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プロポーズ

アルビシス家騎士団に制圧された学園は、最初混乱に見舞われた。


魔道砲による攻撃の余波で、寮は棚や家具が倒れ、爆音や度重なる地震のような震動に生徒達はパニックに陥っていた。

エディス達が必死に宥めたり、押さえ込んでいてくれたが、それも限界だったようで、突如大勢の甲冑に身を包んだ騎士団に包囲された生徒達の精神的ストレスはピークに達したのか、泣き叫んだり、失神する者が出たりと混乱状態となった。



そこに姿を現したのが、僕、シルビア・アルビシスだ。

倒れたまま意識不明で、長らく姿を見せなかった僕が現れたものだから、生徒達はとても驚いていた。


〝会長が生き返った!〟


と、死亡説まであったらしい。


「学園長と学園側が悪事を知った僕を殺そうとし、生徒を盾に逃れようとしたから、父上に協力を仰ぎ学園と戦って制圧したんだ!」


そう言った僕を見た生徒達のポカンとした顔。

え?何?どうゆうこと?と、と戸惑っているようだ。


そんな顔達の中に、青ざめた顔もいくつか見かけた。

彼らはきっと学園の悪事に巻き込まれた生徒達だろう。僕の言った言葉に心当たりがあったから、学園の悪事がバレたら自分達のことまで明らかになると、恐怖したのだ。

前の副会長も加担していたとエディス達から聞いた。


怯えているけど、彼らも被害者だ。

ケアをどうするかな…………………。


そんな事を考えていた、僕の前に泣きそうな顔のエディスが立つ。


「シルビア……………!!」


言葉と共に、強くギュッと抱きしめられた。

生徒達みんなの前なのに!と慌ててもがいたが、その腕はちっとも緩まなかった。


力強いのに、どこか不安そうに、僕を確かめるようにぎゅうぎゅうと抱きしめてくるエディスに抵抗するのを諦めた。


きっと、すごく心配してたんだよな……………。


エディスの気持ちに胸が詰まって、その背に腕を回し抱きしめる。


すると、なぜかまばらに拍手が起こり、それがふくらんでいつの間にか拍手喝采となっていた。


は、恥ずかしい。公開祝福されている。


だが、それも長くは続かなかった。

突如現れた大男が、2人をバリっと引き剥がしたからだ。


「殿下、俺の娘に何してるんだ?」


その怒りの形相の我が父、カルロスにエディスが更なる火種を投下する。


「あ………お父さん」

「お父さん!?俺はお前の父になった覚えはない!!」

「いや、早まりました。すみません」

「早まるも何も、今後も俺がお前の父になる事はない!!」

「落ち着いたら挨拶に伺います!シルビアを僕に………!」

「来るなっ!!」


言葉を遮り、カルロスがエディスを睨みつける。怒りのオーラが見えそうな程、カルロスは怒りで打ち震えていた。


ヒエッ。何これ?何故みんなの前でこんな事に?

は、は、恥ずか死ぬ………………。


「婚約を破棄したり、諦めようとしましたが僕はやっぱりシルビアが好きなんです!ずっとずっと好きでした!!」


ちょ………もう、やめて。どったの、エディス?


「うるっさい!!黙れっ!!」


父、カルロスがエディスの胸ぐらを掴み持ち上げる。それでもエディスは怯む事なく、父を真っ直ぐに見た。


「娘さんを、シルビアを僕にください!!幸せにします、結婚させてください!!」


言い切ったエディスに、カルロスの手の力が緩み、エディスはドサッと下に落ちた。


お、終わった……………。公開プロポーズ……………。

あれだ。戦争じゃないけど、緊迫した事態にテンションMAXまで上がって頭おかしくなってんだ。


「……………うちのシルビアを幸せにするだと?はっ、寝言は寝て言え!今の王家にどれほどの力があると思ってるんだ!?財政面でも、国を動かす力でも俺に勝てると思ってるのか!?シルビアを何不自由なく、その力のままにてっぺんで輝かせてやれるのか!?お前なんかじゃ、うちのシルビアは宝の持ち腐れなんだよ!!」


こちらはこちらでブチ切れていらっしゃる。


「今すぐには無理でも、努力していきます!」

「可能性の話をしてんじゃねぇぞ!!」


ビリビリとするような声で父が凄む。

もはや王太子扱いじゃないな、敵だ。


そして、静まり返って僕の動向を見ている生徒達。


えっ?その目なに?僕が返事すんの待ってんの?ここで?

