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後悔と反省

時間が経つと共に段々と冷静になってきた。


視点を変えてみると、違う考え方も出てくる。

僕はシルビアである事に慣れ過ぎていた。その考え方も、以前の僕とは違う。シルビアとしての考え方だ。


当たり前になってしまっていたけれど、今更ながらシルビア・アルビシスは超人であるという事を思い出した。




授業が全て終わった後、教室のカトリーヌの元を訪ねた。


「えっ………いない?」

「は、はい。お昼の休憩時間が終わっても戻ってきてないようです」

「そうなんだ。ありがとね」


尋ねた女子生徒へと礼を言い、その場を離れた。


ということは、一緒にお昼を食べたあの後、教室には戻らなかったって事か……………。


苛立ちのままに怒鳴りつけてしまったからな。凄く泣いていたし、すぐに教室には戻れなかったのかもしれない。


まるでカトリーヌが助けられる命を見捨てたように思えて腹が立ってカッとなってしまった。

けど、状況を高倉 綾人で考えてみたら、少し考え方も変わった。


何の力も持たない普通の人。あの時の僕のままこの世界に来ていたら、物語のストーリーを知っていたとしてもはたして動けただろうか。

あの頃は、自分に出来る事と出来ない事がはっきりと分かっていた。手を伸ばせるのはせいぜい自分と関わるものくらい。

大きなものを変えられる力なんてないのくらい、当然のように分かっていた。

その僕に、例えば怪しい宗教団体組織を1人でどうにかしろと言われても、きっと何も出来なかっただろう。

人が亡くなったり、家族ぐるみで不幸になっているような話を聞いても、どこか遠い他人事のように、テレビの前でニュースを聞いてるような感覚かもしれない。

親族が巻き込まれたとしても、嘆いて泣き寝入りしか出来ない。

それが力がない者の姿だ。


聖女にどれくらいの力があるかは分からない。

でも、記憶を持っていても、カトリーヌちゃんは平民で昔はまだ力にも目覚めてなくて何の力もなかった。


それにあの性格なら、自ら活路を開くってのもなさそうだし。人それぞれだもんな、誰もが同じではない。分かってはいたんだけど、分かってなかった。もう忘れていた。


不甲斐なくて、ため息が出た。


「シルビア?」


そんな僕へと声がかかる。

振り返って見ると、エディスとルオークがそこにはいた。


「1学年の教室に来るなんて珍しいな。俺らに用か?」


ルオークが聞いてくるが、それには首を横に振る。


「違う………。なあ、僕って傲慢かな?」

「どうしたんだよ、急に。傲慢かって聞かれればそりゃ傲慢ではあるよな。お前は俺らが何言ったって全部自分のやりたいように力技でやってくだろ」


なあ、とルオークがエディスに話題を振ると、エディスも迷いなく頷いた。


「そうだよな、こんな自分に慣れて慢心とも傲慢ともいえるような態度だったよな。ここに来たばかりの時はこんなんじゃなかったのに、普通の感覚を持ってたのに」


シルビアとして過ごしていく中で、初めは驚いた事も次第に当たり前になってしまった。

公爵家の財力や権力、父の力を受け継いだ身体能力に、莫大な魔力、それに騎士団の多くの騎士とも対等に渡り合って従え、そうゆう力を持った自分の状況が普通として定着するくらい僕はすっかりシルビアになってしまっていた。

綾人だった普通の感覚なんて、もう忘れていた。


「あー!!もう!!僕は馬鹿だ!!」


突如、大きな声を出した僕にエディスとルオークがビクッとする。


「ちょっと付いてきて」


2人の腕を掴むと、強引に引っ張って歩き出す。


「僕は自分の事、はるか高みの存在みたいな気持ちで天狗になってた。何でも出来ちゃうもんだから、下々の気持ちが分からなくなってたよ」


そうぼやくと、エディスとルオークの2人は顔を見合わせ、何を今更言ってんだというように苦笑した。


「お前ってそうゆう奴じゃん。もう個性だろ、我が道を突き進んできたろ。今更普通から外れてるとか何言ってんだよ」

「シルビアはそのままでいいよ、皆んな分かってるから。自信の塊みたいな感じで、何を言われても揺らがない。むしろここまできたら、そうゆう強さを持った別格として、どこまでも生きていってほしい」


