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交流会

この世界に来て六ヶ月が過ぎた。

大きな変化はない。

毎日、順調に日々が過ぎていっていた。



「はぁーあ…………………」


大きなため息をつき、テーブルに肘をついた。

さすがにもうそろそろじゃないか?

もう目覚めたっていいのに。

それとも何ヶ月もたってるようで、実は数日の事だったりするのか?


「何だよ、わざとらしくため息なんかついて」


ルオークがムッとしながら言った。

お陰で今日も月一のお守りの交流会出席だ。


「いろいろあるんだよ、子供には分からない悩みが」

「何だよ、自分だって子供のくせに!」

「見た目は子供でも中身は青年なんですー」

「でも子供じゃん!」


精神論を言っても、証明するものもないし、確実なのはどう見ても子供だという事実。ルオークの言い分も正論だ。


「まぁまぁ、せっかく用意してもらったから食べようよ」


エディスがお皿を渡してくる。

その先のテーブルにはケーキやらフルーツやら、沢山のスイーツ達が用意されていた。


この体になってから、甘い物が美味しくて仕方がない。

何個もペロリと食べれてしまうので、エディスも気を利かせて沢山用意してくれたのだろう。


「………エディス君、改まって君に言いたい事がある」

「えっ、な、何?怖いんだけど」

「ケーキに罪はない。食べながら話そう」


ささっと好みのケーキを三個皿に取った。


「あっ、ルオーク紅茶入れてくれる?」

「何で俺が?自分で入れろよ」

「モテない。お前は絶対にモテない。こうゆうのさらりとできる男がモテるのに」


言いながら、自分でティーポットにお湯を注ぎ入れる。

会話をあまり聞かれたくないので、メイドや従者も誰もいないのだ。前世だの何だの話してたら、恰好の噂の的になってしまうからだ。


「手伝うよ。二人共砂糖はいくついれる?」


流石のエディス。手伝う仕草も違和感なく板についている。


「俺は三つ!」

「僕はケーキが甘いからいらないや」


いつの間か、エディスが紅茶を注いでくれカップをテーブルに置いてくれた。


「それで話って?何だかドキドキするな……」

「実は最近公爵領の市場を見に何回か出かけてるんだ」

「そうなんだ」

「父上が心配して護衛を沢山つけるから、街の人達にも認知されてきちゃってるよ」


前後に一人づつ、右に四人、左に四人と完全に取り囲まれた形で護衛されているので非常に目立つのだ。お忍びどころではない。

また来た、と街の人達もザワザワしている。


「まあ、それはいいとして。目的は市場価格調査だ」

「そんなん調べてどうすんだ?」


ケーキを頬張りながらルオークが聞いてくる。


「二人共!この生活が当たり前と思ってるだろうけど、こんなのは一部の人だけ!むしろ数的には圧倒的にイレギュラーだ!」

「え…………?」

「はいそこ、平民の買うパンの価格知ってますか?」


ビシッとエディスを指差す。

エディスはビクッとした。


「パン………」

「俺らが知るわけないだろ!」

「知らなくていいと思ってるのか!?」


シルビアはバンとテーブルに手を叩き、立ち上がった。


「パンは小さいので一個10ルピだ。ちなみに三十人に聞き取り調査をした一月にかかる食費はいくらだと思う?」

「え?えっ………ええと……」

「だいたい8000〜12000ルピだった。一家庭でだ」

「う、うん。そうなんだ」

「どうゆう事なのか分かってないだろう?」

「えー……えーと………」


エディスは困ったようにルオークを見た。

だが、ルオークもさっぱりといった顔だ。


「ちなみに我が家、公爵家の食費は1000万ルピだ」

「えぇ……!?そんなに違うんだ………」

「金額にしてみると問題が浮き彫りになるだろ」


シルビアはストンと椅子に座る。


「僕が調査したのは、つつましく生活してる人達だったから、地区によっては中流でもっと食費も上がるだろうけど、それでも貴族、王族の食事にかけるお金に比べたら微々たるものだ」

