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シルビア倒れる

校舎北側の隠し扉を探し始めて1週間が経った。

範囲が広いので、まだ見つかってはいなかったが、段々とエリアも絞り込めてきたのであと1週間もあれば発見できるだろう。

カトリーヌの記憶が正しくて本当に校舎北側にあるのならばだが。




だが、順調にいっていると思われたこの時に事件は起きた。


昼食兼話し合いの場としてエディス、ルオーク、カトリーヌ、ナイル、ティーエ、そして僕シルビア・アルビシスの6人でここ最近は個室にて食事をとっていた。



そして、昼休憩の時間が終わる前に解散し、各自別れた。


3学年の教室へとナイルと2人で向かう途中、ナイルが突然尋ねてきた。


「その、最近王太子とはどうだ?昼も授業後もみんなでいる事が多いだろ」

「な、何?エ、エディスと?」


思わずドキッとした。

何だその質問?どうゆう意図?あ、あれだよな。婚約破棄して友達に戻ったとはいえ、一緒にいて気まずくないか的なやつだよね?


「何ともないよ。長いこと友達だったから平気平気」

「…………探索も2人がペアの事多いじゃん。どんな感じ?」


どんな感じって、めっちゃラブラブな感じになってますけど。

も〜ちょっと、そうゆう質問の仕方やめて。


「別にどうにも。前と同じだよ」

「そうか?前よりも仲いいんじゃないのか?」


だから何なん、その質問?え?何か知ってんの?カマかけてんの?


「き、気のせいだよ」

「…………ふーん」


いや、顔納得してないし。え?何聞きたいの?真実?