2人にそう言われ、僕は掴んでいた2人の腕を離した。

そして、2人をじっと見る。


「………何だよ、2人共僕のこと大好きじゃん。照れるなぁ。僕の事を分かって理解して、そのままでいいって、さすが長年一緒にいただけある。普通なら嫉妬したり、完璧な僕と比べて自分を卑下しそうなとこを、お前らはいい奴らだよ」


こんな僕でいいと、長年一緒にいてくれた2人。

エディスなんか、そんな僕に恋してるし。


「まあ、性格に難ありだから完璧ではないよな。完璧じゃないから、面白いってのもあるけど。今だって訳も分からずどっかに連れてかれようとしてるし、その思い立ったらすぐ行動するとこ、俺らは慣れてるけど、一応人を巻き込んで迷惑かけてる自覚はあんのか?」


ルオークに聞かれて、思わずキョトンとした。


「えっ?迷惑かけてる?」

「おい〜、自覚なしかよ。俺らが毎回喜んでお前のやる事に巻き込まれてると思ってんのか?」

「う、うん………」


とりあえずそう思ってたので素直に頷く。

あからさまにルオークは不満顔になった。


「だって嫌がる素振りもないし、気心知れた友人で幼馴染でしょ?それに小さい頃からの付き合いで、もう親分子分みたいな関係じゃない?」

「子分〜?」

「だって僕精神年齢だいぶ上よ。ぴーぴー泣く子供の頃から、時には保護者のように、友人であり、姉のように過ごしてきたらもう親分でいいでしょ」

「悪びれねーな。本当自分中心な奴だよ、お前って」


ルオークの言葉に、エディスまでがうんうんと頷いている。


「シルビアが自分中心、自分大好きなのはもういいとして、それで傲慢だとかって今回は何があったの?」


エディスに言われハッとした。


「そうだ、2人にカトリーヌちゃん探しを手伝ってほしいんだ」

「また唐突だね」

「詳しくは言えないんだけど、カッとなって怒鳴っちゃって。カトリーヌちゃんにも非が全くないって訳じゃないんだけどさ」


すると、ルオークがムッとしながら口を出してきた。


「怒鳴ったってお前何してんだよ?酷い奴だな、絶対怖かったぞ。あんなか弱そうな女の子に………」

「うっさい!僕だってか弱い女の子だぞ。じゃあ、僕はまず女子寮探すから2人は学園内と外とを探してくれ」

「お前は自分の都合だけ言って〜。あ〜本当自分勝手な奴」

「それを認めるってさっき言ったくせに。後で事情もちょこっと話してあげるからさ〜」


行け、というようにルオークの背を力強くぐいぐいと押すと、ルオークは睨みながらも〝外見てくる〟と歩きだした。


「あっ見つけたら魔法を一発打ち上げてねー!」


ルオークの背後へと声をかけると、ルオークは振り返り、ひと睨みしてからまた歩いていった。


「あーあ、シルビアはすっかり僕らの事子分扱いして」


拗ねたような口調でエディスが呟く。


ん?と思って見ると、だいぶ不満気な顔をしている。

いつもは素直に頼みを聞いてくれるのに。

まぁ、心当たりはあるけど。

カトリーヌちゃんにキスを目撃させた日から、彼女の方につきっきりで放置してたので、拗ねてるんだろう。

全く、子供だなぁ。


シルビアはグイグイとエディスを引っ張ると、人気のない廊下へと連れていく。


よし、人の気配はない。


シルビアは、エディスへとチュッとキスをした。


「ごめんね、寂しい思いさせちゃったかな」


そう言いながらエディスを抱きしめ、子供にやるように優しく背中をポンポンとした。


「…………子供扱いして」


ぼやきながらも、エディスも手を回し僕を抱きしめた。


「シルビアは何かに夢中になると、そればっかりになるんだから。どうせ僕の事なんて忘れてたんだろ」


抱きしめる腕の力と、耳元での少し低い声に、ゾクっとした。


「その………凄い事が起きたんだ。だから、つい………」

「ついで忘れちゃうなんて酷いな。僕はいつもシルビアの事考えてるのに」


