孤児院へ行く①
季節は春もだいぶ過ぎた頃、僕は8歳になった。
毎日の剣の稽古に、家庭教師を迎え勉強に励む毎日にもすっかり慣れた。数学の式がこの世界の言葉になってたり、別の記号を使ってたのは、少しこんがらがったが今では慣れた。
前の世界と同じでいいのに、わざわざ変えてみたりして僕の夢も変なものだ。
エディスとルオークとの交流会も変わらず続いていた。
親の許可も取れたので、社会勉強の為、王都へ行ったり、様々な体験をさせてあげたりと活動の幅も広がっている。
ただ遊ぶよりかは、断然こちらの方が自分にとっても有意義だ。
そうした日々に慣れて、当たり前の生活になってくると、今度はモチベーションの低下という問題が出てきた。
要するに飽きてきたのだ。
――
「よし、行くぞ!」
気合いを入れ、そう口にした。
今日は視察目的で公爵領の街に来ているのだ。
港を有し貿易も盛ん、先代の時に魔鉱石の鉱山も見つかり、多くの者が夢を求めてこの地を訪れた。人も集まれば産業も盛んになり、街は未だに拡張し続けている。
公爵領は発展し、この街は王都より広大になった。
「お嬢様、本当に行くんですか〜?」
気怠るそうな声で、そばの男が話かけてきた。
サウロ・ルータン、僕の護衛達の隊長だ。
真っ赤な短髪に、赤い瞳のなかなかのイケメンである。
「行くよ」
「え〜。お嬢様って本当に変わり者ですよね〜。もはや変人の域ですよ」
サウロはわざとらしくため息をついた。
周りの護衛隊士達はその堂々たる発言にオロオロとしている。
このサウロはものぐさで面倒臭がりで、怠惰がつまったような男だ。しかし、剣の腕は他の者をはるかにしのぐ実力の持ち主で、18歳という若さでありながら稽古の師匠と、護衛隊長に任命された。
「あーあ、普通お嬢様の護衛なんて楽できると思ったのに、すっかり当てが外れたなぁ」
またもやため息をついたサウロを、副隊長の男がどついた。
副隊長は、サウロの元教育係で歳上だ。
「痛いなー、ロウさん」
「お嬢様に失礼だろ、口を慎め」
「みーんな変わってるって思ってるよね?」
そう聞かれた隊士達は、互いの顔を見ながら無言を通した。
公爵家では、自前の騎士団を持っている。
その規模は軍隊と呼ぶに等しく、層も厚い。騎士であろうと、結局人は条件のいいところ、金のあるところに集まるのだ。
この困った顔の隊士達も、実は層の厚い騎士達の中でも、精鋭中の精鋭という実力者達なのだ。
娘を心配するカルロスの采配には誰も逆らえる者はいない。
「ほら、今日も皆んな注目してる。公爵令嬢を取り囲む護衛達の御一行は、もう一種の見せ物だな」
サウロは隅によってチラチラとこちらを見ていた民達に、ヒラヒラと手を振ってみせた。
「お嬢様……どうかしましたか?」
いつもなら黙っていないシルビアが、そんなサウロにも何も言わないのでロウが不思議そうに尋ねた
シルビアは声をかけられ、初めて気づいたようにハッとする。
「何?考え事してた」
「あ………いえ、サウロが気にならないのかと………」
「何か言ってた?雑音はシャットアウトしてるからね」
シルビアは歩みを止め立ち止まった。
本日の目的地到着である。
さて、ここからどうするか……………。
「…………入らないんですか?」
動かないシルビアにロウが聞いてきた。
「正々堂々と入るか、少し様子を見るか……。皆んなバラけてくれ」
シルビアはそーっと歩き出し、前方の建物の窓に近づいていく。
そして、窓のそばに行くと、コソッと中を覗いた。
「普通に中に入ればいいじゃないですか。お嬢様、服も質素だから街娘みたいだし、盗みの偵察してるみたい」
そう言ったサウロの口をロウが手でふさぐ。
「お前なぁ、口を慎め!」
「静かに!」
シルビアが二人を手で制す。
中の者達は気づいてないな。今は掃除中か……。
「あっ、転んだ……」
小さい子が水の入ったバケツを転んでひっくり返した。
すると、太った割腹のいい女がやって来て、その子の頬をひっ叩き怒鳴りはじめた。
