仲間たち
こうして学園の闇を暴くべく、合計6人の選りすぐりの者達が集まった。なんちゃって。
授業の終わった後、使われてない教室にその6人は集まっていた。
昨日、エディス、ルオーク、カトリーヌの探索が終わった後、生徒会室に集まってもらい、簡単な説明と顔合わせは終わっている。
そして今、互いに顔を合わせているものの、会話はない。
彼らに僕、シルビア・アルビシスが魔石を向けているからだろう。
「あ、あの、さっきから何なんですか、それ?」
カトリーヌが魔石を向けられ不快そうな顔をする。
「これ?世紀の新製品、映像記録装置なのだ!まっ早い話、録画できんのよ」
「え!?この世界にそんなものが!?」
驚いて口走り、カトリーヌはしまったというように、ナイルとティーエの2人を見た。
まあ、その発言はセーフでしょう。
「まだ発売してないけど、僕が作ったんだ。カディオ先生に解析を依頼中。この世界に震撼を巻き起こすよ!そして魔導具でも世界に君臨する企業にしてみせる!」
あー、でもこのままいくと王太子妃になってしまうんだっけ。
どうしようかな。
張り切って言ったあと、急に沈んだ様子を察したエディスが声をかけてきた。
「王室との共同開発にしようか?」
「え?何で?うちの独占なのに。王室関係ないじゃん。王室の魔導研究所でなく、うちの公爵家も魔導研究所買取りに父上動いてくれてるし、利益はガッポリ公爵家独占ってもんよ」
言ってから再びハッとする。
あっ、そうだった、公爵家出ていくんだ。でも、王室の魔導研究所と共同開発にはしたくない。純粋に王室に取り分がいくわけでもなく、奪われてくのも大きいからな。
やっぱり公爵家で独占して、特許権を僕が保有して、その取り分を受け取ってくのが1番ベストだな。
「おい、金儲けの話はいいからさっさと進めろよ」
そう悪態をついたのはルオークだ。
「確かに。ごめん、話がそれて。何かあった時の為に、これで随時記録を撮り溜めていくよ。あと、皆んなの分も僕が制作したから、1人1個配布します」
さっそく、作ってきた魔導具を各自に渡す。
「これ、このスイッチを押すと映像が記録されて、また押すと止まんの。単純な操作だけど凄くない?こんなんなかったでしょ。僕の想像力と莫大な魔素量があってこその代物なんだ」
とんでもなく魔素が奪われたけど、出来てしまうから、さすがは僕だ。これが何の魔法が使われてるのか解析が終われば、その通りに他の何人ものエキスパート達に配合していってもらって、大量生産といきたいところだ。
皆は興味津々に、スイッチを何回も押したりしている。
「危険を感じたり、撮っときたいものがある時は使ってね。消去する機能はついてないから、今押してんのも映ってっからね。映像は水平なとこに置いて5秒間動かされなかったら映し出されるようにしといたから。どう、凄いでしょ?」
あとは、製品として売り出す前に、この魔石に込めた魔力が何年持つのかもテストしていかないとな。おっと、そんな事考えるのも後にしないと。
「シルビアの魔法は凄いと思ってたけど、新しいものを生み出すとか本当に本物なんだな」
ナイルは魔導具をかざしながら感嘆の声を上げる。
「それ程でもあるけど。僕も自分の才能が怖いくらいさ。更なるアイデアもこの頭に詰まってるし、もう世界1番の魔導具会社なるしかないよねー」
前世での機械のパクリだけどね、という顔でカトリーヌを見てニヤッと笑う。
「んじゃ、話逸れてるんで戻して、昨日各自に渡した学園の図面模写の紙見て。バツついてんのは探索したところ。それ以外を今日は2人組に分かれて探索する」
図面の校舎北側には網の目のように線を引いて番号を振っておいた。
「1番は僕とカトリーヌ、5番はエディスとルオーク、10番はナイルとティーエで探索するように」
この組み分けが1番いいだろうと思ったが、カトリーヌがおずおずと口を開いた。
「あの、会長はエディス様とでいいですよ」
「えっ、でもルオークとじゃ気まずいでしょ」
「いや、でも、ほら…………あれですから。私は大丈夫です」
カトリーヌはチラッとエディスを見る。エディスは見るからにニコニコとご満悦な顔だ。
おいおい、そうゆう圧はかけちゃいかんよ。
「俺も別にいいけど」
ルオークまでそう言い出した。
2人共エディスに甘いな。振った女と振られた男気まずくないの?まあ、2人がいいならいいんだけどさ。
「じゃあ、そうゆう事で人には見られないよう各自探索開始。人が居たら、自己判断で違う番号のとこ探索しといて」
そう言うと、ペアのエディスへと行くよと視線で合図した。
エディスはニコニコがおさまらない顔で、隣へと来るとギュッと手を繋いできて、僕を見て憂いを秘めた表情をうかべる。
お、おいおいおい!ナイル達もいんのよ!てか人前だし!