耳元の声にゾクゾクして、何だか体の力が抜けていく。


こんな事してる場合じゃないのに、マズいな。


「好きだよ、シルビア」


エディスは僕の肩に顔を埋めながら、首筋に口づけてきた。


特大のゾワゾワと共に、変な声が出そうになったが、唇を固く閉じそれを堪える。


マズい、甘い空気醸し出してきて流されそうだ。これはマズい。


流されたくもあったけど、今はその時ではない。


エディスの肩を掴み、ゆっくりと押し返す。


「ごめん。カトリーヌちゃんが見つかったら説明するから」


それだけ言うと、再びエディスのペースに飲まれないように、超身体強化で消えるようにその場から去った。



甘々なのは嫌いじゃないけど、タイミングが悪かった。

エディスまた拗ねてなければいいけど。


その勢いで、誰の目にも留まらずに女子寮のカトリーヌの部屋の前まで行った。


だが、ノックをしても返事もないし、人物感知の魔法を使っても誰もいないようだった。


部屋にいないとなると、一体どこにいるんだろう。

あれからどこかでずっと泣いてるなんて事ないよね………。


外へ出て、飛行の魔法で学園の上空へと浮かび上がる。


見える範囲ではカトリーヌの姿はなかった。

となると、建物の中か、外の木々に隠れて見えないかだ。


無駄に広いから、探す範囲が広過ぎる。


エディスとルオークの協力があっても、見つけられるかどうか。


上空から下を見下ろしながら、どこから探そうかと考えていると、ふっと思いだした。


麻薬の花畑の話。校舎の北側とか言ってたな。

行ってみるか。


上空を飛行し、北側の方につくと急降下し下に降りる。


勢いが消しきれなくて、着地と共にズドンと大きな音がし、地面にはビキビキとヒビが入った。


いてて、衝撃で足が痛い。でもすぐ治るけど。


そんな僕の視界に映ったのは、ちょっと離れた所で驚き立ち上がって唖然としているカトリーヌの姿だった。


「いたー!!」


指をさして大声を出すと、カトリーヌがビクッとする。


「良かったー、教室行ったら昼から戻ってないって聞いて心配したんだよ!」


近づいていくと、カトリーヌは警戒するように体を強ばらせた。


すっかり怖がられちゃったな。


泣いてたのか、頬は涙の跡がいくつもあり、手は土まみれだった。


「ごめん、怒りすぎた。カトリーヌちゃんの事なんて考えずに、自分の感覚でものを言ってた。皆んなが僕と同じ超人な訳でもないのに、当たり前になってて普通を忘れてた」

「会長……………」


そうだ。あいつらにも見つかったと知らせといてやらないとな。


ピンと人差し指を上に上げると、火花が花火のように飛び散る。


薄暗くなり始めた冬の空に、鮮やかに浮かび上がった花火はとても綺麗だった。


「うわー、この世界に花火ってないけど流行らしたら一儲け出来そうじゃない?そうなると、これも特許必要だな」


だが、カトリーヌの返事はない。

おっと、そんな雰囲気じゃないだろう。話題を戻さないと。


「カトリーヌちゃんに全く非がなかった訳ではないけど、僕が同じ立場だったとしたら動けたか考えてみたら確かに難しいと思った。言い過ぎたよ、ごめん。ところでカトリーヌちゃんはここで何をしてたんだ?」


すると、唇をキツく噛み堪えるようにしていたカトリーヌの瞳からポロポロと涙が溢れだした。


「えっ今のキツかった?」

「違うんです…………。私、会長に言われるまで、この世界について真剣に考えてなくて…………」

「あ、そっち」

「カトリーヌとして毎日を生きてくのに精一杯で、聖女なんて力もなくて同じような日々を過ごしてても私に出来る事なんて何もなくて…………。聖女だと分かってからも、これから先学園に入学して上手くやってけるか、そればっかで、私は他の事に目をやる余裕なんかなくて自分の事だけでいっぱいいっぱいで……」