何を言ってるかは聞こえないが、あの形相を見るからに、えげつない言葉を言ってるんだろう。
「お嬢様、発見されました」
サウロがコソッと耳うちしてきた。
振り返ると、ゴミ箱を持った少年が少し離れた所からこちらを見ていた。
「………ここで何してるんですか?」
警戒するように少年は、隊士達を見た。
そんな少年へとシルビアは近づいていく。
「シルビアと十名の護衛達だ」
「はい?」
「えっ?知らないの?街の人達には、ああ……よく来るあれね、で分かってもらえるのに。お前達もまだまだだな」
シルビアは護衛達を見てふっと笑う。
「あの、何なんですかあなた達は?こんなぞろぞろと、それにさっき覗いてましたよね?」
少年はシルビアを不審そうに見た。
「確かに不審者のごとく物凄く見てましたね、お嬢様」
サウロもうんうんと頷く。
「大丈夫、怪しい者じゃないから。ところで君は何してるの?」
「怪しい人は、怪しいって言わないよ………。僕はここの孤児院の子だよ。このゴミを奥の焼却炉で焼きにきたんだ」
警戒はしているが、相手が小さな女の子なので、少年もシルビアには少し気が緩んだようだった。
「迷ったの……?護衛も連れてるし、お金持ちの子かな。中が気になったの?」
少年はシルビアを覗きこむ。
「迷ってない。今日の目的地はここだ」
そう、この孤児院だ。
「僕はシルビア・アルビシス。公爵領にある十五の孤児院は全て公爵家の寄付金によって運営されている。つまり君達の家のオーナーだよ」
「アルビシス………えっ、え………じゃあ、公爵様の娘の…」
少年はサァッと青ざめた。
「いいからいいから。ところで君はいくつかな?」
「あの、その……15です」
青ざめながら少年は後退りする。
「いや、そんなにビビらなくていいから」
「ちょっと、何やってるの!?」
不意に、怒ったような声が辺りに響いた。
声の方を見ると、先程小さな子の頬を叩いていた太った女性だ。
「騒いでると思ったら、あなた達は誰!?何してるの!?」
女性はシルビア、隊士達を睨みつける。
「ここは公爵管轄の孤児院よ!勝手に入っていいと思ってるの!
?警備兵を呼ぶわよ!!」
鼻息荒く怒鳴ると、女は次に少年を睨んだ。
「マボナ、あんたが連れて来たんじゃないわよね!?」
少年、マボナは青ざめ声も出ないまま必死に首を横に振った。
「ほら、さっさと出て行って!!マボナもサボってるんじゃないわよ!」
「ああ、あの、奥様!こ、この方は……!」
「口答えしないでさっさとしなさいよ、愚図!」
シルビアはふぅ、と息をつく。
そしてサウロを見た。
「サウロ」
その名を呼んだ瞬間、サウロが動く。
次の瞬間には、女の喉元に剣が突きつけられていた。
鞘に手をかけたのは見えたが、本当に一瞬だった。
「首切り落としますか?」
サウロの言葉に、怒りで真っ赤だった女の顔はみるみる青くなった。そして、シルビアを見る。
「シルビア・アルビシスだ。ここは公爵家の持ち物だ、管理ご苦労………。褒美といっては何だが、不敬罪で死ぬか」
「ヒッ……!こ…公爵の…お、お嬢様でしたか、それなら早く言ってくれれば………」
「黙れ。発言を許可してない」
腕を組んで、シルビアは冷淡な目で女を見た。
「この公爵領では、僕らが法だ。お前一人死罪だろうが、どうとだってできる。さて、どうしてやろうかな……」
シルビアの言葉に、女は顔を歪めガタガタと震えだした。
「このまま首はねます?」
サウロが聞いてきた。
さっきからやたら首切ろうと勧めてくるな……。
「お前……人を殺した事は?」
「ありますよ〜。前鉱山の警備してた時なんて、夜盗が多いのなんのって。首ってそう簡単には切れないんですけど、俺上手いんですよ。腕、鈍ってないかな〜」
サウロは剣の刃をじっと見つめる。
うわっ、切りたそう…………。
でも、殺人はな………。僕だって、こんなおばさん大嫌いだし、死ねばいいと思うけど、いざ殺すのはな………。