ナイル相手にエディスと付き合ってますって?うわ〜ないない。

知ってんのなら、そのまま知らないふりしといてくれ。

あっ、でも言っておいた方がいいんだっけ。

でも、教室に戻ってる今言うタイミングじゃないよね。廊下に人もいるし、公開報告みたいになっちゃう。


「まぁさ、お前がそれでいいなら俺は何も言わないけど」


また意味深発言。こいつ…………やっぱ知ってんのかな。


チラチラとナイルを見ていると、女子生徒が2人駆け寄ってきた。


「シルビア様、今日も麗しいです!」

「あの、シルビア様に食べてもらいたくて、私達お菓子を作ってきたんです」


2人の生徒はキャイキャイと騒ぎながら、可愛くラッピングされた箱を差し出してきた。

手作り差し入れとかよくあるけど、全部食べ切れないのでいつも1、2個だけ食べて残りは持ち帰ってもらっている。


「ありがとう。じゃあ1個だけもらおうかな」


ニッコリと笑いかけると、彼女達は嬉しそうに包みを開く。

美味しそうなクッキーだ。


「え〜、俺にはないわけ?」


不満げにナイルがぼやくが、それは無視してクッキーを1個摘んだ。


「じゃあ、頂くね」


パクっと口に入れる。

おっ、甘さもちょうどいいし、サクサクで美味しい。

昼食後って、ごはんは食べてるのに甘いもの欲しくなるんだよね。


もう1個摘み、口へと運ぶ。


「シルビア様に喜んでもらえて嬉しいです」


彼女達は顔を見合わせて嬉しそうだ。


「うん、上手に出来てるよ。2人もほら」


可愛いな、喜んじゃって。

クッキーを摘んで女子生徒の口元に近づけると、顔を赤くしながらも口を開けクッキーをパクんと食べる。

2人にそれをやり、照れて赤くなってる姿を見て満足した。


「うわ〜シルビアそうゆうのすんなよな」


あからさまに顔をしかめたナイルへ、ニヤリと笑い、クッキーを摘むとその口元へと運んだ。


「ちょ、俺はいいから」

「まあまあ、そう言わず」


半ば無理矢理にナイルの口へと押しつけると、仕方なくナイルはそれを口にした。


「ん、まあ美味しいな」

「だろ。ナッツも入ってんのかな」


もうすぐ授業だからと、クッキーをヒョイと摘んで更に4枚食べる。

これが女の味覚か、甘いものがとにかく美味しい。

綾人だった時だって、女の子から授業で作ったお菓子とか、差し入れもらったけど、食べた事なんてなかったもんな。


その時、予鐘が鳴った。


今日もこれからの授業を全部終わらせたら探索だ。

エディスはすっかりいちゃいちゃの時間と思ってるのか、なかなか作業に取りかかれないんだよな。今日こそはビシッと言わないと。


「ご馳走様、美味しかったよ」


ニコッと笑って、クッキーの箱を女子生徒へと返す。

だが、さっきまで楽しそうに笑っていた彼女達は驚いた顔で僕を見ていた。


「おい、シルビア、鼻血出てるぞ」


ナイルの声と共に、ハンカチが差し出されたが、視界がグニャリとぼやけた。


あれ…………?何だか目が回る…………。変だ、体が動かない。

声が遠い…………。ヤバい、立ってられない……………。


体がふらついたのが分かったが、そこで目の前も真っ暗になった。




昼休憩後の1つ目の授業が終わった後、エディスは保健室へと駆けつけた。


授業の途中に他の教師が、コソコソと報告に来たのが生徒に聞こえ教室内はあっという間にその話で騒がしくなった。


生徒会長のシルビア・アルビシスが倒れて意識不明になっていると。



「シルビア!」


保健室のドアを開け、室内の奥の方へ入っていくと人の集まっているベットがあった。


寮もあり、貴族の子供達が通う学園では、保健室といっても治療院と同じくらいの設備が整っており、医師も在席している。


「シルビア…………!」


駆け寄り、ベットに横たわり瞳を閉じて眠るシルビアの姿を見たら体の力が抜けそうになった。


出会ってから、魔力暴走で傷ついた時だって、いつでも力強い彼女の姿しか見た事がなかった。

眠っているといえばそうなのだが、こんな無防備に眠る姿が見慣れなくて、いつものシルビアじゃないんだというのを確認させられて動揺した。


「おーい、殿下、大丈夫か?」


声をかけられて、そこにナイルがいた事に気づく。

他にも医師や、侍従の者、それにカディオ先生がいた。


「……………何で先輩がここに?」

「俺もクッキーを食べちゃってさ、気持ち悪くなってゲーゲー吐いたんだ」

「クッキー?」


何の話だ?そう思ってると、カディオが話し出す。


「これだよ。毒というか、麻薬が高濃度で含まれていた」


カディオは可愛く包まれた箱に入ったクッキーを見せてきた。


「何でそんなものが………………」


シルビアは何も思わずそれを食べたのか?どうして?誰がそんな…………。


すると、ナイルが口を開く。


「俺もその時一緒にいたんだ。女子生徒の差し入れで、彼女達もそんなものが混入してるとは知らなかったから、みんなで食べた。俺らは1枚だったけど、シルビアはかなり食べてた」

「は?知らないって、自分達で差し入れに来たんだろ?」

「調理研究会の他の女子生徒が作ったものだそうだ。恥ずかしくて渡せないからと、2人に頼んだらしい。その生徒の名前も分かってるようだ」

「何でそんな事を……………」


シルビアを狙って?ただの女子生徒がそんな事をするのか?