慌てて、そのままエディスを引っ張って教室を出て行った。
廊下も一目につくので、立ち止まらずにそのまま引っ張って目的の探索地まで連れて行った。
そこでパッと手を離す。
「エディス、どうゆうつもりだ?」
「そんな急いで連れて来なくたっていいのに…………。カトリーヌもルオークも僕らに気を使ってくれたんだね。昨日いっぱいシルビア愛について語った甲斐があるな」
おい、知らないうちに何語ってんじゃい。恥ずかしい奴め。
「でも、ナイル達もいただろ」
「この際あの2人にも口止めして話しちゃおうか?当分みんなで行動しなきゃいけないだろうし」
「ちょ………話してどうするんだ?」
「堂々といちゃつけるようになるよ」
ふふっ、とエディスは嬉しそうに笑った。
「いやいやいや、人前でいちゃつきませんから!」
「まあ、する、しないは別にしても、始めに話しておけば、うっかり口を滑らす心配もしなくていいんじゃないの?ルオークとカトリーヌも知ってる訳だし」
「そう言われるとそんな気もしないでもないな…………」
「じゃあ、そうしよう。ただでさえシルビアとの時間が減ってしまったから、探索が目的でも僕はシルビアと一緒にいれて嬉しいんだ」
そう言って笑うエディスは本当に嬉しそうで、こっちの方が照れてしまった。いつもの澄ました顔でなく、そんな顔されると可愛くて仕方なくなる。
「はいっ」
ニコニコとしながら、エディスが両手を広げた。
「…………えーっと………、今そうゆう時間じゃありませんが」
「1回だけ。ねっシルビア」
キラキラの顔で、お願いというふうに訴えられると、それを嫌だとは拒否出来なかった。
「あーもう、僕はホントお前に甘いな」
とことことエディスの元まで歩いていくと、その腕がすっぽりと僕を包み込み、強く抱きしめられた。
お前にも甘いし、自分にも甘い。
「うん、そうゆうところも大好きだよ」
耳元での甘い声にゾワゾワとする。
何でわざわざ耳元で囁くんだ。わざとか?狙ってんのか?
「ちょっとだぞ」
「分かってるよ」
耳たぶにチュッとキスされ、体がビクッとした。
全然離す気配かないけど、本当に分かってんのか?