「おい!お嬢様に殺しの決断求めるな!こんな幼いうちに、分かっないのに駄目だ!旦那様に知られたらどうなると思う!?」
ロウがサウロの手元を掴んだ。
「旦那様……………怖い」
サウロは素直に剣を下ろすと、鞘に収めた。
「内緒、お嬢様内緒でお願いします!」
懇願するように、サウロが擦り寄ってくる。
「分かった分かった。僕も覚悟が足りなかったし。嫌い、腹立つと思ったけど、それで初めての殺人を指示するほどの強い覚悟はなかった。死罪ってのも重過ぎるしな……」
人の生死を背負うほどの覚悟はまだない。
憎しみを抱いた事がない訳じゃないけど、平和な日本で生きてきたから殺人を選択するなんて思ってもみなかった。
夢なんだから、と軽く考えてもいいかもしれないが、抵抗はやっぱりあるな。
この夢が続いていくのなら、僕の立場ならいつかは決断する時がくるのかもしれない。
シルビアは怯える女を見た。
「死罪は勘弁してやる。今すぐ、何も持たずここから去れ」
「い、今すぐですか!?そんな、お、横暴です!」
「……子供達に奥様と呼ばせ、怒鳴りつけ、そんなぶくぶく太ったあんたの管理はどんなものだったのかな。今から中に入って帳簿を確認する」
「ああ………お嬢様、どうか、どうかご慈悲を!!」
女は地べたに這いつくばって頭を下げた。
「警備兵を呼ぶんだっけ?一生牢で暮らせるようにしてやろうか?」
「お嬢様!何でもします、私改心しますから!」
「腐った性根はそう簡単には治らないんだよ。サウロ、この女が出てかないなら腕を切り落とせ」
言うが早いか、シルビアは歩き出す。
「マボナだっけ?案内頼む」
「あ……は、はい!」
マボナはチラッと女の方を見た後、すぐに歩き出した。
「お嬢様っ………!!」
女の叫びを聞いたが、振り返らず歩き続けた。
素直に出てくだろうか。ああ、早く建物に入ってしまいたい。
脅したけど、結末は見たくない。
後は上手いことやってくれ、サウロ。任せた。
チラリと横を歩くマボナを盗み見た。
あんな女と思うけど、彼にとっては思い入れがあるかもしれない。
だが、マボナは笑っていた。
手で口元を隠しているが、堪えきれない笑みが顔にうかんでいた。
何だかいけないものを見てしまった気分だ。
「ここが入り口です」
マボナはドアを開き、頭を下げてその横に立った。
その表情はもう元通りになっていた。
「じゃ、失礼して……」
逃げるように、サッと中に入った。
そこは玄関で、年期のはいった靴箱にボロボロの靴が沢山詰め込まれていた。
隊士達も入ってきた為、狭い玄関は人でギチギチとなった。
「あ、あの、令嬢はどうぞそのままお上がり下さい」
マボナは靴を靴箱に突っ込むと、中を案内しようとシルビアの横に立った。
「えー………でもさっき掃除してたじゃん。土足で歩いたら、後で掃除するんでしょ?郷に入れば郷に従え、僕らもぬぐよ」
シルビアはブーツをぬぐと、一段高くなった床に上がった。
隊士達もそれに続き、靴をぬいでいく。
「すみません、お気遣いありがとうございます!」
「いいのいいの。それで、帳簿とかどこにあるか知ってる?」
「奥様や、ここで働いてる人達の部屋があるのでそこにあるかと。こちらです」
マボナが先導して歩き、廊下を奥へ進んでいく。
シルビア達もその後に続いたが、大の男が九人もいるので、古びた木の床が悲鳴のように大きくギシッと鳴った。
ギクリとし、隊士達は間隔をあけ、恐る恐る歩く。
それでも床はミシミシと大きな音を立てた。
「毎月充分な管理費が当てられてたはずだ。修繕には使われなかったようだな」
辺りを見渡すと、床だけでなく、壁も壁紙は剥がれヒビが入っていたり、開いたドアからのぞく室内もボロボロだ。
クスクスと笑い声がしたので、そちらを見ると子供達が奥の方からこちらを見ていた。
床抜けちゃうね、など言っている。
「こら、お前達部屋に入ってろ!失礼があったら、ここは無くなるぞ!」
マボナが走っていって、子供達を部屋に押し込める。