「昔からの友人で元婚約者がこんな目にあって殿下も辛いでしょう。でも、ここにいても出来る事はないので、行きましょうか」


カディオはそう言ったが、来たばかりだ。もっとシルビアについていてあげたい。


そんな時ナイルの視線に気づき、そちらを見る。


「実は怠くて足もガクガクで座ったきり動けないんだ。情け無いな〜。俺もしばらく休んでくから、王太子は他の事してなよ」


顔はいつものようにヘラヘラっと笑っていたが、その目は真剣に何かを訴えるように僕を見ていた。

その目が行けと語っているように思え、自然と頷いていた。


「……………じゃあ、カディオ先生、行きましょうか」


本当はシルビアについていてあげたい。

でも、僕はそばにいたって何もできないのも分かってる。

だから、その他の事で僕に出来る事があるなら何だってやる。


カディオと2人で保健室を出ると、遅れて駆けつけてきたルオークとティーエと出くわした。


「エディス、シルビアはどうだった!?」


ルオークは保健室に入ろうとしたが、その手をカディオが掴む。


「ちょっと話をしよう。ここじゃ何だから場所を変えようか。俺の研究室に行こう」


カディオは手を放すと、それ以上語らずにさっさと歩き出した。

ルオークは、はあ?という顔で僕に答えを求めるように見てくる。


「2人共、一緒に来てくれないか?シルビアには今ナイル先輩がついてるから」


そう言うと、小走りぎみに歩きカディオの横に追いついた。

そんな僕をチラッとカディオは見る。


「…………シルビア嬢の容態が心配だろう。実は聖女のカトリーヌ嬢を呼んで、聖なる浄化の力を試みたんだが…………、あまりにもショボくて使いものにならなかった」

「え………?」


そうだ、聖女の力があったんだ。でも、使いものにならないって……………。


「特訓も何もほとんどしてなかったらしい。こんな事態で、急に求められて頑張ってはいたんだが……………。君に責めるなとは言えないけど、彼女は大泣きして謝りながら自分を責めていたよ」

「そうですか……………」


カトリーヌが聖女としての努力をしてるところは、確かに見た事なかった。街へ行ったり、一時期は僕の事を追いかけ回したり、聖女というより、そこらにいる普通の少女のようだと思っていた。

でも、その力が必要なこんな時に、使いものにならないだなんて。


「今は中毒を起こしてる女子生徒2人の治療を微力ながら当たってるけど、シルビア嬢の時点でヘロヘロになってたからどうだろうな」

「………分かりました」


状況は分かった。聖女までいる恵まれた状態なのに、悲惨だな。



少しすると、カディオの研究室へと着いた。


応接のセットがないので、カディオはそこにいらの椅子に座ってくれと言った。

ルオークもティーエも落ち着かない感じだったが、とりあえず椅子に座る。


「さて、見舞いも出来ずに何で俺に連れてこられたか気になってるだろう」


カディオは紙やら、本で山積みになったデスクに腰掛けた。


「実はナイル君に頼まれたんだ。中毒の真っ最中に、真っ青な顔でぶるぶる震えながら助けてほしいって。学園の誰を信じていいか分からない、先生しか頼れないって言ってた」


カディオの言葉にティーエがすぐに反応した。


「ナイル先輩も何かあったんですか!?会長が倒れたとしか聞いてないんですけど!」

「麻薬入りのクッキーを食べたんだよ。でも量が少なかったからナイル君はもう大丈夫だ。シルビア嬢はかなりの量を食べたので今は昏睡状態になっている」


その言葉には、2人共驚いた顔で言葉を失う。


「簡単に話は聞いた。この学園ぐるみで麻薬に関わっている事くらいだけど。ナイル君も話が出来る状態じゃなかったからね。冗談みたいな話だけど、あんな必死な顔されちゃあね。詳しくは君らに聞いてくれって事だったけど、このメンバーなら信憑性もあるね」

「ナイル先輩が……………」


あの状況下で先輩がそんな判断をしてたなんて。


「どうして君達がそんな情報を知ってるのか分からないけれど、表沙汰にしてないって事は、まだ明確ではなく探っているような段階なのかな」

「そうです。この学園の地下に麻薬の原料の花畑を育成しているというので、僕らはそれを探してました」

「…………ここの地下に?ははっ………それが本当なら凄い話だな。子供達を育てる伝統ある学び舎の真実の姿は闇か」


カディオは少し動揺したように視線を逸らすと口をつぐむ。


「今回の事件も学園長の仕業じゃないのか?麻薬入りのクッキーって何だよ。自分らの学園内でこんな事起こすなんてあいつら何考えてんだ」


ルオークは憤りながら拳を強く握りしめた。


「みんなの前での犯行でしょう。目撃者も多いから、学園中噂になってましたよ。どう収集つけるつもりなんですかね」


ティーエは怪訝そうに唇を尖らせる。


「クッキーを作ったとされる肝心の女子生徒は学園の教諭に身柄を拘束された。学園側がグルなら正しく取り調べもしないだろうな。治安部にも知らせるかどうか。何より………」