「何が言いたいんだ?金額違うのはあいつらが平民だからだろ」


ルオークの言葉に、シルビアは大きく息をつく。


「でたよ……。無意識からの差別発言。ちょっとガッカリ」

「な……何だよっ!!」

「あ、嘘嘘。ごめん、言ってみただけ」


子供はすぐ目を潤ませる。傷つきやすいんだから全く。


「お前すぐ目が冷たくなる!いつもビクッとすんだけど!」

「ごめんごめん。無意識だから許して」

「なお酷いじゃん!許せるか!」

「まあ、それはいいとしてさっきの続きいきますよ〜。はい、皆んなついてきて。問題は先程のルオーク君の発言にもありましたように、育ってきた環境が違う事による意識の差です」

「はあ?」


心底分からん、という顔でルオークは顔をしかめた。


「うんうん。ルオーク君、エディス君が悪いんじゃありませんよ。知らないものは知らないんです。貴族や王族に生まれたらそれが当たり前の君達の生活ですよね〜」

「何だその喋り方?」

「先生気分なんです。平民は平民の生まれでそれが当たり前ですよね〜」

「何か腹たつな」

「ちなみに、先生の前世は平民でしたよ〜。100ルピを持って、悩みに悩んでオヤツを選ぶ子供時代を過ごしてました」


だが、二人は困った顔で無言になる。


「はい、分かってない顔頂きました〜。まず100ルピの価値も分かってないし、我慢せず何でも手に入るから、どんな状況かも分からないですよね〜」

「ご、ごめんね。どんな状況?」

「金のない子が安い菓子買うのに、幸せ感じながらドキドキわくわくしてどれにしようと迷ってる状況です」

「……せ、切ないね……」

「切なくなんかない、幸せいっぱいでした。エディス君にとっては不憫な状況でも、そうゆう暮らしをしてる人にとってはたまに買うオヤツも大変楽しみだという価値観の違いの話でした」