「いや、子供相手にそんな非人道な真似はしないよ。普通にしてていいから。皆んなのお家にちょっとお邪魔させてもらうよ」
シルビアは子供達に手を振った。
その時、背後に気配がした。
「終わりましたよ〜」
そう呑気な声がかかった。サウロだ。
「終わったって……どうゆう意味で?」
ヤバイ方の意味でないと願いたい。
すると、サウロはニンマリ笑った。
「剣を抜いたら叫びながら出ていきました。安心したでしょう?」
「良かった……」
「お嬢様の意に沿わない事すると旦那様が怒りそうなんで我慢しました。偉いでしょう」
「あー偉い偉い。じゃあ、揃ったし行くぞ」
シルビアは一行はギシギシと大きく床を軋ませながら奥に向かった。
「こちらです」
マボナは奥の部屋をノックすると、ドアを開けた。
中にいた人達が一斉にこちらを見る。
うわっ………。こりゃまた人相が悪そうなのが数人いるな。
中にいた女が何か言おうとしたが、それよりも早くマボナが口を開いた。
「シルビア公爵令嬢です。視察にいらっしゃりました」
その言葉に皆が、ギョッとしたのが分かった。
次に、ハッとして女達が椅子から立ち上がる。
「こ、公爵令嬢様でございますか!し、視察ですか……。今まで一度もされた事がないんですが、それも公爵令嬢様自らだなんて」
人相の悪そうな女が慌てながら言った。
「今責任者がちょっと席を外しておりまして………」
「奥様なら令嬢に不敬を働いて、先程ここから追放されましたよ」
マボナの言葉に女は目を見開きシルビアを見る。
「と、いう訳だ。僕を不快にさせないよう、せいぜい気をつけてくれ」
シルビアはスッと手を差し出す。
「帳簿を見せろ」
「帳簿ですか…………?それが……あの……」
「もう一度言わせたなら、お前も追放だ」
「ヒッ……!」
女は慌てて書棚に駆け寄り、帳簿らしき物を手に取った。
「あの、これですが………。私は何も知りませんよ。全部責任者の………」
「早く見せろ」
女の手から帳簿を奪い取った。
言い訳がましい。そんな事を言うなんて、不正があったと言ってるようなものだ。知らないはずがない。
シルビアはパラパラと帳簿をめくった。
女はハラハラとした様子で、視線をさまよわす。
それもそうだろう。
開いた瞬間で、は?と思った。
月の管理収入が書かれ、そこから雑費と称したものが何回も引かれていた。かろうじて食費や、運営費がわずかにあり、残りは全部雑費だ。最後には残った金額分ぴったりの雑費が引かれており、毎月綺麗に残金ゼロとなっている。
「雑費って何?」
笑ってしまう酷さだ。
すると気になったのか、サウロが覗き込んできた。
「俺らが身を粉にして働いてるっていうのに。チョロいもんだ、統制局も」
「どれどれ……」
今度はロウが覗き込んてきた。
「あいつら雑な仕事して………。結構な金額ですよね、これ」
そう。これは立派な横領事件である。
統制局とは、元の世界でいう市役所のようなものだ。
この孤児院も統制局が管理し、毎月の給付金の受け渡し、報告書を受けとり場合によっては指導、年一回の監査を行うという事になっている。
だが、孤児院を調べようとしたら、報告書は受け取ってファイルされているだけ、年一回の監査も行われておらず、給付金の使用状況も不明だった。
統制局も仕事が山積みで、税収など入ってくるものには厳しいが、定期的な定額出費はそうゆうものとしておざなりになってしまっていたのではないかと推測される。
報告書も雑の極みといわんばかりの適当なものだったが、統制局がただ受け取るだけだったので、あのオバさんもそれで良しとして助長したのだろう。
「……あの責任者のオバさんはここに何年勤めてた?」
聞くと女はビクッとした。
「に……二十五年です!」
「そんなに………?ずっとこの状態か?」
「え!?いえ…………私はまだ十年なので分かりません!何も知りません、本当です!」
十年もいれば、分かるだろうが!というか、共犯だろ!
