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学園の噂話

その日の昼休憩後は、学園の空気が一転した。


少し遅れて広まった噂話に、学園も無関係ではなかったので、生徒たちが騒いだ為だった。


以前、学園に特別講師としてやってきたソードマスターのサウロ・ルータンが、ブルガード王国の国境にて大量虐殺を行い、そこを壊滅させ、逃亡犯になったという情報が広まったのだ。


学園側も、貴族子息達にソードマスターに訓練をしてもらった事を大々的にアピールしていたので、さぞバツが悪い事だろう。


生徒たちは面白半分に、騒ぎ立てた。


〝怖いな、下手したらこの学園全滅させられてたかもよ〟

〝そんな危険人物がこの学園に来てたなんてな。逃げてるって、逃走先にここ選ばないでくれよ〟

〝けど、ブルガードの奴ら調子に乗ってたから、これでちょっとは大人しくなるんじゃないか?いい気味だ〟

〝誰かソードマスター捕まえられる人いるの?あの人って確か公爵家所属じゃなかった?〟



好奇の目は、当然在学するアルビシス公爵家の僕にも向けられた。


父上がサウロが事を起こす前に騎士団退職になっていたという扱いにしたようだが、それでも人は聞きたがるものだ。



1回質問されたけれど、

〝退職って言ってんだろうが。くだらねぇ事聞いてきたら次はねぇからな〟

低く押し殺した声で、殺気を込めたら、教室内が一気に凍りついた。


それ以上うるさいのが出てくるのなら、生徒会長特権で処罰してやろうと思っていたけれど、僕の様子まで知れ渡ったのか、絡んでくる者はいなかった。





全ての授業が終わった後、僕は生徒会室にいた。


エディス、ルオーク、カトリーヌの3人には予定通り校舎北側の探索をしてもらっている。

僕も行きたいけれど、今日は大注目の人なので目立つのを避け、人の目を気にしてこの部屋に引っ込んだのだ。


サウロの事、ブルガード王国に向かったのは知っていたけど、ここまでやるとは思ってなかった。

むしろ、単身で行くあいつの身を案じていたし。


思えば僕もサウロの本気を知らないんだよな。

師匠であり、僕の保護者や兄気取りだったサウロ。怠け者で、めんどくさがってばっか、口は悪いし、よく部下にちょっかいを出してからかったり悪戯して楽しそうに笑ってる、それも本当の姿だ。

