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疑惑

授業も終わり、シルビアは生徒会室へと向かっていた。


春になったら、3学年の卒業と、それからすぐに入学式を経て新しい生徒達もやってくる。


その前に、現在の部活のような活動をしている研究会の視察を行うのだ。今後の人数の確認と、今年度の活動内容の確認などを行い次年度の会の活動予算の検討を行う大事な視察である。



生徒会室の扉を開くと、そこにはもうナイルとティーエの姿があった。


「1番だと思ったのに早いな。張り切ってる〜」


最近のナイルは訓練やその他の事においても身が入っているように思える。どんな心境の変化があったのかは分からないがいい傾向だ。

カトリーヌちゃんを諦めたのもその一環なのだろうか。


「ティーエに今日視察行く所の資料渡しといたのに、どこいったか分からないって言うんだよ」


ナイルはわざとらしくハァーとため息をついた。


「そんな嫌味ったらしく言わなくたっていいじゃないですか。昨日教室でも見てて、今日の昼に生徒会室に持って来たんですよ。それでテーブルの上に置いといたのに」


泣きながらティーエは唇を噛む。


「無いものは仕方ないから、研究会のとこ行ったらもう一度資料提出してもらったら?」


ナイルは昨年視察を経験してるが、ティーエは初めてなのでペアで活動してもらい、次年度はティーエにも教える役割をになってもらうつもりだが、このドジっ子は直らないなぁ。