「うん、そうか………」

「だから、この世界なんて大きなものを考える事もなくて、ストーリーも決められた物語の道筋のように、私とは別の大きな流れのように思ってて………」


ギュッと瞑ったカトリーヌの瞳の端から涙が伝う。


「会長に言われるまで私には関係のない事と思ってました……。救える可能性なんて考えた事もなくて、会長の私を見る目に怖くなって逃げだしました」

「頭に血が昇って、ごめん」

「いいんです…………。私……最低なんですかね。でも、今更もうどうしていいのか……………」


涙を流すカトリーヌを見ながら、すぐに言葉は出なかった。


まるで他人事のニュースでも話すかのように、現実感のなかったカトリーヌに、無力だったとしてもそれを後悔するなり少しは気にやんでいてほしかったとあの時思った。


でも、そうなった今も、だから何かが変わる訳ではない。僕がそう思った事も、今更気にやむカトリーヌも自己満足だ。過去はもう変えられない。


「この事は僕らだけで、ずっと覚えていこう。これから先は今出来る事をやってくんだ」


転生だ、物語だなんて、僕ら以外には誰にも分からない。

救えたかもしれなくても、もう過ぎた過去だ。


カトリーヌの土にまみれた手を見る。


「入り口を探してたの?」


その問いに、涙を溢しながらコクコクとカトリーヌは頷いた。


「ずっと探してて………でも全然見つからなくて……」


林の続くその地面には、カトリーヌが探った跡が無数に残されていた。


「この場所かどうかも分からないし、もうどうすればいいか………」

「いや、この方法でいいよ。地道に探していこう」


大々的に探すと、学園長に気づかれてしまう。


「早く証拠を見つけて、これ以上の被害を防ごう」


償う方法があるとするなら、これからの未来しかない。


何度も頷くカトリーヌに声をかけようとした時だ。


「あーっ!お前何泣かせてんだよ!?」


大きな声がした。


ん〜?この声はルオークだな。


声の方を振り返ると、その後からやってくるエディスの姿も見えた。

2人の姿を見つけ、カトリーヌは慌てて瞳に溜まった涙を拭う。


よし、これでサポートメンバーが揃ったな。


「おいっ、何言ったんだ!?」


側に来てうるさくルオークがわめく。


「うっさいな、ルオークが考えてるような事じゃないから」


エディスも到着し、揃った3人をそれぞれ見た。


「よし、このメンバーで共有したい報告がある。なんとカトリーヌちゃんも前世の記憶もちであり、過去の僕を知っていたという顔見知りだった事が判明した」


突然の報告に3人は誰も何も言わず無言になった。

だが、その表情は戸惑いと驚きを隠せないものだった。


「驚いただろ〜」


得意げなシルビアへと、すぐさまカトリーヌが詰め寄る。


「ちょ、ちょっと何言ってんですか!?普通言います!?頭おかしいって思われますよ!」

「あー大丈夫。こいつらにはもう話してあるから。幼少期から2人とも知ってんの。どこまで信じてるかは分からないけど、誰かに吹聴する事もなく、こうして何年も一緒にいる彼らを僕は信頼してるんだ」


ね〜とエディスとルオークを見るが、2人は戸惑い顔でカトリーヌを見ていて、カトリーヌはというと唖然とした顔で僕を見ていた。


「信じられない。言ったんですか?こんな夢みたいな話を?」

「だって夢だと思ってたから。出会ったその日にエディスに言ったな〜。めっちゃ不審がられてた、懐かし〜。そのエディスがルオークに漏らしてさ、馬鹿にされたから泣かしてやった記憶がある。ルオーク子供の頃は生意気なんだけど、打たれ弱くてすぐ泣いちゃう奴でさ〜」


だが、そんな僕は放置して、カトリーヌはエディスとルオークを見た。


「お2人はそれを受け入れたんですか?生まれ変わりだなんて信じられないでしょう、普通は」


その言葉に、2人は顔を見合わせ、それから苦笑いした。


「僕らも最初から信じていた訳じゃないけど、頭がおかしい風でもなく、でも接してくうちに子供らしからぬ考え方や、覚悟を持ち合わせたシルビアに、前の記憶に引きずられてるんじゃないかとか心配したりしながら、自然と受け入れてたよ」

「そうそう、シルビア見てるとそうゆう事もあるだなって思えてきたし。これだけ人間が沢山いるんだから1人くらい前の記憶を持ってたっておかしくないって」


エディスとルオークの言葉に、カトリーヌは信じられないといった顔をする。

そんなカトリーヌへと肩を組むように、肩に手をやるとカトリーヌはビクッとして僕を見た。


「まっ積み上げてきた僕の人徳ってやつかな」


それからカトリーヌの耳に口を近づけてコソッと話す。


「ゲームの世界ってのは秘密ね。前世が共通なとこだけ話すよ」


コソコソ話をしていると、ルオークが滅茶苦茶睨んできた。


「なあ、シルビア、ちょっと距離近くねーか?」

「んん?同性なんだけど僕。何だ、嫉妬してんのかい?まぁ、この際ハッキリ言っとくわ。カトリーヌちゃんの婿は僕が責任を持って見つけるから。お前にはやらん!」


キッパリと言い切った僕を、ギョッとしてカトリーヌとルオークが見てきたが想定内だ。


「これからこの事情を知るメンバーを中心に、チームカトリーヌを結成する!」


さあ、ここからが反撃のスタートだ!!

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