でも、ブルガード王国での事をやってのけたのもサウロだ。


それだけの理由があったけれど、それが出来てしまう男だった。

これが戦争だったなら英雄だっただろう。でも今のところブルガード王国は友好国となっている。

これもエディスと結婚したら、僕が背負っていかなきゃいけない問題だ。ブルガード王国との関係が今のままでいい訳がない。

この国の方が力があるのに、随分と軽んじられてしまっている背景にあるのは内部の脆弱化だ。

やる時は完膚なきまで叩き潰せ、ですよね父上。

戦争になるかな……………。


ソファに寝そべりながら目を閉じる。


まずは先の事より、目の前の事からだ。


大切な人を突然奪われた憤りと悲しみ。

あいつも復讐したいとか思うのかね……………。


その時、ノックもなしにドアがガチャっと開いた。


しまった。鍵かけとけば良かった。


そう思い、身を起こすとそこには見慣れた顔があった。


「………どうした?今日は生徒会はないよ」


そこにいたナイルとティーエへと声をかける。


「知ってるよ、けどコイツが会長が心配だって言うからさ」


ナイルはチラッとティーエに目をやった。


「ふ〜ん。いつの間にかすっかり仲良いよね、2人」


ティーエも初めは反発してたのに、まさかこんなに仲良くなるとは思わなかった。ナイルも当たり前のごとく日々の世話焼き係になってるし。


「会長、大丈夫ですか!?会長とは関係ないのに好き勝手噂されて酷いです!」


ティーエが心配そうに覗き込んできた。

無意識の上目遣いが可愛いい。

大きな目がじっと僕を見つめている。


まだ、お姉さんの手がかり毎日探してるんだよな。

例えもう生きていなくたって、見つけてあげたいよな。連れて帰りたいよな。

お姉さんもここは寂しいだろう。ティーエと一緒に帰りたいよな。


「おーい、何見つめ合ってんだ?」


ナイルがわざとらしく顔の前に手をかざし妨害してきた。

そのナイルの手を掴む。


「うおっ、何だよ」

「お前はどこまで巻き込まれてやるつもりだ?危険があっても最後までつきあってやんのか?」

「麻薬がらみだからってことか?そりゃあ危ないとは思うけど、コイツ1人でやらせる方が見てられないだろ。俺が守りながらやってくしかないとは思ってるよ」

「覚悟は決まってんのか?」

「覚悟って…………そんな大袈裟なもんはないけど、俺に何かあったって自分で決めた事だ。コイツを責めるような事はない、そのくらいなもんだよ」


それを覚悟とも言うんじゃないのかい。

全く、いいペアになったもんだな。


「先輩、クズっぽいのに泣かせてきますよね。でも、もうクズなんて言っちゃいけないのかもしれない。こんなに力になってもらっても、僕には返せるものが何もないんだから」


瞳を潤ませながらティーエはナイルを見る。


うんうん、いい師弟愛だ。すっかり打ち解けたな。

よし、決めた。僕が何があっても守りぬいてやる。


「2人共、これから話す事は他言無用だ。ティーエのお姉さんに関連する事だからお前らを信用して話す」


その言葉を聞いたとたん、ティーエが詰め寄ってきた。


「姉の………?姉の何が事分かったんですか!?」

「落ち着け。はっきり分かった訳じゃない。お前らには話してなかったんだけど、実はカトリーヌちゃんは今世の聖女なんだ。これ内緒ね。僕はよく彼女と話をするんだけど、たまにたまにみせる能力の1つに予知夢がある」

「聖女?」


ティーエがポカンと口を開ける。ナイルも一時ちょっかいを出してたカトリーヌが聖女だと聞かされて、ビックリした顔をしていた。


「シルビア、カトリーヌちゃんとそんな仲良くなかったろ?」


ナイルが不思議そうに聞いてきた。


「そう見せかけといて実は親友。まぁ、それはおいおい話すよ。そのカトリーヌちゃんが新たな予知夢を見たんだ。断片的なんだけど、この学園と、麻薬の花畑、そして地下への扉、まぁ他にもちょこちょこあるんだけど、お姉さんへの手がかりになりそうだろ?」


手がかりどころか、それが結果に繋がるんだけどね。

ティーエにお姉さんを見つけさせてあげたい、そう思うよ。


「本当かよ?断片的な夢ねぇ」


ナイルは疑わしい顔だ。けどティーエは真剣な顔でギュッと手を握ってきた。


「やります!僕何でもやります!」

「分かった分かった。それで、まずするべき事は地下の麻薬の花畑を見つける為に、その地下へと通じる扉を探す事だ」

「分かりました!今すぐ探しましょう!」

「ちょい待て!!」


今すぐに走り出そうとしたティーエの手を慌てて掴む。


「これは学園ぐるみの出来事だ。学園長に怪しまれないように動きたい。今は僕の仲間のエディスとルオーク、カトリーヌちゃんの3人で校舎北側を探してる」

「じゃあ、僕らも合流しましょう!」

「待てってば。合流してわいわいやるつもり?場所も違う所探して効率よくいきたいし、あいつらが終わったら計画を立てよう」


意気込みで突っ走りそうなティーエが今更ながら心配で仕方ない。


大丈夫かな、こいつ。もう面倒はお前に任せた。


そうゆう視線をナイルに送ると、察したナイルはハァと息をついた。


「王太子に何させてんだよ。でも、それだけその情報は確かって事なんだろ。学園がらみねえ、危険極まりねぇな」


ナイルはティーエを見て、更にため息をついた。


「仕方ない、コイツは任されてやるよ。じゃあ、とりあえず待つか。計画を立てるんだろ」


ナイルは生徒会室のソファにドカッと座った。そして、ティーエに座れというように、自分の隣りを示す。

それにティーエは黙って従い、ナイルの隣りに座った。


いつの間にかこんなに懐いて。もはや誰の弟子だか分かりゃしない。まあ、面倒全然みてやってなかったけどさ。


とりあえず駒は揃った。

チームカトリーヌには入れてあげられないけど、学園の闇はこのメンバーで暴く!





その頃、カトリーヌ、エディス、ルオークの3人は校舎北側で地道に探索を続けていた。



カトリーヌは鉄の棒を地に突きさしぐりぐりと押し込みながら下に何もない事を確認し、棒を引き抜くと、穴の空いた地面を足でならしていく。


始めは大した事ないと思ってたけど、何回もやってくと結構重労働だ。特に棒を地面に押し込む時の力が入らなくなってきた。


お喋りをしながら作業をしている2人を見ると、さすが男子、余裕で鉄の棒を突き刺して引っこ抜いたりしている。


「けど今日はいろいろあったよな。昼過ぎには赤髪の一報に大騒ぎだし。単に面白半分で騒ぎたかったんだろうけど、うっさいよな。でも本当あいつすげーや、どんだけ強いんだよってとこに俺は驚いたけどな」