「無くすような雑な管理をしてる奴って思われるのが嫌だ」


そう言ったナイルを涙ながらにティーエが睨む。


「僕が無くしたって言えばいいんでしょ!僕が言いますよ!」

「お前に渡しといたまま確認しなかった俺にも責任はあるし」

「僕が悪いと思ってるくせに!」

「思ってるけど、うっかり屋のお前に任せた責任がなぁ………」

「ゔ〜馬鹿にして〜!」

「別に馬鹿にしてはないだろ!ただ、いつもお前はいつも注意力散漫なんだよ!」


もはやただの言い争いのようになってしまったので、シルビアは2人の間に割り込んだ。


「こんな事で争うな。無いものは無いんだ。視察に行く時間もあるだろ、向こうはビクビクしながら待ってんだから早く行ってやれ」


言い争ったって時間の無駄だ。

その時ふと、テーブルの横に置かれたカバンが目に入った。


ナイルかティーエのか?まさか入ってるなんてことはないよな。


「あのカバン誰の?あの中は?」

「僕のです」


ティーエはあれ、何でここにあるんだろうというような顔でカバンを手に取った。そして、おもむろにカバンを開き中を覗くと照れたようにニコッと笑った。


「あの〜、あったんですけど」

「お前な〜、テーブルの上に置いたって言わなかったか?」

「そうだったんですけど、ここにあるって事は、あっ!お昼に持ってきてカバンから出さずに忘れてったんだ!」

「あ、じゃねーよ。無駄に探させて時間とらせといて」

「ごめんなさい!わ〜何で僕忘れっぽいんだろ、ホント嫌になっちゃうよ!」

「こっちのが嫌だけどな」


呆れ果てた顔でナイルは、再度大きく息をついた。


「そんな責めないで下さい!僕褒められて伸びるタイプなんですから!」


ティーエはカバンから資料を取り出し、バンと乱暴にテーブルに置いた。


「褒めるって………どこを褒めればいいんだ?」

「酷い!探せば何かあるでしょう!?」


ティーエがナイルに詰め寄る中、シルビアはティーエのカバンから落ちた紙を拾った。


メモのようだな。こうして何かしら紛失してくんだな。

大事なメモだったらどうするんだ、全く。

花の絵なんか書いてるし落書きかな。変わった形の花だな。

あれっ、これどっかで見たような……………。


「ティーエ、このメモどうしたの?」


シルビアはメモを指で摘んでヒラヒラとさせる。


「え?あっ…………えっと、それは…………」


ティーエは視線を彷徨わせ、シルビアから目を逸らす。


「こら!やましい事でもあんのか!?」

「え!?いや、無いです!何もないです!」


次にシルビアはナイルを睨んだ。


「お前か!?ティーエをたぶらかそうとしてんのは!?」

「はあ?何の話だよ、たぶらかすも何も俺はこんなにこいつの面倒見てやってるのに」

「ちょっといけないお遊びしたくなったんだろ」

「こいつのお守りしながら遊べる訳ないだろ」

「誰だって好奇心とか興味はあるだろうけど、ちょっとのつもりが道を踏み外すんだよ」

「だから何の話だよ?」

「しらを切んな!」


シルビアはメモをバン!とテーブルに叩きつけた。


「麻薬の原料だろ!まっとうに頑張ってると思ったのに、こんなのに手を出そうとするなんて!それに自分だけでなくティーエを巻き込もうと思ったのか!?」

「………は?」


目を大きく開いた驚いたナイルの顔。


ん?思ってた反応と違う。バレた!みたいな顔じゃない。


「麻薬?えっ、これって麻薬の原料なんですか!?」


ティーエがぐいぐいと詰め寄ってくる。


その必死の表情に頭の中が??となった。


「え?知らないの?本当?じゃあ、何でこんな花の絵持ってんの?」

「これは………その、姉のメモなんです」

「ティーエのお姉さん!?えっ、何でお姉さんがこんなのを?ちょっと、お姉さん大丈夫?」

「それって本当に麻薬の原料なんですか?」


そう言われもう1度メモを見てみる。

色とかもメモされてるし、こんな変わった花間違えようもない。

父上と異国の麻薬の工場の裏地にある一面のこの毒花を見に行った事があるから、実物も見ているし。


「本当だとしたら何?もしかしてお姉さんって中毒者?」


疑うようにジロッとティーエを見た。


こんな花そこら辺で見る事なんてまず無い。ティーエの様子は知らない振りをしてるふうでもないので、本当に知らないんだろう。

だとしたら、これを書いた姉が怪しい。内緒で手に入れてきてと、ティーエにお願いをしてるんじゃないのか?


ティーエは睨むような視線にも気づかず、青ざめた表情で何かを考えるように唇をキツく閉じていた。


「ティーエは知らなかったんだよな。身内がそんな中毒者だなんてショックだろうけど、このままにしちゃ駄目だよ。軽いうちならまだ処置できるからまず家族に話そう」


治安部にも届けなくちゃいけなくなるな。貴族だと隠したがる可能性があるけど、出所もはっきりさせなくちゃ被害はなくならないからここは厳しい態度でいかないと。


すると、ナイルがハァと息をついてから話を切り出してきた。


「シルビア、実はティーエのお姉さんは7年前から行方不明になっているんだ。当時この学園の生徒で、手掛かりを俺とティーエで探していてこのメモを見つけた」

「は?」


ちょっと待って。何?どうゆう事?


「あー、よく分からないよな。流れを知ってる俺も麻薬の話出されて混乱してるし。ただの落書きと思ってたのが、何でティーエのお姉さんがこんなメモを残したのか………」

「えっ?こっちはもっとサッパリ事態が飲み込めてないんだけど。ティーエのお姉さんって行方不明なの?そのお姉さんが残したメモって事?」

「まあ、そうゆう事だな」

「うわっよく分かんないんだいんだけど。何でお姉さんこんなメモを?この花の事知らないと書けないでしょ。何か関わってるの?」

「俺だって知らないって。この前、仲の良かったっていう友人が見つかってこの花について聞かれたってメモをもらったんだよ。花好きだから珍しい花探してたのかなくらいしか思わないだろ」

「何か複雑〜。いつの間にお前らそんな事したた訳?言ってくれれば手伝ったのに」


行方不明のお姉さん探しねぇ。

ティーエってば、僕を崇拝してますとか言ってたくせに、相談はナイルにしてたのか。


「正直、治安部とかが捜索しても進展がなかったのに、今更何か手掛かりが見つかるとも思ってなかったからさ。忙しいシルビアを煩わせるより、俺がティーエの満足のいくよう付き合ってやるかくらいの気持ちだったんだよ」

「お〜後輩思いじゃんか。お前が肩入れするって珍しいな。でもいい傾向だぞ」


そう言いながら、反応のないティーエを見ると蒼白になっていた。


「ティーエ、大丈夫?」

「会長………こんなもの探してたって事は姉はこの花を見たんですよね?麻薬なんて…………絶対に姉様はやらない。何か、事件に巻き込まれたんだ。どうしよう、もう生きてなかったら」

「事件に巻き込まれたかは分からないけど、この花を知ってるって事は普通ではない状況だったと思うよ」


っていうか今話を聞いたばかりの僕に聞かれたって分かる訳ないし。2人もこのメモを手に入れただけで、他の情報はないのか?