いやいやいや、ちょっと待ってよ。今そんな場合じゃないでしょ。

これからの話しようよ。さっきまでドンパチやってたんだよ。

みんなビビってたくせに。

あーもう、勘弁してよ。エディスがやられてるのに、助けないの?みたいな顔して見んな。


そんな中、突如1人の女子生徒が前に出た。


「会長!!女は度胸ですよ!!」


レイラ嬢だ。行け!というように、彼女は高く拳を突き上げる。

それを見た親衛隊達が、だだっと前に出てきて同じように拳を突き上げた。


「会長っ!!」


彼女らが口々に会長コールを巻き起こす。

頑張れ!というような会長コールに、他の生徒まで会長コールに加わり始めた。


いや、勇気でなくて、まごまごしてんじゃないんだからね。僕はこんなとこで、公開プロポーズで公開返事とかするような女じゃないんだからね、本当は。

だが、もうこの流れでここで行かなきゃ女が廃る!


意を決して、父とエディスの間に立ち塞がる。

2人の視線が僕に注がれた。

生徒達、それにあちこちに配置された騎士団の騎士達の視線、そして静まり返った静寂の中、口を開く。


「僕が幸せにしてやるんでご心配なく、父上」


エディスの頭を撫でてやりながら、ふっと笑ってみせた。


どんな時でも動揺を表に出さず強気にですよね、父上。


だが、父、カルロスは言葉も発せず、先程までの怒気溢れるオーラが消失し、信じられないものを見るような目で僕を見ていた。


「ぶぶっ」


静寂の中、堪えきれなかったのか1人の騎士が吹き出す。

慌てて口を押さえるが、時すでに遅し。彼はすでに父にロックオンされていた。


「……………貴様、今俺を笑ったのか?」


射殺すような殺気のこもった目で睨みつけながら、低い低い声で父は言った。

騎士はギョッとし、慌てて首を横に振りながら後退る。


あーマズい。このモードはマズいな。再び怒りが急上昇してるのが目に見えるし、生徒達もいる前で爆発するのもな。

最終的にとどめを刺したのは僕だけど。


「あっ!父上、ラフレアの花畑もう見ました?今後の事についてもちょっと話し合いましょう」


父の腕を掴むと、強引に引っ張って歩きだす。

だが、すぐに生徒達を振り返った。


「みんな、もう安心だから今夜はゆっくり寝てね!今後の事については明日集会を開くから待ってて!生徒に罪はないって分かってるから、変な気は起こさないように!全部上手くまとめるから!」


それだけ言うと父を引っ張って歩きだしたが、どっと歓声と拍手が巻き起こった。


〝おめでとー!〟〝会長カッコいいー!〟

〝幸せにしてやってー!〟


等々、様々な野次を投げかけられながら、隣りで思い詰めた顔でギリギリと歯を食い縛る父に恐怖を感じつつ、その場を離れたのだった。




これが昨日までの話だ。




迎えた翌日、教師の誰もいない状態で、生徒だけの集会が講堂で開かれた。


隠していても、いずれこの件は大々的に報じられ公となるので、真実を話す事とした。

学園が教師ぐるみで、麻薬の元となるラフレアの花をこの学園の地下で大量に栽培していた事。それを北部地方を中心に流出させ、多くの中毒者を生み出すと共に多額の儲けを出していた事。そして、それを学園の生徒にも、麻薬である事は隠し流出していた旨には、殆どの生徒がショックを受けていた。


教師の不在により、生徒達は各自自宅に帰るものと思っていたようだが、これからは全生徒に事情聴取を行う為に残ってもらう事となった。

その期間は春期休暇までの一月とし、その間臨時の講師として学都中の各学校から数名の教師を派遣してもらう事が昨夜のうちに交渉されていた。

そして聴取をおこなった中で、被害生徒には秘密裏に聖女による治療を行っていき、中毒症状をなくしていき、卒業後も普通の生活を過ごしていけるようにし、罪は問わないことも明言した。



昨夜の取り調べでは、これまでの卒業生で被害にあった者の多くがその後も麻薬を欲しがり、爵位を継いだ彼らとの繋がりも、学園の力を強固にしていた。

街の治安部の一部にも学園側の協力者がいるとの事だ。


事が事だけに、この事件は街の治安部ではなく、王都の裁判官達が出向く事となり、それまでの間、中枢卿のカルロス・アルビシスが権限を委任される形となった。

つまり、戦争のように押し入ったのも、学園占拠も何のお咎めもなく、しばらくはやりたいようにやれという事だ。

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