二人を見ると、何とも言えない表情をしている。


「つまり、俺達にも平民みたいにしろって?」


ルオークは不満そうに言った。


「そうゆう事じゃないんだ。この問題は本当難しいんだよ。僕がこの話をしたからといって、今後君達の生活が変わる訳じゃない。何も変わらないだろうね」


それぞれが、その環境に相応しく生きていくだけだ。


「でも知っていてほしいんだ。自分達の暮らし以外の生き方もあるんだって事を。それがどんなものかを」


二人へとニッコリと笑いかけた。


「それを踏まえた上で、豪華な暮らしを堪能していってくれ。はい、説教くさくなりましたが、以上でシルビア先生の講義はお終いです」


ペコっと頭を下げてから、二人を見ると苦笑いしている。


「終わりって言われても、な〜んかスッキリしないよな」

「うん………」

「まあまあ、美味しいものでも食べて元気だそう」


シルビアはフォークに刺したケーキをパクッと口に入れた。


「ん〜美味しっ!トロけるクリームと甘さも絶妙だな」


男の時は、甘いの好きじゃなかったんだけどな。

一口食べればこの幸せ気分。嫌いじゃないな。


「こんな変な空気にしといて、自分だけ幸せそうな顔しちゃっさー」

「じゃあ、も一つついでに。このケーキ類もさ、いくら好きとは言ってもせいぜいカット六個が限度だよ。ホール十個にフルーツに焼菓子にって残りどーするのこれ?」

「あーもう、うるせ〜な」

「こんな勿体ない食べ方、平民はしないよ。一人一個だよ。金を捨てるようなもんだよね」

「あーうるさいうるさい!食べる気失くす」

「ごめんごめん、ワザとだから」

「おい!」

「あはは、ほら、エディスも死ぬ気で食べて」


ホールケーキの乗った皿をエディスの前に置いた。


「えっ………これ全部?」

「男ならいける。廃棄する事を考えたら、食べれるだけ食べないと勿体ないよ」

「えー…………」


無言になり、エディスはケーキを見つめた。


「嘘だよ。冗談。流石に子供にホールは無理でしょう」


ホールケーキを元の場所に戻し、シルビアは振り返る。


「まあこれで今回の僕の目的は果たした。賽は投げられたって感じかな」

「どうゆう事………?」

「これから二人は沢山の食べきれない食事を見る時、少なからずこの事を思いだすだろう。シルビアが勿体ないとかうるさく言ってたっけ、てね」

「そうだね、思い出しそう」

「うんうん。それでいいんだ。事あるごとに僕の事を思い出してくれ」


それでいい。貴族、王族、彼らは彼らなりの生活があってそれが変わる事はないだろう。

でも、意識は変えられる。小さな気づきでいいから、この小さな未来ある子供達にそれを教えてあげたかったんだ。

平民じゃ、こんなこと絶対に上には言えないだろう。


「ホント僕先生みたいだな。シルビア先生と呼んでくれても構わないよ」

「はあ?調子のんなよ」

「のりますよ。のりのりですよ」


紅茶を一口飲んでからエディスを見てニコっと笑う。


「な、何?」

「エディス君、次の僕らの交流会はこの王都の城下町にて行いますよ。1000ルピでお昼を食べてお菓子のお土産を買うという社会勉強をしましょう」

「ええっ!?」

「なっ……勝手に決めんなよ!」


驚く二人をよそに、紅茶をもう一口飲んだ。


「おいっ!何くつろいでんだ!?聞いてんのか!?」

「落ち着くねぇ…………」


更に紅茶を飲み、一息つくと目を閉じた。

今日は朝早く起きて稽古をしていたから、少し眠くなってきたな。ケーキも美味しかったし、寝ちゃいそうだな。


「おぉい!無視か!?会うたび腹立つ奴になってくな!」

「そう怒るな、おちびちゃん」

「お……おちびぃー!?」

「じゃあそうゆう事でエディス君、日程の調節は君に任せるよ。選りすぐりの護衛も各自用意しておいてくれ」


だが、エディスは頷かず戸惑った顔だ。


「大丈夫!それっぽいところ下見しとくから。シルビア先生に任せておきなさい。それと何か言われたらシルビアにどうしてもって誘われたと言いなさい」


シルビアはゴソゴソと手紙を二通取りだし、二人に渡した。


「これを親御さんに渡しなさい」

「はあ?」

「はいでしょ、ルオーク君。これは、挨拶文と計画書みたいなものだから。君達にはついて来いでいいけど、親にはそうもいかないからしっかりした事書いといた」

「行くなんて言ってないんだけど」

「自分達だけの狭い世界で満足してちゃ駄目だよ。井の中の蛙大海を知らず……僕の世界でのことわざだ」

「はあ?意味分からん」

「まあ、怖がりのルオーク君はお留守番しててもいいんだよ。やった事ない事するのは怖いもんね〜。街に行くのも、1000ルピも何が買えるか知らないから不安なのかな〜?恥かきたくないとか思ってたりして〜」