これだけじゃ、何がどうなったのかなんて分からないじゃん。


その時、扉が開き他の生徒会の面々が室内に入ってきた。


「遅くなっちゃったな。あれっ会長達もまだいたんですか?」


声をかけられ、シルビアはティーエを隠すようにスッと前に出る。


こんな青ざめて、いかにも何かありましたみたいな顔してたら追及されるに決まってる。


「これから行くとこだよ。視察を緊張しながら皆んな待ってるんだから、お前ら早く行けっての」

「会長自分の事棚に上げて〜」


ぶつぶつ言いながらも、腕を組んで仁王立ちをしているシルビアをチラチラと気にしながら各自、引き出しから資料を取り出してそさくさと行こうとした。

そのうちの1人がナイルに気づく。


「あれ、ナイルもいるじゃん。堂々とサボってんの?」

「これから行くんだっつーの。資料失くしたんだよ」

「げっ、あり得ないだろ」

「探して行くから、先行ってろよ」

「研究会の奴らもいかに良く見せるか時間かけてまとめたんだから、ちゃんと管理しろよな」


ブーイングを言いながら、生徒会の役員達は生徒会室をバタバタと出て行った。


「………とりあえず、視察が先決だな。この件を今話したところで進展はしないし、今度ゆっくり話聞かせてくれ」


そう話すものの、ナイルは了承していたが、ティーエは何やら考え込んでいた。


「ティーエはここで休んで落ち着きな。ナイル、悪いけど1人で行ってきて」

「ああ、分かった。時間も遅くなったし、俺行ってくるな」


ナイルはチラッとティーエを見たが、ティーエは無言でコクッと頷いただけだった。

ナイルも部屋を出ていった後、室内はシンと静まった。


何を考えてるのか、変に突っ走る癖があるからちょっと心配だ。


シルビアはティーエを引っ張って、椅子に座らせた。


「絶対に1人で勝手に動くな。麻薬が関わってるなれば危険な可能性がある。力になるから、まずは落ち着いて冷静な頭で今後自分がするべき事、出来る事を考えるんだ」


それに対し、ティーエはコクッと頷く。


本当に大丈夫か?まぁ、動くっていっても動きようもないだろうし大丈夫か。


視察に行かなくてはいけないので、シルビアはティーエを気にかけながらも生徒会室を後にした。




そして本当はいけないのだが、それなりのスピードで廊下を走り抜けた。


僕の役目は、生徒会役員達が適切な視察を出来ているかを監視する事だ。特定の研究会を贔屓するなどの不正を僕の選んだ役員達がするとは思えないが、第3の公正な監査があるという事が、役員や研究会にとって大事なのだ。


どれも全部見る訳でなく、ちゃんと行われてるのを確認して順々に回っていくけれど遅刻して見れないのはマズい。


生体反応を察知する魔法を広範囲で使ってるので、人と衝突することはないだろうが、この姿を見られるのは見本として良くない。

おっと、さっそく人の反応が。


ピタッと足を止め、普通に歩きだす。

角を曲がって見えたのは、キョロキョロと辺りを見回すカトリーヌの姿だった。

思わず、元きた廊下に戻りそっと角からカトリーヌを覗いた。


僕ともあろう者が何コソコソしてんだ。堂々と現れて挨拶すればいいじゃないか。


最近どうにも調子が狂ってる。


カトリーヌちゃん、もしかしてエディスを探してんのかな。

ほんのちょっとだけ、様子見てこうか。いや、時間押してるの分かってるんだけどね。分かってるよ、ちょびっとだけだよ。


カトリーヌはハッとしたように突如走りだした。

そして、器具準備室という所の前で立ち止まる。


「ここね。エディス様いらっしゃいますか〜?」


声をかけながら、カトリーヌはドアをガラッと開けた。

それから中を見回すと、何事もなかったようにドアを閉める。


んん?カトリーヌちゃん、なんつーとこ探してんの?