苛々としてきたが、怒って解決する問題ではない。
シルビアは帳簿を乱暴に机に叩きつける。
「この金はお前らの私財じゃない。給料は別に出てるはずだ。盗んだ金はどうした?」
「ぬ、ぬ……盗んだなんて……そんな………」
女は真っ青になってガタガタ震えだした。
狭い部屋には、帯剣をした騎士が十名もおり、無言の圧力で自分達を見下ろしている。
他の女達も、状況を把握し青ざめていた。
「ほ、本当に知らないんです!全部あの責任者の女がやった事です!私は何も知りません!」
そう言うと、女は顔を手で覆い号泣し始めた。
この女を、あの責任者を罰すればいいという訳ではない。
問題はこれが、氷山の一角という事だ。
この孤児院だけではない、きっと他の孤児院でも同じようなことが行われているだろう。
ずさんな統制局の管理、監査もされない無法地帯。他人の目もない、限られた空間で何が行われているか、当事者達しか知るよしもない。
「お嬢様、どうするんです?」
黙ってしまったシルビアにサウロは聞いた。
「そうだな……。今後は他の孤児院の確認と、統制局の体制を見直さないとな。その前にここをどうするかだけれど」
シルビアはマボナを見た。
「ここにいる子供達での年長者を集めてくれ」
「あの………ここは17まで受けいれていますが、今は俺が一番歳上です。あとは小さい子ばかりで」
「そうなんだ」
「男で大きい年齢だと、力もあるから抵抗されるのを考えて受け入れないんです。俺も再来月にはここを出される予定でした」
マボナの発言に、号泣していた女がピタッと止んだ。
涙だらけの顔でマボナに何か言いかけたが、シルビア達を見て口をつぐむ。
「へぇ………なるほどね。じゃあマボナ、お前がここを追い出す人達を選んでくれ」
「…………えっ!?」
マボナは目を大きく見開いてシルビアを見た。
「だってどの人がどれくらいの悪さをしたかとか分からないしさ。中にはちゃんと面倒をみてくれた人だっているだろ?」
「でも……俺なんかが………」
「お前が決めなきゃ、誰がやるんだ?ここをよく知る当事者だろ?急いで後任者募集するからさ、遠慮なく決めてくれ」
「本当に俺でいいんですか………?」
「いいのいいの。でも全員クビだとさすがにここ回らなくなるからマズいか?いや、でも膿は全部出すべきか」
すると、女がシルビアの前に来て土下座をした。
「あんまりです!こんな子供に大切な事を決めさせるなんて!意地が悪くて何も分かってない子なんです!こんな子信じないで下さい!」
じゃあお前は信じるに値するのかっての。
思わず苦笑いしてしまう。
素直に認めたり、正直に話すならまだ見どころもあるけれど、いい訳に責任転嫁を繰り返すばかりで、反省なんて頭にもないんだろう。最後には口にするかもしれないが、そんな上辺の誰が信じられるか。
「大丈夫。これまで培ってきた愛情と献身を信じろ」
ニッコリと女へと笑う。
これだから大人は嫌いなんだ。
シルビアは促すようにマボナを見た。
さすがに急すぎるか?即決は出来ないだろう。
考える時間を与えた方が…………。
だが、マボナはスッと土下座をする女を指差した。
そして、次々に他の女達を指差していく。
「………この五名はいりません。給付金に手を出してたのも、彼らなので今日追い出されても生きてけると思います」
「マボナ!あ、あんた……よくも育ててもらった恩を忘れて!!」
女は立ち上がり、マボナに掴みかかろうとしたが、それをロウが止めた。
「はい決定!さあもう言い訳を聞く気はありませんよー!」
シルビアはパンと手を打つ。
それから隊士達を見た。
「さっさと片付けちゃおう。お前ら、外に連れ出せ!」
その言葉に、隊士達は指差された女達を掴み引きずりながら外へ連れ出していく。
「戻ってこないよう、そのまま外で見張っといてくれ」
手を振りながらシルビアは隊士達に言った。
だが、引きずられていく女達が口々に騒ぐ様を、ドアの隙間から子供達がビクビクしながら見ているのが見えた。