「今日のお前………すんげー腹立つな」

「ははは、そう怒らないでくれ」


出会った時は、生意気な子供と思ったルオークにもすっかり慣れてきた。子供と接する機会がなかったから、最初こそ戸惑ってしまったが慣れて順応してきたようだ。


「ちょっと……父様に相談してみる。返事はそれからでいいかな?」


エディスは言った。


「いいよ。それで」


言いながら、シルビアはまたゴソゴソと取り出す。


「……何それ?ゴミ?」

「失礼な。今日はこれで遊ぼうと思って」


黒い紙と白い紙を切って作った、自家製オセロだ。

お守りも疲れてしまうので、これで遊んでてもらって自分はのんびりしようという作戦だ。


「簡単だよ。こうやって挟んで色を自分の側のに変えていくんだ」


紙に線を引いたマスの上に、紙オセロを並べて見本を見せてみた。


「へぇ……そんなに難しくなさそう」


エディスはそばに来て、紙のオセロをヒョイとつまむ。


「けど、よくこんなゴミみたいので王族を遊ばせようと思うな。お前んとこ金持ちなんだから、もっとどうにかできんだろ」


ルオークもペラペラの紙オセロを手に取り言った。


「またそれ?お金をかけず遊ぶ努力をする平民を馬鹿にして蔑んで、優越感ですか、ルオーク君?僕にできる最大限の努力をしたのに、こんなに馬鹿にされるなんて……」

「って、平民じゃないだろ!」

「まあ、これ作ってたら父上が憐れんで木彫りで職人に作らせてくれてるんだけど」

「だったらそっち持ってこいよ」

「作成中です。次持ってくるから、君達はこれで遊んでいたまえ」


本当はトランプも紙で作ってみたが、枚数も多いしまとめるとくしゃくしゃで、使い物にならなかった。


「僕の世界では、囲碁とか将棋とかいろんなボードゲームがあったんだけど、やった事なかったんだよね。あーあ、こんな事なると分かってたらやってたのに」

「よく分からないけど遊ぶもの?」


エディスが不思議そうに聞く。


「そうだよ。僕のいた時代は遊ぶものも多くて、選びきれないくらいだったんだ。昔は違かったけど、テレビゲーム、パソコンに携帯とどんどん新しい物が生みだされて……」

「うーん、パソコン……?聞いた事ない……」

「ここの世界って魔法があるから、科学とか医療って全然進んでないんだよね。僕の世界では魔法がないから、生活を便利にする為に様々なものを作りだしてきたんだ」

「魔法がないの!?じゃあ、どうやって生活してるの!?」


エディスが興味深々と瞳を輝かす。


「うっ…………。説明すると長くなるから、今度レポートにまとめるからそれ読んで、疑問点は質問してくれ」

「えーっ、話聞きたいのに」

「エディス、ここだけの話だけど実はね…………」

「うん」

「今すごーく眠いんだ」

「え………?」

「今日ここに来るから朝早起きして剣の稽古したし、もう今眠くって。少しボーッとさせて」

「俺ら放っといて寝るのか!?」


ルオークが突っかかってきた。


「うん。君らは僕の持ってきたオセロで遊んでてくれ」

「は……はぁ!?何だよそれ!」

「ルオークはよっぽど僕と遊びたかったんだね〜」

「はぁ!?べ、別に遊びたくないし!」


その時、扉がトントンと叩かれた。

シルビアとルオークは黙り、エディスを見る。


「入っていいよ」


その言葉に扉が開き、現れたのはメイドに連れられた小さな少年だった。


「ヨハン、どうしたんだ?」


エディスが声をかけると、少年はさっとメイドの後ろに隠れた。

誰だ?初めて見るけど………、あれ、でもこの感じ……。


チラチラとエディスと少年を見比べてみた。


「弟のヨハンだよ。知らなかった?」

「え!?弟いたの!?知らなかった………何回も来てるのに全く知らなかった」

「弟は体が弱いからね。公式の場にも出ないし、寝ている事が多いんだ」


エディスはヨハンの方へ歩いていく。


「朝熱が出たんだろう?寝てなきゃ駄目じゃないか」


するとヨハンはビクッとし、メイドの服をぎゅっと握った。

メイドは困ったようにエディスを見る。


「申し訳ございません。王太子殿下がご友人と会われていると聞いて寂しくなられてしまったようで………殿下に会いたいとせがまれまして」

「なら連絡だけしてくれればいいだろ」

「申し訳ございません」


メイドは神妙な面持ちで深く頭を下げる。


「兄様ごめんなさい。僕が無理を言って困らせたんだ。薬を飲まないって………」