こんなとこエディス来る訳ないじゃん。何を思って、こんな狭い薄暗いとこ探しに来てんだろ。


「ここはいないか。あーもう、エディス様どこいんのよ!」


苛立ちながらカトリーヌはまた歩きだす。


カトリーヌちゃん本当にエディス狙いなんだ………。

う〜ん、複雑な心境。最近はすっかり忘れていたけど、僕は悪役令嬢というものなんだっけ。エディスとカトリーヌちゃんが両思いでそれを邪魔する役だとかで、最後は追放だっけかな?

まぁ、前は関係ないって思ってたけど、今は僕の物を奪おうとするのならそれなりに応戦させてもらうけど。


悪役ねぇ。僕の考える悪役は誰が見ても分かるいかにもって奴じゃなくて、誰も気づかない普通の生活をしていてそんな事をしそうにない奴。その内面はドロドロにドス黒く汚くて、平然と笑いながら……ん?これって悪役よりただのサイコ野郎だな。


僕が悪役をやるなら完全犯罪だろう。

人望の厚い正義感溢れる生徒会長である僕をきっと誰も疑わない。自分の基準でやりたいようにやってるだけで正義感なんかじゃないんだけど、周りはそう思ってる。

怒りに任せての行動はしない。穴のないように計画を立てて、冷静に…………って何考えてんの僕は?


今カトリーヌちゃんを上空から手を離し冷たい湖に沈める姿を想像しちゃった。

怖っ!自分怖っ!やばっ、とんだサイコじゃん!

うわ〜!ごめんカトリーヌちゃん!


申し訳ない気持ちで前を見ると、カトリーヌはメモを見ながらぶつぶつと言っていた。


「こことここにはいなかったから、次はどこ探そうかしら。ゲームだと選択肢があるからすぐに出会えるのに。こうゆう苦労は要らないのよね」


ん?あれっ?今なんか聞き慣れた単語が………。


「好感度上がってんのかしら?ゲームだとそうゆうの見えるのに、ホント不便なんだから。結ばれる運命なんだから、さらっと会わせてくれればいいのに。ゲーム補正とかないの?」


文句を言いながらカトリーヌはメモをポケットにしまうと、また歩きだした。


一方、シルビアはその場に立ち尽くす。


は?今のどうゆう事?

カトリーヌちゃんがゲームって…………。まるでここがどうゆう世界か知ってるような…………。


あれ?思えば、ここは僕の夢が作り上げた世界じゃなかったっけ。

目覚める事もなく、当たり前に毎日がやってくるので、もう随分その事を考えなくなってたけど、きっと寝たきりになっている僕の脳内がゲームの影響を受けてこんな世界を作り出してるんだろうと思っていた。


でも何でカトリーヌちゃんもゲームだとか言ってんの?結ばれる運命ってエディスと…………?何で知ってんの?

えっ…………本当にどうゆう事?

ここは僕の夢の世界なんだよね。よく出来た作り込まれた世界で、異国もあったりスケールもデカい夢の…………。


だってそんな事ある訳ない。夢じゃなかったらこれが現実だって?

ゲームの世界って何だよそれは?そんなんあるの?あり得ないだろ。どうゆう仕組み?えっじゃあ僕は本当に死んだってこと?

死ぬとこうゆう世界が待ってんの?


思考が超回転でぐるぐると回る。


立ちくらみがして、シルビアはその場に座り込んだ。


なるようにしかならいと、これまで深く考えずに生きてきた。

でもそれは1人だったからだ。こんな非現実なの、僕の夢の中の世界の出来事だと思ってたからだ。


カトリーヌちゃんも僕と同じだったら…………?

何馬鹿な事考えてるんだ。そんなのある訳ないだろ。

でも……………。


思考が追いつかない。


カトリーヌちゃんと話したい。問い詰めたい。

でも焦ったら駄目だ。

冷静によく考えてから行動しろ。

もう少し観察してみた方がいい。もっと確実になるまで。

焦るな、落ち着け……………。



けれど、その日は冷静にはなれず、出遅れた監査でも気がつくとその事ばかり考えてしまっていた。

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