう怖いものなんてない勢いになってたから出来たんだろうな」


ははは、とエディスは笑う。


笑ってる場合じゃないだろ。昨日あの後から父上とまともに話しも出来てないんだぞ。


「俺もビックリした!公爵に食って掛かっていって、エディス正気かって思った!」


ルオークも楽しそうに笑いながら言った。


「今日同じ事言えって言われたら無理だろうな。昨日の勢いだから言えたんだ」


君ねえ、一国の王太子なんだから勢いでものを言っちゃいかんよ。


「最後はシルビアの逆プロポーズで締め括ったんでしょ。僕が幸せにしてやるんでご心配なくって」

「参ったなあ。幸せにされる予感しかないよ」


照れたよう笑うエディスに、ルオークがちょっかいをかけたり、まるで昨日の事が嘘のように穏やかな時間が流れている。


でも、間違いなく事は起こり、終結を迎えたのだ。


昨日からカディオ先生は共に学都の学校へ掛けあってくれ、今日は朝から各学校を回り、状況の説明と、今後の事、教師の人員の確認など慌ただしく動いている。

教師陣は早めに尋問され、麻薬の件に関わっていない教師は復帰させる事になってるので、それまではカディオ先生に耐えてもらいたい。


昨晩の魔道砲の爆撃と、治安部を占拠した騎士団、街にも至る所に騎士の警備が置かれたので、状況を知らない学都の住民、学生達の不安と混乱は甚だしかっただろう。

そして今日、学都の中でも長い歴史を誇る名門中の名門、セントリア学園の起こした事が知らされ、その衝撃は大きかったに違いない。


いつまでも頭を撫でられていても仕方ないので、エディスの手を押さえてゆっくりと身を起こす。


みんなもいるし、こんなんで寝ていいと言われても寝れる訳がないでしょうが。


「カトリーヌちゃんは体調大丈夫?」


ぼんやりとしながらカトリーヌを見ると、キッと睨まれた。


「体調は大丈夫だけど、朝起きたら今後、麻薬被害の生徒の浄化を内密に行なってもらう事に決まったからって事後報告何?集会でも聖女のカトリーヌってみんなに紹介されるし、私の意見なんて聞きもしないで勝手に進めて」

「え〜だってそれ以外選択肢ある?」

「だからって、ちょっと私に聞いたりとか、話し合いをするみたいのポーズでもしてよ」

「だって疲れてるだろうから、休ませてあげようと思って。それに、カトリーヌちゃんなら生徒の未来の為に引き受けてくれるだろうという信頼だよ、信頼。春期休暇まで、ほら、毎日の訓練だと思ってさ、頑張っちゃお〜」


だが、カトリーヌは乗ってこず、シラ〜とした目で見てくる。


「私にも自分の意思ってもんがあるんですからね。結果は同じでも、一緒にだって決めていけるんだから。だから、今回だけきくけど、次は勝手き決めないでよね」

「ごめ〜ん、今回だけ許して〜」


ごめんねと手を合わせてると、カトリーヌはふふっと笑った。


「本当に調子がいいんだから」

「あはは…………。そういえばさ、ティーエどうだった?」


朝に目を覚ました事は聞いている。昨夜と、今日の朝も浄化をしてあげて、まだ影響は抜けきってないけれど普通の会話は出来るようになっていた事。そして、目覚めたティーエは事件の前後を何も覚えてなかったことを聞いた。


「…………元気だったよ。お姉さんの亡骸が見つかった事にはショックを受けていたけど……………。今頃、ナイル先輩に付き添われて会いに行ってるんじゃないかな……………」


うかない顔で、歯切れ悪くカトリーヌは言った。


これってアレだよな、気にしてるんだよな。でも、もう時は戻せない。後悔しながらも、抱えて生きていくしかないのだ。


「お姉さんがさ、実家に戻ってお墓が建てられたら、一緒にお墓参りに行こうよ」

「うん……………………」


でも、出てきたのはお姉さんの亡骸だけじゃなかった。

従騎士達にその近くを掘らせたら、他にも何体もの亡骸が出てきたのだ。


バレてしまって、仲間にしようとしたが拒否され殺された教師が数名と、過剰摂取により亡くなった女子生徒の亡骸だと、学園長は白状したそうだ。

あの学園長が素直に白状するはずはない。公爵家は過去長い事、王国の暗部処理を担ってきた歴史がある。そして全ての権限が父上に委ねられてる今、何が行われたかは想像するに容易だ。