カディオは少し言い淀み、それから僕ら3人の顔を見た。


「アルビシス公爵家の令嬢に手を出したんだ。あの公爵相手に、誤魔化したり上手く立ち回れるとは思えない。公爵の逆鱗に触れ、ここは灰と化すかもな。向こうは王国の権威で罪状だってでっち上げられるし、軍隊も持ってる。だがら、おそらく知らせは届かせない。でもこれだけの人が知ってるからいずれ公爵の耳には入るだろう。学園側は短期で決着をつけるつもりじゃないかな」


確かに、今のご時世にアルビシス公爵家を敵に回すのは正気の沙汰ではない。

それでも事を起こした。覚悟を決めたという事なのか?

武力では足元にも及ばないから、戦うんじゃないな。

時間稼ぎか…………?もしかして、この間に全ての証拠を消しさるつもりなのか?


「俺が公爵家に宛て書簡を書く」


ルオークがそう言ったが、カディオは首を横に振った。


「シルビア嬢を狙ったんだ。君らが仲間だとはバレてるだろう。書簡を出すにも、冬のここは孤立している。一旦街に出て、手続きをし、王都方面行きの荷台にまとめられるが、その間に手が回されるだろう」

「何だよ、じゃあどうすればいいんだよ!?」

「だから俺が書簡を出しておいた」


カディオがふっと不敵に笑う。


「えっ?え!?先生いつの間に!?事情知らなかったんだろ!?」


ルオークもティーエも驚いていたが、正直僕も驚いていた。


カディオ先生が先輩に頼まれたからって、信憑性もない話であるし、まだほとんどの情報もない時点で公爵に書簡を出すとは思ってもなかった。


僕らの反応を見ながらカディオは満足気に笑った。


「咄嗟に判断したとはいえ、いい判断だっただろ?学園は貴族の子供を預かってるので何かとやり取りも多い。この季節は独自のルートで週1回書簡を集めて持っていくんだ。たまたま今日がその日で、俺もいくつか出した中に紛れこました」

「でも先生が公爵家宛てにって怪しまれるんじゃないですか?」


ノーチェックならいいけれど、チェックされたら絶対に引っかかるはずだ。


「大丈夫だ、王都の研究所の友人宛てになっている。その中に、公爵に渡してほしいと更に書簡を入れておいたんだ」

「…………よくあの時点でそこまで考えましたね」

「学園が敵になる可能性があったからな。でも事態を把握してるわけじゃないから公爵に何を書けばいいかは分からなかった。シルビア嬢が意識不明の件と、それにおそらくは学園が関わってること、俺が知り得てるのがそれだけだから、短い文面となったが、異変が起こってる事だけでも分かってもらえればな」

「公爵ならそれで充分です。必ず動きますよ」


親バカなくらい溺愛するシルビアに手を出され、例え嘘の情報だとしても黙っている男ではない。

自分のものに手を出す者には容赦のない男だ。


「俺も公爵に偽りを申告した形にならなくて良かったよ。1回見たけど、覇王の貫禄だな、あれは。友人がビビって公爵に書簡を渡せないとかならなければいいけど」


皮肉めいた事を言い、カディオは小さく笑った。


ナイル先輩に頼まれたのだって、突然の事だったはずだ。

それなのに、この判断と決断力。

これまでそんなに意識したことがなかったけど、とても賢く柔軟で多彩な考え方のできる人なんだろう。

大人だな…………。僕より7つくらい上だっけ。

僕に出来る事は増えてきたけれど、自分はまだ子供だと感じた。

動揺して戸惑っている間に、先生がどんどんその先を見据え策を練っていく姿を見ると悔しくて自分が情け無く思えてしまう。


「さあ、それじゃ作戦会議といこうか。向こうはきっとなりふり構わないでくる、早期に片をつけに」


カディオの言葉にルオークもティーエも、そして僕も頷いた。


負の感情は今考えるべき事じゃない。

僕は僕のペースで大人になっていくしかないし、焦ったってどうにもならない。

今自分に出来る最善を考えるんだ。

その為には冷静になるんだ、落ち着いてあらゆる手を考えるんだ。

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