ルオークは話しながらもズボッと棒を地に突き刺す。


「1人でやってのけたってのがね。昔から才覚あるとは思ってたけど、飛び抜けてたね。それがこんな形でそれが表になったのは残念だ。今は犯罪人になってしまったけど、僕はブルガード王国との関係をいつか崩すよ」

「戦争って事か?マジか。確かにいつかはあいつら叩かなきゃいけないだろうけど、そうだよな………」

「その為にはもっと力をつけていかないとな。僕自身もこの王国も。ルオークにも期待してるよ」


エディスに笑いかけられ、ルオークもまんざらでもなさそうに笑った。


「俺も気を引き締めていかないとな。支えてやるつもりが、足手まといにはなりたくねーからな」

「頼もしいよ」

「それはそうと…………、まさかシルビアと付き合うなんてな」


ルオークの言葉に、思わず作業の手が止まった。


私もいるんだけど、恋バナ始めちゃうの?


「僕も最初は夢かと思ったよ。都合のいい夢なんじゃないかって。シルビアが僕に絆されてくれるなんて思わなかった」

「人に気を使って生きてきたくなんかない、とか言ってなかったっけ、あいつ。正直、あいつが王太子妃になった姿想像出来ないんだけど」

「あはは、実は僕もだよ」

「そうだよな、あのシルビアだもんな。んで、実際のとこどうよ?」

「どうって?あっ、下何かあった」

「周りも探ってみろよ。婚約中含めて、お前らずっと友達だっただろ。それがそうゆう関係になったからって、あのシルビア相手に進展はあんのかなって。ぶっちゃけ、そうゆう気になるか?」

「これ石だな、周りは棒通るし。そうゆう気になるかって、そりゃなるに決まってるでしょう。好きな人相手に反応しなきゃ、男として異常だよ」

「だよな。でも、あのシルビアとってのが想像つかねぇわ」

「むしろ想像してほしくないんだけど。すっごい可愛いのは僕だけ知ってればいいから」

「可愛いシルビアなんて想像つかねーよ。想像したくもねーし。あー、聞かなきゃ良かった」


ルオークは額の汗を拭う。


「ははっ、顔に泥ついたよ。…………婚約も破棄になって諦めかけたけど、でも出来なくて、自分を曝け出して受け入れてもらって。今はこんなに幸せでいいのかってくらい幸せだよ」


そう言って笑った顔は本当にとても幸せそうで、もし私と結ばれていたらこんな顔をさせてあげられたのかなとぼんやり思った。


「うわ〜友人ののろけってゾワゾワすんわ。バレたからって俺の前でそうゆう雰囲気出さないでくれよ」

「シルビアが可愛いすぎたら、難しいな。見ないふりしてくれ」

「いや、見たくねぇつーの。友人達のってホント無理。何?お前らもう手を繋いだりもう恋人っぽい事してんの?」


そのルオークの問いに、エディスは無言になった後、何も語らずにただニッコリと笑った。


「あー………分かった分かった。俺も聞きたくねぇから、了解」


そんな2人のやり取りを、ひたすら黙々と作業をしながらカトリーヌは聞いていた。


2人ともすっかり私の存在忘れてんじゃないの?

恋バナで盛り上がっちゃって。

そんで、シルビアとどこまでいってんのよ?気になるじゃない、ルオークも止めないで聞き出してよ。

あのシルビアとよ。だいたい、あの2人ってどんな雰囲気でそんな事なるわけ?思えばキスはしてたわね。


私は前世もだけど、今も誰とも付き合った事がない。

シルビアは前世があの高倉先輩な訳だから、きっと経験豊富で性別が違えどサッと手が出せちゃうんだわ。

中身アラサーだよ、と言われはしたものの、経験ないんだから身構えちゃうのも仕方ないじゃない。


そんな事を考えてると、ふと視線を感じ、前を見るとエディスの視線とぶつかった。


「大丈夫、カトリーヌにも幸せをお裾分けするから。好みのいい男連れてくるからね」


ニッコリといい笑顔で微笑まれ、その内容に顔が熱を持ったように熱くなった。


読んだ!?心読んだ!?そんな顔してた!?

これって欲求不満ってやつ!?


ちょっ、ニコニコ笑って人の事見ないで〜!私そんな欲求不満女じゃないから!ちょっと羨ましいと思っただけだから!

それにいい男って、顔だけで選ぶ女じゃないですからね!

ルオークはすっごい複雑そうな顔で見てくるし。


あーもうっ!!居た堪れない!!

これもあれも全部会長のせいなんだから〜!!

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