命を下した国王陛下も、これは暗黙の了承なのだろう。


そんなシリアスモードな時に、どこから用意したのか、エディスがケーキが幾つかのった皿を持ってきて隣に座った。


「シルビア動きっぱなしで疲れてると思って用意したんだ。はい、あーん」


優雅な笑みを浮かべながら、エディスはケーキののったフォークを口元に近づけてくる。


「えっいや、自分で…………」

「あーん」


もはや押し付ける勢いの圧に、しぶしぶ口を開ける。


もぐもぐと食べる僕をエディスはニコニコと見ているし、ルオークとカトリーヌちゃんの無言の視線も痛いところだ。美味しく味わえないな。

エディスはどんどんケーキを詰め込んでくるし、2人はそれをただ見つめてるし、何だこの状況。


「美味しい?」


満たされたような、エディスの輝く笑顔は眩しいくらいだ。


昨日からどうした、エディス。


「…………なんか、ここにいる意味分からなくなってきたから、そろそろ行くか」


不意にルオークが立ち上がった。

それに、無言でカトリーヌも頷き、立ち上がる。


「じゃ、俺ら行くから」

「お幸せに」


そう言うと2人は、生徒会室を出て行った。


き、気を使われたー!恥ずかしっ、このままじゃ痛々しいバカップルまっしぐらだ。


「お幸せに、だって」


ふふっと笑う幸せモードのエディスを見ながら、自分がしっかりしなくてはと改めて思った。


そんなエディスが、突然ソファに座る僕を抱き上げた。

えっ?と思う間もなく、エディスはそのまま隣の仮眠室へと向かう。


「ちょ、ちょ………ちょい待て!い、いくら何でも急展開すぎ!」


だが、エディスは止まらない。

仮眠室の中に入ると、ドアを閉め、僕をソッとベットに下ろした。


ままま、ま、待って。こんな、こんな心の準備もなくいきなりそんな…………。プロポーズ受けたからって、すぐにしようだなんて。まだ早いよ〜!


「さっ少し寝ようか」

「……………へ?」


ね、寝るってどうゆう意味?


「眠そうなのに、ずっと張り詰めた顔してる。僕が起こしてあげるから少し寝てなよ」


エディスはベットに腰掛けると、優しく僕の頭を撫でた。


「あ…………ああ、そうだよね。ビックリした〜、もうてっきりエッチな事でもするのかと思っちゃったよ〜」

「さすがにそんな節操なしじゃないよ」

「だ、だよね〜。嫌だな、僕ってば」

「でも、僕だって男だからいずれはね。覚悟だけ決めといて」


耳元で囁くようにエディスは言った。

パッとエディスを見ると、エディスはよこしまな気持ちなどないような、王子様みたいな笑顔で笑ってみせた。


ああもう、コイツってば。可愛かったり、急に男になったり、も〜。してやられたくはないのに、駄目だなこりゃ。


エディスは僕に薄い布団をかけると、その横に寝そべってきた。


「ん?何してんの?」

「シルビアが眠るまで見守っててあげる」

「いや、かえって寝れないんだけど」


だが、そんな心境にも構わずエディスはニコッと笑い、僕をじっと見る。至近距離で見つめ合いながら、こんなんで寝ろと?


ふいにエディスが僕に近づいてきて、その唇が僕のそれに重なり、すぐに離れた。


「ふふっ無防備」


も、も〜、何なの?ちょっと寝かすつもりないでしょ。


睨んだ僕に、クスリと笑いエディスは額にチュッとキスをする。


「エディス〜、もういいかげんにしないと………」

「ごめんってば。もう何もしないし、見ないよ」


そう言うと、エディスはそっと抱きしめてきた。


「今日はここまでにするよ。シルビア、ゆっくりおやすみ」


言葉と共に、背中をトントンと優しくたたかれる。


こんなんじゃ寝れるわけないよ、そう思ったのに、どっとした疲れを包み込むベット、さっき食べたケーキの糖質効果、それにエディスのあたたかい温もりに、朦朧としたかと思うとあっさりと落ちてしまった。


ああ、ヤバい。すっごい心地いい………………。




瞳を閉じて、スースーと寝息をたてるシルビアの額にエディスは自分の額をコツンとあてる。


「あー…………もう可愛すぎる。ホント好き」


昏睡状態からようやく目覚めたと思ったら、昨日のように無茶ばかり。心配してもし切れないくらいだ。

絶対に彼女を失いたくない。眠るシルビアを見ながら何も出来ない無力さと絶望、失う恐怖を味わった。


そのシルビアが今、穏やかなあどけない顔で、すっぽりと僕の腕に包まれている。


この腕の中の温かさにホッとして、涙が出そうなくらい幸せだ。


「お疲れ様…………」


シルビアの目元にそっと口づける。


願わくば、この幸せがずっと続きますように。

この先もずっと一緒に同じ道を歩んでいけるよう、願うよ。

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