「ヨハン、我が儘言ったら駄目だろう。戻ってベットで寝るんだ。後で行ってあげるから」


エディスは優しく笑いかけ、ヨハンの肩に手をおいた。

ヨハンはしょんぼりとしながら、小さく頷いた。


「弟君はいくつかな?」


そこへシルビアがヒョイと顔を覗かせた。

ヨハンはビクッとし、またメイドの後ろに隠れた。


「4歳だよ」


代わりにエディスが答えた。

エディスとは二歳差、シルビアとは三歳差か。

またもやちびっ子が増えてしまったか。


「一緒に遊びたかったのかな?」


メイドの後ろに回ると、ヨハンはまたビクッとして、今度はエディスに駆け寄り後ろに隠れた。


「ええっ?怖くないよ、そんな逃げなくたって……」

「シルビア、ヨハンは一緒に遊べないよ。無理しちゃ駄目なんだ」

「分かってるよ。でも一人で寂しかったんだろ?」


シルビアは少し身を屈め、ヨハンを覗きこむ。

ヨハンは無言で小さく頷いた。


「じゃあ、ここにいればいい。どこで寝たって同じだろ、ここに布団持ってきてもらえばいいよ」


ニッコリと笑ったシルビアに対して、エディスは呆れ顔だ。


「……何言ってるの?寝るってここで?」

「そう床で」

「は?」

「僕の世界では、床に布団ひいて寝てたんだよ。ここではベットだから持ち運び出来ないけど布団持ってくればいいんじゃない?」

「床って…………。それはないんじゃないかな」

「う〜ん、文化が違うと難しいのか………。妹が病気の時も、寂しいから居間に布団持ってきて寝てたりしたんだけど。まあ、部屋の規模はちょっと違うけどね」


2LDKのアパートの部屋全部、この部屋にすっぽりと収まってしまう広さだ。


「それに土足だし、そこも問題か。木の板でもひいて、そこに布団持ってくる?」

「ええと……シルビア、ここで寝るっていうのは………」

「どこで寝たっていいじゃないか」

「だからって………」

「今熱も引いたんでしょ?一人で寝てるだけなんてつまんない

よね〜」


シルビアはニコッと笑いヨハンを見る。


「う、うん。僕ここにいたい」


コクコクとヨハンは何度も頷いた。


「よーし、決定!エディスもそれでいいよね?」

「よくないんだけど」

「よし。了承も得られた事だし。あ、そうだ…」


シルビアはヨハンに付き添ってきたメイドを見る。


「使用人の簡易なベットありますよね。男二人くらいで運んできてもらえます?あとマットレスと布団も。短時間なんで簡易のものでいいですよ」

「あ……、その…」


だが、メイドは戸惑いながらエディスを見た。

エディスはじろっとシルビアを見る。


「何だい?エディス君」

「はぁ………全くもう…………」


エディスは大きくため息をついた。


「今回だけ特別だからね。そうゆう事だから、シルビアの言った用意をしてくれ」


その言葉に、メイドは返事をして一礼するとすぐ部屋の外に出た。


「いいのか?」


ルオークがやってきてエディスに聞く。


「………ヨハンも来てしまったし、今回だけだよ」


エディスはもう一度ため息をつき、自分の服をつかむヨハンを見た。ヨハンはエディスを見ながら嬉しそうな笑みをうかべている。


「兄様、ありがとう」

「特別だよ。ルオークもヨハンがいていいかな?」


すると、ルオークはヨハンの頬をツンツンとつついた。


「俺も特別許してやる。あー、今日は外には出れないな」

「だからオセロやってればいいんだって」


そう言ったシルビアをしらっとルオークは見た。


「みかけがテンション下がるんだよな。っていうか、お前本当やりたい放題だな。俺らの事といい、ヨハンの事といい」

「そうかな?僕の基準との違いを述べてるだけなんだけど。それに年上のお兄さんとしての威厳もあるしね」


それもあるけれど、非現実世界過ぎて、何してもいいような気になってしまってるのもある。それを叶える権力も財力も持ち合わせているのも増長する要因だ。


「僕を止められるのはもう陛下か両親だけかもしれないな」

「はあ?調子のっちゃってんの?」

「のっちゃってる」

「げっー最悪!」


そんなルオークは無視して、シルビアはヨハンへと手を差し出した。


「初めまして。シルビアって呼んでくれていいよ、お兄さんの友達なんだ」

「あ、は、初めまして……」

「よろしくね」


ヨハンが手を出さないので、勝手に手を取り握手をした。