なんか、そのままチュッチュッしてるし、おい。
「あー好き、ずっとこのままでいたい」
「こら、ちょっとだって言っただろ」
「……………シルビアはさ、僕と結婚するのは嫌?」
エディスがコツンと自分のおでこを僕のそれに当ててきた。
間近で見ても粗のない整った顔をしている。
肌も綺麗だし、僕を見る節目がちな瞳のまつ毛が長くて、形のいい唇が目の前にあってそこから目が離せなくなって、気づいたらそれに唇を重ねていた。
そのまま何度も唇を重ね合う。
温かい。柔らかくて気持ち良くて、触れていると心地よくて、ずっとこうしていたくなる。
僕だって、ずっと一緒にいたいと思うよ。
少しして、唇を離すとじっとエディスを見つめる。
なんか、想いが溢れそうで気軽に好きなんて言えなくなってきた。
「結婚……嫌じゃないよ。でも、失うものが大き過ぎて、手放す勇気が持てなくて、まだはっきり言えない」
「………ごめんね、貧乏で」
「貧乏っていっても王国民の税だろ。人の血税で過ごさなきゃいけないってのも……………」
そんな事言っても仕方ないのは分かってるんだけど。
あっ、エディス困った顔してる。
そりゃそうだよな、そうゆう体制なんだもんな。
「と、とりあえずこの件は保留で。ほら、早く取り掛かろう」
袋から鉄の棒を取り出し、エディスの手に握らせた。
エディスは黙ってコクッと頷く。
愛だけあれば他に何もいらない。
そんなふうに思えればいいんだろうけど、こんなチートみたいな能力と環境で生きてきてしまったから、望むもの全て手に入れて生きていきたいと思ってしまうんだ。
その頃、別の場所で探索を行っているナイル、ティーエのチームでは、ナイルがひたすらグチグチとぼやいていた。
「あーもう、気づかない振りしてんのももう面倒なんだけど。お前ら付き合ってるだろ?って先に言ってやろうか。てか、王太子隠す気ないだろ」
苛立ちながらナイルが鉄の棒を何度も地に突き刺す。
「最後手を繋いで行っちゃいましたもんね。他の2人は知ってるんですかね?」
ティーエは手がヒリヒリして、ふーふーと自身の手に息を吹きかけた。
「知ってんじゃないのか?あんな違和感あんのに、突っ込みもなく、俺らも行こうとか流してたし。普通、え?何?とかなんだろ。それとも俺らと同じように、見て見ぬふりしてやってんのかもな」
ナイルはハンカチを取り出すと、手に巻いとけとティーエに渡す。
「ありがとうございます。もう言っちゃっていいんじゃないですか?会長達もまさかバレてないとは思ってないと思いますよ。言いにくいから、態度に出してるんですよ」
「察しろって?手のかかる奴らだな。とっとと公表すればいいものを」
ナイルは大げさなくらいのため息をついた。
隠してるくせに、王太子なんか俺が馴れ馴れしくシルビアに接してると、虫ケラを見るような目で睨みをきかせてくるし、全然平静を保ててない。そのうち周りも気づくぞ。
「明日にでもさっそく言ってみますか?どんな反応しますかね」
棒を刺しながら、楽しそうにティーエが笑う。
「そうだな。…………お前さ、もし………」
言いかけて言葉を止めた。
もし、秘密の扉を見つけて、姉さんの事が分かって亡くなってたらどうする?その覚悟は出来てるのか?
そんな事、改めて口にされたくないよな。
きっとお前は俺なんかより、覚悟を決めてるよな。
「何ですか?途中で止めないでください、気になります」
「いや、お前は好きな奴とかいないの?」
「へ?なっ何言ってんですか!?何その質問!?先輩に関係あります!?」
「いや、応援でもしてやろうかと」
「余計なお世話ですよ!先輩は黙って手を動かしてればいいんですよ!ほら!」
「あー、はいはい。余計な話だったな」
まあ、こいつは好きな奴なんていなさそうだよな。
ぷいっと横を向いてしまったティーエを見ながらふっと笑ってしまった。
耳まで真っ赤になってる。
あんま、こいつの泣き顔は見たくないな。
こうやって怒ったり、笑ったり、むくれたり、そうゆう方がずっといい。
でも、きっと泣く事になるんだろうな。この先の事なんて分からないけれど、そんな気がした。