「相変わらず慎みねーなぁ。こうドレスの裾つまんで、軽く会釈すんだろ、女は」

「そうなの?シルビアはいつも踏ん反り返ってたからな。前のとこではさ、握手とか、抱きしめたりする挨拶があったんだよ」

「抱きしめって……とんでもない世界だな」

「この世界だってとんでもないけど。って事で、よろしくね、ヨハン」


ニッコリ笑いかけると、ヨハンはカァッと赤くなった。


「一応王子なんだけど、さっそく呼び捨てかよ。俺もだけどさ」

「もう友達だもんね、僕ら」


シルビアはヨハンをぎゅっと抱きしめた。

エディスに少し面影が似てるけど、女の子みたいに愛らしい顔をしていて可愛い。


「ちょっと、ヨハンに変なことしないでよ」


慌ててエディスがシルビアを引き離した。


「だって可愛いいんだもん。エディスも可愛いと思ったけど、別物の可愛さだね」

「か……可愛くない!僕は男だ!」

「年上から見たら有り余る可愛らしさだよ。でも大丈夫だって、将来はいい男になるから」


ポンポンとエディスの肩を叩くと、エディスはムウとふくれた。

こうゆうとこが可愛いんだって。


「あ、あの……もしかして兄様の婚約者ですか?」


ヨハンがおずおずと聞いてきた。


「え!?ないない!あるわけない!お子ちゃまだよ!?結婚ないんてしない!」

「そうなんですか………。随分仲がいいので……」

「まぁ、師匠と弟子みたいな関係ではあるけど。ラブじゃなくてライクだから」


だがキョトンとしたヨハンの顔。

うん。通じてないよね。


そこへノックの音がし、扉が開かれた。

十数名の者が、ベットや寝具を持って控えていた。


「じゃあ………そこに置いてもらえるかな」


エディスは中央よりの場所を示した。

すぐに使用人達は素早い動きで、ベットから寝具のセッティングを完了させた。


「ありがとう。後はこちらでやるから、皆んな戻ってくれ」


エディスの言葉に、使用人達はおじきをしてすぐにその場を後にした。


「うわ〜部屋の真ん中にベットがあるって、あり得ない光景だな」


ルオークがベットを見ながら呟いた。


「そうだね………、本当に今回だけだよ。ほら、ヨハン」


エディスはヨハンの手を引いてベットに腰掛けさせる。

ヨハンはニコニコだ。


「僕こんなとこで寝るの初めて」

「父様には内緒だぞ。ほら、ちゃんと寝て」


エディスはヨハンへと布団をかけてあげると優しく笑った。


「そういえば僕も眠いんだった。一緒に寝ていい?」


シルビアはベットにドスっと腰掛けた。

ヨハンは目を丸くして、シルビアを見る。


「シルビア!ちょっと……それはさすがに駄目だよ!」


エディスがシルビアの手を引っ張ってどかせた。


「えっ、駄目なの?まだ添い寝とかしてる年齢でしょ?」


あ、お母さんは亡くなったんだった。

でも、幼稚園とかでお昼寝に皆んなで雑魚寝してたりするし…………。4歳と7歳ならありだよね。


「もう本当有り得ないな、お前は〜。婚約なんて、ないないとか言ってたけど、こんなん誰も嫁にしたがらないだろ」


ルオークの言葉にシルビアはふっと笑う。


「結婚なんてするつもりないからいいよ、別に。女になってしまったし、生涯独身かな。とか言って、将来ルオークから結婚してくれ〜って言われたりして」

「はあ!?言うわけないだろが!」

「だってルオーク、モテなそうだしさ。それに僕は将来は美人になる予定だから」

「図々しいにも程があるな……」

「エディスからも求婚されちゃったりして」


エディスを見ると、かなりの呆れ顔だ。

おっといけない。エディスと婚約なんかしたら、大変な目にあうゲームだったな、これ。


「まあ、誰とも結婚しないから。皆んなのシルビアでいるから安心してよ」


今後も二人の友人として、ずっと成長を見守っていってあげるよ。

女として結婚なんて、今はとてもじゃないけど考えられない。

夜の生活なんて、マジ無理でしょ。



その後は、結局仮眠はとらず、ヨハンも交えお手製オセロで遊んだり、連想ゲームで遊んだりしていつものように夕方まで楽しんでしまった。


姿も幼いからか、すっかり子供との遊びに馴染んできてしまったようだ。戻った時に、子供っぽくなったと言われるかもしれない。

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